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第4話 第二王子とヒロインの邂逅





「お前、アリス・メイフィールドだろ?」


人気の無い回廊の隅まで連れて来られて、開口一番にそう問われる。


私を見下ろす金の眸は、先程から凄い鋭さだ。


え、怖い。

まだ若干9歳の小僧の眼光じゃないでしょ、コレ。

めちゃくちゃ怖いんですけど。


「えぇ、そうですわ。おはつにお目にかかります」


いくら怖くとも相手は王子。

礼を失することなど出来はしない。

私はその場で淑女の礼をした。


「お前、なんでここにいる!?」


私の挨拶になど目もくれずに、フェリクスは掴みかからんばかりの勢いで言った。

その言葉の意味が分からず、私は小首を傾げる。


「なんで、と言われましても...。おうきゅうからしょうたいじょうがとどいたからですわ」

「そういう意味じゃない!お前がここに来るのは3年後のはずなんだ!なのに、なんで今...っ」


え?3年後って...。

なんでこの王子様、その事を知ってるの?


アリスが10歳の年にパーティに初参加することは、誰も知らない。

それこそ、ゲームの知識でも無ければ知っているはずがない。


「ゲームではアリス・メイフィールドが10歳になる年に招待されたガーデンパーティに参加していたはずだろ?なんで今日コイツが...しかもあんまり行動が非常識じゃないし...」


顎に手を当ててブツブツと考え込むフェリクス。

その独り言から零れる単語に、私は確信した。


「あの、フェリクスでんか」

「なんだ?」

「もしかして...でんかも前世のきおくがあるのですか?」


私の問い掛けに、フェリクスは目を丸くする。

その表情は幼くて、先程までよりもよっぽど年相応だ。

そこまで考えて、気付いた。


たぶん、この王子様も私と同じで精神年齢はもっと上だ。


「殿下も...って、まさか、お前も!?」

「えぇ。わたしのきおくではここは【MAGIC LOVERS】というおとめゲームの世界ですわ」

「だよな?お前がヒロインでオレが攻略対象...」

「そうですね。ちなみにでんかはもっとクールでものしずかなキャラですよね。そんなにペラペラ長セリフしゃべるキャラじゃありませんよね」

「うるさいな!お前だってもっと天然系設定だっただろうが。元気と愛嬌と無邪気さだけで人生勝ち組、みたいな脳内お花畑だったじゃないか」


おいおい、ボロカス言うな。

確かに元のアリスはそんな駄目底辺令嬢だったけれども。


でもそれはフェリクスにも言えることだ。

本来のフェリクス・カーライル・ウィザリアルというキャラクターは、無口でクールな一匹狼。

ゲームでは一目惚れした婚約者であるアリスに対してもあまりその感情を示すことが無かった。

最後の最後エンディングでようやくその愛を告げてくれるのだ。


クーデレ好きの私からしたらリリアンヌ様の次に好きなキャラだった。

あくまでリリアンヌ様の次に、だけど。


「すごい言われようですね、わたし」

「あの非常識加減は凄いと思うからな。...あ、まさかお前、ヒロイン至上主義か?それなら、ボロカス言って悪かった」

「いいえ、とんでもない。わたしはリリアンヌさましじょうしゅぎです」


非常識令嬢アリスなんて、推しでもなんでもない。

フェリクスの態度から鑑みると、彼もアリスの行動がおかしいと気付いていたようだ。


「リリアンヌって、兄上の婚約者の?確か...ステラリア公爵家の令嬢で兄上ルートの悪役令嬢だったよな?」


言外にお前の敵だろ?感を出されてムッとする。

私からしたらリリアンヌ様を悪役令嬢に貶めるアリスの方が敵だ。


「リリアンヌさまはアリスにきちんとしたれいじょうとしての心がまえやたいどをとるようにたしなめてくださっていただけです。あくやくれいじょうだなんて、とんでもないわ。わたしはリリアンヌさまのみなをきずつけないために、しゅくじょきょういくをがんばっているのですから」


私のその言葉に、フェリクスは口の端を持ち上げた。

ニッと悪戯っぽいその笑みは“フェリクス”らしくない。

けれど、とても彼らしいと感じた。


「なるほど。お前が非常識な行動をしていない理由がよく分かった」

「わかっていただけてうれしいですわ」


私もフェリクスににっこりと笑みを返す。


「オレも兄上ルートにだけは非常識ヒロインを乗せてたまるか、と思ってたからな。オレの前世の最推しは、兄上なんだよ。最推しが非常識ヒロインに苦労させられる未来なんて、最悪だからな」


だから私をパーティの会場から連れ出したのか。

アリスをアドニスに印象づけないために。

なかなかの推しへの愛だ。


「わたしも右におなじです」


まさか嫌々来たパーティで同志に出会うとは思わなかった。

これは正直、心強い。


「オレが実際に見た限りでは、ステラリア公爵令嬢は兄上の妃となるに相応しいと思う」

「とうぜんですわ!リリアンヌさまはすばらしいお方ですもの!」

「...お前、未だ会ったこと無いだろ」

「お会いせずともわかります!わたしのさいおしですから!」

「理屈が通らないが...まあ、いいか」


そう言ったフェリクスの雰囲気が、少し柔らかいものに変わる。

それはきっと、彼本来のものなのだろう。

そう感じると好感が持てた。


彼は今、リリアンヌ様に好意的だ。

ならば、せっかくの前世の知識を共有しない手はない。

文殊の知恵とまではいかないが、一人よりも二人の方が良い。


「でんか」

「なんだ?」

「リリアンヌさまとアドニスさまをしあわせにするために、わたしと手をくみませんか?」


そう言って微笑めば、フェリクスもまたニヤリと笑った。


「そうだな。お互いの最推しのために手を組むのも悪くないな」


そして私達は固く握手した。

さながら、戦友を得たときの如く。





「ところで、でんか」

「なんだよ?」

「でんかは前世では女性だったのですか?」

「は?」

「だって、おとめゲームをやってるだんせいって、少なかったと思うんです...」

「ああ、オレの姉貴が重度のクソオタだったんだよ。そのクソオタ姉貴とくだらねぇ賭け事して負けた罰ゲームでプレイしたら、ハマった」

「...なるほど」

「姉貴にはしてやられたと思ったけど、こうやって姉貴の最推しに転生した今となってはラッキーだったな」


取り敢えず、フェリクスの前世のお姉さん、GJです!





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