第6話 推しに会うチャンス!
毎度毎度誤字すみません。
報告頂けるの本当にありがたいです。
ありがとうございますm(*_ _)m
「なぁ、アリス」
「なに?」
「リリアンヌ嬢に会ってみるか?」
私とフェリクスの婚約が決まってから、早1ヶ月。
その間、フェリクスはかなり頻繁に我が家へ足を運んでいた。
時には手土産なども持参しながら、足繁く通って来る。
殆ど3日と空けずに来ているのだ。
今や私の家族と使用人達からは、身内扱いをされている。
傍から見ればガーデンパーティで見初めた婚約者に夢中な王子、といったところだろうか。
フェリクスがそう周囲に思い込ませたい様子だったので、私も素直にそれを受け入れている。
そんな中で私と彼の関係性も少しずつではあるが、変化をみせてきていた。
先ず大きく変わったのが、私からフェリクスへの呼び名が愛称になったことだ。
私はフェリクスを「フェル」と呼ぶ。
それから、口調がかなり砕けた。
最初は私も相手が王子であることを考慮して敬語を話していたが、フェリクスがそれを嫌がったのだ。
曰く「オレもアリスも元は日本の一般人だろ?同じ立場みたいなもんだし。それに推しの幸せを守る同志でもあるんだから、堅苦しいのはナシにしよう」だそうだ。
私もフェリクスのその申し出は、有難かった。
フェリクスにはある種の仲間意識のようなものを抱いていたので、気安く話せるようになるならその方がずっと楽だ。
フェリクスもきっと、前世の話を気兼ねなく出来るのが私だけだから気楽なのだろう。
フェリクスは私や私の家族以外の前ではゲームの“フェリクス”と同じくあまり喋らないキャラで通しているらしかった。
それは記憶を取り戻す前と今とで変わってしまった性格を隠すためだ。
私はともかく、あれだけ無口で感情表現に乏しいという設定だったフェリクスがいきなり饒舌に喋り出したら、確かにそれは周囲の者達からしたら天変地異の前触れかと思える事態であるに違いない。
「え?会えるの?リリアンヌさまに?」
思わずソファから立ち上がって、身を乗り出してしまった。
心の端に少しだけ「こんな風に婚約者を前に身を乗り出すなんてはしたない」と分かってはいたが、本能的に動いてしまった。
「相変わらず、リリアンヌ嬢のことになると凄い勢いだな」
フェリクスは苦笑して、それでも話を続けてくれた。
「明日、リリアンヌ嬢とステラリア公爵が王宮に兄上のご機嫌伺いで来ることになってるんだ。その時にオレも同席出来そうだから、アリスもどうかな?って」
「行く!ぜったい行く!」
若干食い気味に返事をする。
わーい!
リリアンヌ様に会える!
こんなに大好きなのに、私は生リリアンヌ様に未だお会い出来ていない。
ほんと、こんなに大好きなのに。
「じゃあ、明日来いよ」
「うん!」
「一応オレからの誘いってことで馬車は手配しとくから」
「え、いいの?」
「お前はオレの婚約者だからな」
「ありがとう、フェル」
親切なフェリクスのおかげで、足の心配もない。
私はホクホクにやにやしながら、明日を心待ちにした。
ー次の日ー
いよいよリリアンヌ様に会える。
迎えに来た馬車から降りて王宮の地に足を着けた途端、私の心臓が緊張で張り裂けそうになった。
私の出迎えのためにわざわざ王宮の入り口で待っていてくれたフェリクスは、私の緊張しまくっている顔を見て苦笑する。
「お前、凄い顔してるぞ?」
凄い顔って、失礼な。
緊張顔だ。
「だって、わたしのあこがれのリリアンヌさまに会えるのよ?きんちょうするにきまってるじゃない」
ああぁ...ダメだ。
手が震える。
というか、全身が震えてる。
ぷるぷると震えて動かない私を見かねて、フェリクスがそっと手を取った。
そのままぐい、と引かれる。
私はそうやって手を引かれるまま、歩き出した。
「お前の気持ちはわからんでもないから、連れてってやるよ」
「...ありがと」
フェリクスは前を向いたまま、素っ気なく言う。
私はそれが有難くて、素直に従った。
「ちなみにわたしのきもちがわからなくないって、フェルはきおくをとりもどしてからアドニスさまとお会いして、どうだったの?」
フェリクスは確か、前世でアドニスが最推しだと言っていたはずだ。
私がこんなに緊張しまくっているのが理解出来るということは、フェリクスも同じ経験があるのだろう。
しかもフェリクスの場合、アドニスは現世での実の兄。
推しと血が繋がっている現実とどう向き合えたのか。
そう思って何の気なしに訊いたら、フェリクスはピタリと足を止めた。
「1週間だ」
「え?」
「記憶を取り戻してから1週間、オレは兄上の顔を見ることが出来なかった」
「まぁ...」
「しかも声を聞くだけで興奮して真っ赤になるから、オレが兄上に懸想している、なんてとんでもない噂が立った」
「...あー...」
よくあるやつだ。
推しに恋愛感情を抱いていると勘違いされるやつ。
私達は確かに推しを愛してる。
しかし、それは恋愛感情なんかじゃあない。
断じてそんな欲の発生するような感情ではないのだ。
推しには健やかに幸せになってほしい。
その隣に自分の存在なんて要らない。
ただただ、推しの幸せだけを願っている。
...欲を言えば、幸せになった推しの笑顔を陰日向に見守りたい。
自分が幸せにしたいのではない。
幸せになってほしいのだ。
私もフェリクスも、その気持ちは同じだった。
「推しの隣は推しに相応しい相手であって、オレじゃない...!」
「それな」
「だろ!?」
「わかりみが深い」
「だよな!?」
くるっと私に向き直るフェリクス。
その目には、アドニスという推しへ恋をしているという誤解を周囲に与えた時の事を思い出しているのか、涙が浮かんでいた。