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閑話休題 ヒロインとの婚約(sideフェリクス)




オレの名前はフェリクス・カーライル・ウィザリアル。

このウィザリアル国の第二王子だ。


温厚で優しい王太子アドニス・カーライル・ウィザリアルとは双子の兄弟。

けれど兄上とは見た目があまりに似ていないため、オレはよく口さがない文官や女官に「本当にアドニスと兄弟なのか?」と言われ続けている。

もちろんこの国では貴重な黒髪の王子だから、面と向かって言われることは無いが。

アドニスと本当に兄弟なのか疑われながらも、オレは不安になることなど無かった。


何故ならオレには前世の記憶があるから。

そして、今生きている世界がオレがやり込んでいたゲームの世界であると気付いてしまったから。

ゲームのキャラクター説明で、オレと兄上が本当の兄弟であることが明記されていたからだ。


前世でオレは、日本というこの国よりも科学も医療も発達した国で何処にでもいる普通の大学生として生きていた。

クソオタな姉に乙女ゲームを勧められてやり込んでいた以外は、本当に普通の男子大学生だったんだ。


そのやり込んでいたゲームのタイトルが《MAGIC LOVERS》。

剣と魔法の王国を舞台にした、恋愛シュミレーションゲームだ。


ヒロインが攻略対象との愛を育んでいく様を見届けるような気持ちで、オレはそのゲームを楽しんだ。

しかし、物語の随所で感じる違和感。


...このヒロイン、常識無さすぎじゃね?


特に最推しであるアドニスのルートでは、一番非常識が酷かった。

王太子であるアドニスに対して無礼極まりない行動の数々。

正直、悪役令嬢のリリアンヌの方が客観的に見ても絵面的に見てもアドニスにお似合いだった。

こんな非常識ヒロインが王妃では、いずれ国を潰してしまいそうだ。


そんな風に思っていたある日、オレは死んだ。

交通事故だった。

目の前で轢かれかけている女子高生を守ろうとして、呆気なく死んだ。

しかも、たぶん女子高生も守れてなかった。

そんな格好悪い死に方だった。


次にオレがオレとして自覚したのは、兄上の婚約者のリリアンヌ・ステラリア公爵令嬢と初めて会ったときだった。


一気に押し寄せる記憶の洪水に、オレは目を回してぶっ倒れた。

そして、目が覚めたらもう日本の大学生だったオレを、一切合切全部思い出していた。


「......クスさま、フェリクスさま?」


その言葉に、オレは物思いから現実に戻る。

鈴の鳴るようなその声の主を見遣れば、彼女はきょとりと目を瞬いた。

サラサラと流れるアッシュブロンドとふっさりとした睫毛に縁取られた大きく煌めくサファイアの眸。

見惚れるような美少女が、オレを見ている。


立ち絵で見るより生の方が数倍可愛いよな。

今の中身は結構強い女子だけど、コイツ。


「どうかされました?」

「ああ、悪い。なんでもない」


オレの隣で小首を傾げるこの美少女の名前は、アリス・メイフィールド。

本来ならこのゲームのヒロインとして生きるはずの少女だ。


メイフィールド侯爵家へ向かう馬車の中で、この後のことを考える。


オレは今から彼女の家であるメイフィールド侯爵家で、アリスとの婚約を正式なものにする為の婚約誓約書を書かねばならない。

既に侯爵へ先触れを出してはいるが、正直言って不安しかなかった。


メイフィールド侯爵が愛娘のアリスを溺愛していることは、有名な話だ。

そのアリスとの婚約となれば、王子とは言え許されるかどうかわからなかった。


あ、でも、ゲームのアリスはフェリクスの婚約者だったよな。

ってことは、ゲームのフェリクスなら大丈夫か?


「殿下は少々緊張しておられるご様子ですね」


今度は向かい側から声が掛かる。

オレににっこりと笑みを向けるのは、次期メイフィールド侯爵と目されているクリストファー・メイフィールド。

アリスと同じ色彩に涼やかな顔立ちは、世の女性達がこぞって求婚しそうな美形だ。


彼はにこにこと微笑ましそうにオレとアリスを眺めている。

何故だか非常に居心地の悪い思いをした。


むず痒い。

この雰囲気は、おかしいよな?

この婚約は、アリスとの協定のようなものなのに。


いつの間にか本当にオレ自身がこの婚約を望んでいるような雰囲気に、若干戸惑う。


確かにアリスは可愛い。

紛うことなき美少女だ。

ゲームで見ていた非常識さは一切無く、考え方なんかもサッパリとしていて好感が持てる。


あれ?思ったより悪くないな、この婚約。

美少女と婚約してゆくゆくは臣籍に降りて兄上を支える。

完璧な人生設計じゃないか?


そこまで考えが至ったオレは、増々緊張してきた。

握り込んだ掌に、汗が滲む。


「大丈夫ですよ、殿下。父はきっと、貴方様と我が妹の婚約を喜ばしく思います」

「...何故そう言い切れる?」

「そうですね...少なくとも今日のガーデンパーティが殿下の婚約者探しの目的で開かれていたことを、父は知っているはずですから。最初出席を渋っていたアリスを、強引な手段で参加させたのです。私にはそれが、父が殿下の婚約者としてアリスを差し出す覚悟があったのだと思えます」


クリストファーがそう言うと、馬車の扉が開いた。

どうやら、侯爵家へ到着したらしい。


「だいじょうぶですわ、でんか」

「アリス...」

「だって、でんかとわたしはどうしですもの」


その言葉に、ゲームの記憶のことが頭を過ぎる。


ゲームでは、アリスはフェリクスの婚約者だから大丈夫だ、と。


オレはもうなるようになれ!という気持ちでメイフィールド侯爵家の地を踏んだ。




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