4 暗躍-2-
被害が少ないとあって、こちらは静かだった。
避難者たちの表情にもいくらか余裕があり、スタッフにも落ち着きがみられる。
「ご無事でなによりです」
所員が青白い顔で一行を出迎えた。
「そちらの方にお聞きしました。道中、何者かに襲われたそうで――」
トラブルこそあったが物資の大半は届いている。
彼は避難所を預かる者として補給の完了とそのために動いた人員の無事に安堵した。
「たしかにこの辺りには野盗の類がおります。実入りの多い補給車を狙ったのでしょう」
相手が新皇帝と知ったこの男は卑屈なほど頭を下げた。
民の生活もままならないため、充分なもてなしをすることができない。
そのことを詫びると、
「お手伝いに、来ただけですから……」
落魄した様子でシェイドが返す。
その理由を察したフェルノーラが何かを言いかけようとしたが、
「あ、そうだ! せっかくだから顔見せに行きなよ。ここの人たちも喜ぶんじゃないか?」
それより先にライネが彼の背中を押しながら言った。
「え? あ、そうですね……」
曖昧に頷くシェイド。
「私も――私もついていくわ」
彼女に視線を投げられたフェルノーラはすぐに察し、シェイドに慰問するように促した。
(たいしたもんだね)
その機転に舌を巻きながら彼女は従者のひとり、ケッセルに耳打ちする。
「ちょっと話したいことがあるんだ」
声をかけられた彼は露骨に嫌そうな顔をした。
いくらアシュレイの推薦とはいえ、ライネは警備隊に過ぎない。
従者である自分たちと対等の言葉遣いをするとは何事か、という不満がその顔色に表れていた。
「どうかしたか?」
「うん、ちょっと怪しいヤツがいるんだ」
躊躇いがちにイエレドの名を出す。
不審な動きを見せていること、彼が襲撃に関わっているかもしれないことを告げるとケッセルの顔つきが変わった。
「そうか……お前も気付いていたのか……」
「ん……! お前も、って……?」
「彼の挙動については私も見ていた。たしかに疑わしい点が多い――が、確証がない」
この爬虫類のような双眸の男は、シェイドに同行して施設の奥に消えていくイエレドを目で追った。
「周囲には常に我々がいるから表立って何かをするとは思えないが――それでも警戒は必要だな」
ライネはこの時、不覚にも気を緩めてしまった。
自分の洞察力が奏功したという事実に。
自身の観察眼が認められたという満足感に。
「お前に頼みがある。奴を監視しろ。何をしでかすか分からん。目を離すな」
「分かった。注意する」
伝えるべきは伝えた。
複数の監視の目があれば陰で何かをやろうとしても誰かが察知するだろう。
得意気に頷いた彼女は急いでシェイドの後を追いかけた。




