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閑話休題2 第二王子とダンスレッスン

感想ありがとうございます。

励みになります。がんばれます(ง •̀_•́)ง



毎日更新がなかなかにしんどい(笑)

頂いたお言葉を大事に頑張ります!




フェリクスと婚約してから数日。

私は今日も今日とて、淑女教育に勤しんでいた。

今日の項目は、ダンスだ。


「はい、ワン・ツー・スリー、ワン・ツー・スリー!お嬢様、またお顔が下がっておりますよ!前を見て!微笑みを絶やさず!」


デルマー夫人の熱血教師っぷりは本当に伊達じゃない。

わざわざ私のためだけに男性パートまで覚えて、それはそれは熱心に指導してくれている。

けれどやはり、彼女と幼い私では身長差があり過ぎて、正直かなりキツイ。


いや、きっと身長差無くてもこのスパルタ指導はキツイかもだけど。


それでも、身長差が丁度良い相手と踊った方が練習になりそうだ。


「アリス、ちょっと良いかい?」


めいいっぱいダンスを踊って踊って踊りまくっていた私の元へ、クリス兄様がひょっこりと顔を出す。

ヘトヘトなところに来てくれたおかげで、デルマー夫人は「クリストファー様がいらっしゃったので、本日はここまでと致しましょう」と切り上げてくれた。

兄様、GJ。


「どうなさいましたの?クリス兄様」

「先程王宮から先触れが届いたんだ。フェリクス殿下が我が家に来られるそうだよ」


フェリクスは、あの後私の父のアデルバードの前で改めて正式に婚約の申し込みをしてくれた。

父も予想していたのか、快くフェリクスを受け入れていた。

あの非常に穏やかかつ私に有無を言わさない笑顔で。


まぁとにかく、私はあの日第二王子の婚約者と呼ばれる存在になったのだ。


その婚約相手が、今から家へくるという。


「まあ、フェリクスさまが?」


何かあったのだろうか。

あれから一度手紙をもらったが、今日来る予定だとは聞いていなかった。


とりあえず。

婚約者であるとは言え仮にも一国の王子に会うというのに、汗まみれのぐちゃぐちゃフェイスはいただけない。

私は急いで湯浴みをして、出迎えの準備を整えた。


バタバタと髪を乾かして、正装用のドレスを着て。

全部の準備が整った!と思ったら、計ったかのようなタイミングで侍女が「殿下のご到着です」と告げた。


あ、危なかった...。

あとちょっとフェリクスが来るのが早かったら、バッタバタしてるのを見られるところだった。


「よぉ、アリス」


出迎えた私を見て片手を上げて気さくに挨拶をするフェリクスは、雑な仕草なのに普通にキマっていた。

それになんだか面白くない気持ちになる。


なんでこの男はこんなに格好良いのよ。

まだたかだか年齢一桁のお子様のクセに。

...いや、まあ、乙女ゲームの攻略対象だからイケメンなのはしょうがないけどさ。


「なんだよ?」


私の言いたいことは自然と滲み出ていたらしい。

フェリクスが片眉を上げて訊いてきた。


「いいえ?なんでもありません。ようこそおこしくださいました、フェリクスさま」


にっこり。

有無を言わさない笑顔で、淑女の礼をする。

この笑顔は父譲りだ。


「で?本日はどのようなご用向きでいらしたんです?」

「いや、大した用じゃないんだが......って、なんだその明らかに面倒臭い顔は」

「まぁ!めんどくさいだなんて、どんでもありません。ただ、大した用もないのにとつぜんこんやくしゃの家をたずねるなんてだいにおうじでんかはずいぶんおひまなんだな、と思っただけですわ」

「いや、普通に嫌味じゃねぇかよ、ソレ」


フェリクスが呆れた様子で言うが、そんなの知ったことか。

いきなり来るやつが悪い。

デルマー夫人のスパルタダンスレッスンが短縮されたのは嬉しいが、こんなに急いで身支度を整えなければならなかったのでは意味が無いのだ。


「今日は何をやってたんだ?」

「とくになにも。ふつうのしゅくじょきょういくをうけていただけです」

「へぇ、淑女教育ねぇ...今日の内容は?」

「ダンスですわ」

「お前、その年でもうダンスレッスンが始まっているのか?」


凄いな、と言われ少々驚いた。


え?早いの?

私の年齢でダンスレッスン始まってるのって、早いの??

え、ちょっと待って待って。

聞いてないぞ?


意味がわからず固まっていると、フェリクスが感心した様子で言う。


「だって、ダンスなんて普通はデビュタントの1年前くらいに始めるもんだろ?」


オレや兄上は王子として早めに習い始めたけど、と言っているフェリクス。

王族は例外として、殆どの貴族は12歳頃にダンスレッスンを受けるのだそうだ。

そう言う彼を前にして、私は驚愕した。


この国のデビュタントは大体が13歳になる年に行う。

丁度、学園に入学する年だ。

学園で開かれる入学式の後の舞踏会が、初めての社交の場となる。

そのデビュタントに合わせるのであれば確かに、ダンスレッスンは1年くらい前である12歳頃からで問題は無いだろう。


つまり。

私は父とデルマー夫人に騙されて、本来よりも随分早くにダンスを習わされていたのだ。


く、悔しい...!

おのれ、クソオヤジ!!


