5 復讐の始まり-6-
「僕……やっぱりここに残ります!」
口調は力強く。
しかし表情は従者たちに伺いを立てるように。
「なに言ってんのさ!?」
なんとなくそう言い出しそうだと感じていたライネが真っ先に制する。
「ここにいちゃ危ないんだって!」
「そんな危ない場所にみんなを残していくんですか!?」
「それは艦を置いていくから大丈夫だって――」
「だったら僕がいても大丈夫ですよね?」
切り返しの早さにライネは困ったようにイエレドを見た。
「シェイド様、どうか聞き分けてくださいませ。御身にもしものことがあれば――」
国が傾くおそれがある、という意味の言葉を彼は分かりやすい表現で伝えた。
しかしこれまで周囲に流されてきた少年は首を縦に振らない。
「ここで逃げるような僕に……これから先、何ができると思いますか……?」
「………………」
その一言に鼓舞されたのはプラトウの民だった。
今回もまた、逃げ場のない戦いだ。
ちがうのは攻めるのではなく、守るということ。
それをできるだけの戦力は――ある。
「なあ、いったいどうなってるんだ? 今度は誰がこの町を狙ってるんだ?」
小柄な男が訊いた。
見るからに臆病そうな彼は身の振り方を探っているようだ。
「政府に敵対する勢力は数多くあります。正体はまだ特定できていませんが、おそらく――」
イエレドは遠慮がちにシェイドを一瞥すると、小さくうなってから続けた。
「現政権を快く思っていない連中でしょう。それだけで動機は充分です」
「なんだよ、それ? 俺らを苦しめてきたペルガモンならまだしも、この子が何をしたっていうんだよ!?」
この場でその質問をしないでくれ、とイエレドは思った。
前政権のほうが居心地が良かった人間が数多くいる、などとどうして告げられようか。
「シェイド様――」
それよりも彼の安全の確保が急務だ。
彼は避難するよう勧めようとしたが、
「逃げません。こんな状態でもここは僕の――僕たちの町なんです……」
やんわりと、しかし芯の通った声でシェイドは拒んだ。
「それがシェイド様のご意思であれば……私たちもこれ以上は言いません」
イエレドは観念したように従者たちに向きなおり、戦闘態勢をとるように伝えた。
「ちょっと待ってくれよ! それでいいのかよ!?」
ライネだけは納得していない様子だ。
「シェイド様のご意思だ。全力でシェイド様を――と、この町を守るのが私たちの役目だ」
こうなると彼の切り替えは早かった。
滞空している艦隊に連絡し、プラトウ防衛を要請する。
ただちに艦から放出された多数の輸送機が一斉に降下を始めた。
底部に青白い光を灯らせたそれらは滑るように着地すると、カーゴルームから兵士とドールを吐き出した。
「我々がお守りします!」
避難所を中心に数百を超える兵士とドールが陣を張る。
「よろしく頼みます」
従者は戦いのプロではない。
本格的な戦が起これば、彼らの出番はなくなる。
「所属不明の艦船がこちらに向かってきている。皇帝か――この地を攻撃対象にしているのは間違いないようだ」
部隊長が低い声で言った。
獣のような鋭い目は東の空に向けられている。
(ケッセルか……)
イエレドは思った。
シェイドがプラトウにいることを知っている者は限られている。
従者であればエルドランを発つ際に行き先も分かっているハズだから、早い段階でこの状況を作り出せるだろう。
(この騒ぎに乗じて逃げ出さないように見張っておく必要があるな……)
ちらりとライネを見やる。
彼女はまだシェイドが残ることに不満そうだ。
「お前の能力を見込んで頼みがある」
「ん? アタシに?」
「これから激しい戦いになるだろう。シェイド様のことだ。自ら前に出ようとなさるにちがいない」
「まあ、そうだろうね」
この数日で彼のことはだいたい分かった。
臆病そうなのにいざというときは危険をかえりみない勇敢な男の子――それが彼女の見た彼だ。
「シェイド様をお守りしてほしい。もちろん私たちもそのつもりだが、万が一ということもある」
彼はケッセルを監視するつもりでいた。
尋問の手ごたえから、あれ以上の情報を引き出せるとは思えなかった。
つまりイエレドにとって彼を生かしておく理由はない。
尋問なら他に捕らえた者にすればいい。
となればもしあの男が脱走を図りでもしたら――最悪の場合、手にかけなければならないかもしれない。
そんな役をライネにやらせるワケにはいかない。
「――ああ、分かってる」
元よりそのつもりだ。
彼女は自分に言い聞かせるように強く頷いた。




