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アメジストの軌跡  作者: JEDI_tkms1984
新たなる脅威篇
89/119

6 予言を覆す力-8-

「おまたせ!」

 ライネはすぐに戻ってきた。

 航空戦力は後退を始めている。

 当然、敵の攻勢は激しくなり、防御に回る従者たちも忙しくなる。

 シールドを展開しているシェイドも限界が近いように見える。

 汗が頬をつたう。

 呼吸も荒い。


「お、おい!? 大丈夫なのかよ……!?」

 どこか怪我をしていないか、とライネは気が気ではなかった。

「平気、です……それより――」

「ああ、伝えたぜ! 数分もかからないらしい。アタシはどうしたらいい?」

 シェイドは微笑した。

「ここに――」

 分かった、と答える代わりに彼女はうなずく。

 辺りを見回し、死角から敵が狙っていないか窺う。

 今度こそ、護衛としての務めを果たさなければならない。

 いざとなれば身を挺してでもシェイドを守る!

 ライネはそう心に決めたが、これは忠誠心などではない。

 友情とも恋慕とも少しちがう。

 彼女にも自覚できていない想いが、アシュレイに任された務めを果たそうとしていた。


(…………!!)

 向こうでイエレドが手を振った。

「合図がきた! 上の部隊が離れたって!」

「は、はい!」

「でもすぐに戻って来るぞ!」

「充分……です!」


 シェイドの提案を聞き入れたイエレドだったが、無条件というワケではなかった。

 兵法の基本から考えても現状、後退や撤退は愚策だ。

 避難所やこの町を守る、という目的が果たせなくなる。

 そこでイエレドは彼の意思に従いつつ、背く方法をとった。

 それは一度は航空戦力を後退させ、間もなく前進させるというもの。

 これならシェイドの命令――お願い――に従ったことになるし、防衛線も下げずに済む。

 皇帝の意思を尊重しなければならない従者の、苦肉の策である。


「…………!!」

 深く息を吸い込んだシェイドは、広げた両手にミストを集めた。

 この辺りは採掘場が多いせいか、空気中のミスト量が多い。

 半球状のシールドが輝きを増していく。

 不思議なことに周囲のミスト濃度が高くなると、疲労感が和らいでいく。

 敵の攻撃がにわかに激しくなった。


 だが音も、光も、熱も、爆風も――。

 まるでアメジスト色がそれらをまるごと包み込んでしまったみたいに、地上に届かなくなる瞬間があった。

 それを唯一感じたこの少年は、充分に蓄積されたミストを――。

 やや躊躇いがちに上空に向けて放出した。

 ひときわ強く、目が眩むほどに輝いたドームが、まばたきひとつする間に数倍に膨れ上がった。

 シェイドを中心に放散されたアメジスト色の穹窿(きゅうりゅう)が、上空に群がる敵機を貫いた――その瞬間。

 彼らが地上にもたらした熱と光と衝撃を、彼らは同じだけ浴びた。

 半透明のカーテンを通り過ぎた攻撃機が次々に大破する。

 正面から飛び込んだ1機が凝集したミストに阻まれ跡形もなく砕け散った。

 慌てて数機がドームの上を滑るように旋回する。

 だが遅すぎた。

 アメジストに主翼を食い破られた機体は、炎をまき散らしながら彼方の荒れ地へと落ちていった。





 オルドン艦長は臆病で浅慮で、そして少しだけ貪欲だった。

 一進一退の攻防――実際には彼らはわずかに優勢だった――が続き、エルディラント軍がついに撤退を始めた!

 しょせんは田舎の廃墟を守る小隊。

 こんな辺境の地で命を危険に晒すのは割に合わない、と考えを改めたのだろう。

 ……と、この老獪は思ってしまった。

 根拠のない思い込みではない。

 戦略面から言っても、エルディラント軍がこの地を防衛することに利益がない。

 おおかたシェイドを先に避難させ、次いで軍も引き上げるつもりなのだろう。

 小さな戦いで無難に功績を積み上げていったオルドンは、単純にこのように考えた。

 それが大きな誤りだと気付かされたのは数分後のことであった。

 眼下に輝く半球が膨張し、それに巻き込まれた攻撃機が大破した!


 ――との報せを受けた時には遅かった。

 勢いに乗じたオルドンは乗艦を前に出し過ぎた。

 艦体下部のシールド出力を上げるよう命じた時には、すでにアメジスト色のドームが通り過ぎていた。

 装甲は表面から焼き剥がれ、砲門は無残に押しつぶされた。

「損傷度、40パーセントを超えました! 危険です!」

 手足をもがれ、戦闘能力を奪われこそしたが墜落には至っていない。


(いったい何が起こった……?)

 状況を把握できなければ命令の下しようもない。

 彼は情報収集に努めようとした。

 だがその必要はなかった。

 何もしなくても味方の甚大な被害が()()()()()()となって次々に届いたからだ。

「いったい――」

 最後に届いたのは、敵艦からの降伏の勧めだった。

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