心の中でそう叫ぶ。


「知らなかったのか?」

「ええ、まったく。やたらとむずかしいとは思いましたが、こういうものなんだろう、と思っておりました」

「それでレッスンをこなしてしまえるのは、きっとお前がそれだけ優秀だということだろう?侯爵もアリスなら出来ると思ったから習わせたんだ。早めに習得して悪い事はないからな」


思いがけず手放しで褒められた。

カッと頬が熱くなる。

きっと今の私の顔は、紅く染まっていることだろう。


私は褒められることに対しての免疫がまるでない。

だから少しでも素直に褒められると、恥ずかしくていたたまれなくなってしまうのだ。


そんな羞恥に耐えている私に、フェリクスは笑顔で言った。


「なぁ、一曲オレと踊ってみないか?」

「え?」

「幸いオレはダンスレッスンをもう受講終わったから踊れるし、お前もあんな背の高いデルマー夫人が相手をするよりもずっと踊りやすいと思うぞ」


うきうきとした様子でそんなことを言うフェリクス。

えぇー、と思ったが、確かにフェリクスとは今後踊ることが多いだろうから今から慣れておくのは良いことだ。

しばらく考えてからOKすると、フェリクスは嬉しそうに破顔した。


私は部屋の隅に控えていた侍女にホールと曲のレコードの準備を頼む。

さすがに王子と踊るのにこの部屋で、とはいかない。


「ダンス、おすきなんです?」

「ああ、まぁな。前世ではスポーツが好きで大学でもフットサルのサークルに入ってたんだが、この国でオレの立場じゃあ出来ないだろ?だから、身体を動かせるダンスは結構好きなんだ」


なるほど。

運動がしたくてしたくて仕方ないんだな。


「他にも乗馬と剣術もやってるけど、お前と一緒に楽しめるのはダンスだろ?」


茶目っ気のある言い方に、思わず私も笑ってしまった。

なんだか、ゲームのクーデレなフェリクスよりも今のフェリクスの方が可愛く思えてくる。


「なら、しっかりおあいてしてくださいね」

「もちろんだ」


侍女が戻って来て、準備が整ったことを教えてくれる。


私達は談笑しながら、ダンスホールに向かった。


我が家のダンスホールは、王宮のダンスホールの4分の1くらいの大きさだ。

とは言っても、前世の感覚で言えばめちゃくちゃ広い。

結婚式場の大きめな催事ホールが2つは入ると思う。

一応由緒ある高位貴族の端くれなので、それなりにパーティを開いて社交の場にしていたりするからだ。


私は侍女にワルツの曲を頼む。

それを黙って見ていたフェリクスが、不意に芝居がかった仕草で腕を差し出した。


「ではお嬢さん、一緒に踊って戴けますか?」


これは、男性が目当ての女性をダンスに誘う文句だ。

私も笑顔で応える。


「ええ、よろこんで」


そのままフェリクスの手に自分のそれを重ねて、ホールの真ん中まで進む。

すると、丁度曲が始まった。

ここ最近で聞き慣れたワルツが、広いホールに響く。

私とフェリクスは、曲に合わせてステップを踏んだ。


あれ?何これ。

すっごく踊りやすい。


フェリクスの踏むステップと私のステップがカチッと噛み合う。

これまでの講義で踊ったどのときよりも、今が一番だ。


楽しい!


そう思ったのは私だけではなかったようだ。

フェリクスも一瞬だけ目を見開くと、楽しそうに笑みを浮かべる。


「フェリクスさま、たのしいですね!」

「ああ、こんなに踊りやすいダンスは初めてだ!」


クルクルと夢中になって踊る。

楽しくて仕方ない。

デルマー夫人に注意されていた笑顔も、意識せず自然と浮かんできた。


曲が終わってホール内が一瞬にして静かになる。

すると、パチパチと拍手の音がホールに響いた。


驚いてそちらを振り返ると、笑顔で拍手をする父のアダルバードが居た。

にこにこと私とフェリクスの二人を見ている。


「メイフィールド外務卿、今日は急に済まなかった」

「いえ、殿下のご希望は出来る限りで叶えますよ。それにしても、随分と楽しそうに踊っていらっしゃいましたね」

「ああ、アリスとオレはダンスの相性がとても良いらしい。今日初めて一緒に踊ったのだが、今までで一番踊りやすかった」

「わたしも、デルマーふじんとおどるよりもたのしかったですわ」


笑顔で話すフェリクスに私も笑顔で返す。

父も嬉しそうに頷いた。


「娘もこう言って楽しそうにしておりますし、どうぞいつでもお越しください。フェリクス殿下なら、歓迎致しますよ」


父からの申し出に、私は素直に喜んだ。


「そうですね!フェリクスさまが来てくだされば、ダンスのレッスンもきっともっとがんばれます!」


デルマー夫人とのきっついダンスレッスンがフェリクスとの楽しいダンスに変わるなら大歓迎だ。

もうあの身長差に悩まされたくない。


そんな一心で言えば、フェリクスも快く頷いてくれた。


「そうだな。アリスがデビュタントを終えれば二人で踊ることが増えるだろうから、練習しておくのも良いな」



こうして、フェリクスは気付けば3日と空けずに我が家へ来るようになった。

何度もダンスをする内にどんどん我が家に馴染み、1ヶ月ほどでフェリクスはほぼ身内扱いになったのだ。



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