6 予言を覆す力-1-
「こんなのは予定にないぞ」
年齢のせいで白くなり始めた長髪をかきむしりながら、オルドン艦長は憎々しげに言った。
「廃墟を焼け、が命令のハズだ。なのになぜ戦闘が起こる? 誰か説明できるか?」
見るからに狡猾そうなこの老翁は、わざと困らせるような口調で部下に問うた。
「い、いえ……それは」
もちろん答えられない。
目の前で起こっていることは、ここにいる誰もが想定していなかったからだ。
”プラトウのすべてを焼き払え”
クライズデールという人物から受け取った指示はシンプルだった。
シェイド政権を打倒した暁には相応の報酬を約束する。
これは破格の条件だった。
なにしろプラトウには焼き払うほどのものは残っていないのだ。
大掃除を終えたあとの、最後の仕上げよりも簡単な仕事だ。
――そう思っていたが、それはたんなる楽観視だった。
「敵機、来ます!」
乗員が叫んだ。
「撃ち落とせ!」
オルドン艦長は腹立たしげに言った。
プラトウには先客がいた。
彼らにとっては悪いことに、簡単だったハズの仕事を邪魔する存在だ。
「最も近い艦に攻撃を集中させよ。地上を焼くのはその後だ」
戦況はよろしくない。
艦数は同じだが、こちらは戦闘向きではないからだ。
対して相手は防衛戦に長けた構成で、いずれもシールド出力が高い。
長引けばそれだけ不利になる。
彼は思った。
これは報酬の上乗せをしてもらわなければならない。
地上は早くから激戦区となっていた。
護衛の艦隊が戦力を広げた頃には、正体不明の敵勢力はプラトウを射程に収めていた。
だがその砲塔は地上めがけて火を吹かない。
艦船同士の激しい撃ち合いになっていたからだ。
しかしだからといって地上が安全というワケではなかった。
「南側に回れ! 避難所に近づけるな!」
民間人を含めた歩兵隊は扇状に布陣する。
東の空から放たれたのは多数のドール、攻撃機という顔ぶれだ。
「どうか……くれぐれも前に出られませんように!」
兵士のひとりがシェイドをたしなめる。
前線で戦いたいという皇帝の意思に逆らうことはできず、といって危険に晒すワケにもいかない。
困った彼らは、”シェイドよりもさらに前に出る”ことで問題を解決することにした。
「は、はい! 大丈夫です!」
渡された銃を大事そうに抱えながら、ぎこちなくうなずく。
こちらにも戦力として多くのドールが投入されており、その姿にまだ慣れないシェイドは無意識に距離を置いた。
「第一隊、前へ!!」
無数の光弾が飛び交う。
資材や丘陵を盾にできる分、こちらが有利だ。
衛兵に守られながら、シェイドも銃で応戦する。
相手はドールだから安否を気遣う必要はない。
真っすぐに放たれる光は5回に4回の割合で外れた。
(これ……難しい……!)
数分前に使い方を教わったばかりの彼には手にあまる武器だった。
しっかりと狙いをつけているハズなのだが、光弾はそれていく。
あせり、さらに発射時のわずかな反動も手伝い、迫るドールの迎撃にはいたらない。
一方、やや離れた位置にいるフェルノーラの射撃は見事なものだった。
ドールの動きが緩慢なせいもあるが、光弾は的確に胴体を撃ち抜いていく。
「あの子、なかなかやるじゃん」
シェイドと同じく、扱い慣れない銃に悪戦苦闘しながらライネが言った。
頭上を敵の攻撃機が飛び越えた。
向かう先にあるのは避難所だ。
後方に待機していた対空車両が一斉に火を噴いた。
鋭く、空気を裂くような音と光が天に伸び、攻撃機の翼を焼いた。
だが迎撃を免れた数機が地上めがけて攻撃をしかける。
「…………!!」
地響きとともに外壁の一部が無残にもえぐり取られた。




