第5話 第二王子の婚約者!?
誤字報告ありがとうございます。
とても助かります。
フェリクスと同志の契りを交わしてホクホクにこにこの私。
そして私を味方に付けて心做しか穏やかな表情のフェリクス。
そんな私達二人がパーティ会場に戻ると、何故か周囲の視線を一斉に浴びた。
「あ、やべぇ」
「?」
隣でフェリクスが冷や汗をかいている。
なにが「やべぇ」のか、私には全くわからない。
訝しむ私に、フェリクスが爆弾を落とした。
「いや、実は今日のパーティでオレは婚約者を選ぶ予定だったんだ」
「ほぅ...」
周囲に配慮してか、小声でそう耳打ちされる。
なるほど。
だからパーティに招待されたのが伯爵家以上の地位の者だったのか。
ん?あれ?
フェリクス、来てから今まで私としか話ししてなくない?
しかも、耳打ちなんかしたらめっちゃ親密な関係っぽくならない!?
私もなんだか冷や汗が出てきた。
私の家は代々外務省の大臣を務める由緒ある侯爵家だ。
父母の見目も良く、私自身も贔屓目抜きに美少女と言って差し支え無いレベル。
なんてったってヒロインだからね。
そんな家柄容姿共に良い私と第二王子。
その私達が揃ってパーティから抜けて、戻って来た。
第二王子の婚約者を決めるためのパーティで。
しかも、親密そうに耳打ちなんかしちゃってる。
いくら幼くとも、その意味くらい誰でもわかる。
本人達にそんなつもりなど一切無かったとしても。
「まさか、この視線は...」
「まあ、確実にお前をオレが見初めたと思われたよな」
うわー!
王子の婚約者にはなりたくなかったのに!
これじゃあ何の為にクリス兄様の影に隠れていたのか、わかんないじゃん!
フェリクスの馬鹿!
頭の中で盛大にそう叫んだ。
「わたし、おとめゲームをプレイするつもりはないのですけれど...」
「あのな、オレだってお前を嫁に娶るつもりは無かったんだよ。そもそもお前が参加するのが3年後だと思ってたから、今日婚約者選びをするって言ったんだし」
ジト目で言えば、フェリクスは少し慌ててそんな言葉を返してきた。
ちなみにここまでの遣り取りは全て小声だ。
周囲には一切聞こえていないだろう。
げに恐ろしきは乙女ゲームの強制力。
その結論に至った私は、己の不運を心の底から呪った。
だがしかし。
考えようによっては、これは僥倖かも知れない。
何の記憶も無いフェリクスは脅威でしかないが、彼は今や大事な同志だ。
フェリクスと推しの幸せの為の共同戦線を張ると言っても、何の接点も無い状態だとかなり難しい。
その点、フェリクスの婚約者になれば王宮やリリアンヌ様の傍らに居ても、不自然ではない。
よし、決めた。
こうなったら、フェリクスには最後まで付き合ってもらおうではないか。
元々、彼が私を連れ出したのが発端なのだから。
毒を食らわば皿まで、だ。
そこまで考えて、私は敢えてにっこりとフェリクスに笑いかけた。
「フェリクスさま」
「...なんだ?」
「これからすえながく、よろしくお願いいたしますわ」
よく通る声でそう言うと、フェリクスの口許がひくりと引き攣った。
しかし、そこは腐っても第二王子。
直ぐに状況を飲み込むと、“フェリクス”らしい表情で少しだけ微笑みを浮かべた。
おお、器用だな。
何も知らなかったら、クールなキャラの貴重な笑みに見える。
「ああ、宜しくな、アリス」
その瞬間、パーティ会場である王宮の庭が、一気に阿鼻叫喚の場に様変わりした。
「あのフェリクス殿下が微笑みを!?」
「どんな魔術を使いましたの!?あのご令嬢は!」
「というか、あの子は誰!?あんな美少女、今までのパーティには居なかったわ!」
「メイフィールド侯爵家のご令嬢ですって!」
「きぃい!家柄も申し分無い!」
うわぁ。
凄いな、この騒ぎ。
てか、貴女達は未だ年齢一桁から十代前半だよね?
そんな若い頃から女の本性剥き出しとか、逆に尊敬するわ。
「まあ、すごいわ。あびきょうかん」
「この状況でそんな呑気な感想言えるって、お前...」
「もとはといえばフェリクスさまのせいでしょう?きてんをきかせたわたしをほめていただきたいくらいだわ」
「...それに関しては申し訳ない」
「すなおでよろしい」
ふふん、と得意気に言えば、少し困った様子で首を傾げられた。
「お前、段々遠慮しなくなってないか?」
「せっかくのどうしですもの。それに、だれにたいしてもネコをかぶりつづけるのはたいへんでしてよ?」
言外に貴方も私の前では素で居たら?と告げる。
「それもそうだな」
フェリクスは肩を竦めて、また微笑んだ。
その表情に、周囲の喧騒が更に大きくなる。
こうして、私は乙女ゲームのシナリオ通りに第二王子の婚約者と相成ったのである。