第11話 悪役令嬢様の恋愛相談
今回はちょっと短めです
リリアンヌ様のご相談は、恋愛相談だ。
私はこの国で唯一、リリアンヌ様と同じ王子の婚約者としての立場を持っている。
そんな私が婚約者であるフェリクスと仲睦まじくしている中、アドニスとリリアンヌ様は前回の面会でも些か他人行儀だった。
きっと今まではフェリクスに婚約者が居なかったからこそ気付かなかった部分に、私が現れたことで気付いてしまったんだろう。
貴族同士の婚約など政略的なものが大きいとはリリアンヌ様ご自身も理解しているだろうが、想い想われる関係に憧れる気持ちも抑えきれないというところだと思う。
「リリアンヌさまは、アドニスでんかとよいなかになりたいのですね...」
私がそう言うと、一瞬でリリアンヌ様のお顔が真紅の薔薇のように染まった。
何よりも雄弁にその想いを語るその色に、私は僅かばかりの嫉妬をアドニスに対して覚えた。
くっそ!
あの腹黒王子、こんなにもリリアンヌ様に想われてやがる!
腹黒王子のクセに!
まあもちろん、リリアンヌ様が想う相手と添い遂げることが私にとっての最大の願いなので、文句は無いのだが。
多少なりともジェラってしまうのは許して欲しい。
しかし、どうしたものか。
私とフェリクスとは、彼らは状況がだいぶ違う。。
私とフェリクスは婚約者ではあるが、同志であって恋人ではない。
第三者から見れば非常に仲睦まじい恋人同士に見えるのかもしれないが、私達の関係は色々とかっ飛ばし過ぎているので何の参考にもならないだろう。
私達を手本とするならば。
「わたくしよりも年下のアリス様にこのようなことを言うのは年長者としても心苦しいのですが、どうしてもわたくしもアドニス殿下と、アリス様とフェリクス殿下の様になりたいのです」
私達みたいになったら大変ですよ、リリアンヌ様。
なんせ会話の7割はアドニスとリリアンヌ様のことなんですから。
恋人とか婚約者とかの前に、私達は推しを愛でる同志なんですよ。
ちなみに、残りの3割はダンスのことと挨拶である。
まあ、でも。
リリアンヌ様がアドニスとの他人行儀な距離を縮めたいと思って相談してくれたことはわかった。
実にいじらしい。
私がもしアドニスの立場でこんな綺麗で可愛らしい婚約者からこんなことを言われたら、悶絶する。
「わたしとフェルのように、というのはおいておくとして、アドニスでんかとリリアンヌさまがよいなかになられれば、わたしもとってもうれしいです。わたしにできることがあれば、ごきょうりょくさせてくださいませ」
というか、元よりリリアンヌ様を幸せにするためには、アドニスとの仲をとりもつのが一番だと思っている。
このリリアンヌ様からの相談は、私とフェリクスが彼らの関係性に関わる良い口実になる。
しっかりがっつり仲を深めて、アドニスにリリアンヌ様を溺愛してもらおう。
私はそう心に決めた。
そして気付く。
そうだ、私とフェリクスの乙女ゲームの知識を使って、二人の仲をとりもてばいいんだ!と。
そもそもアドニスは、攻略が進むにつれてその溺愛加減が半端ないキャラだった。
アドニスルートの別名としてファンの間で言われていたのは「でろ甘溺愛ルート」。
更にアドニスルートはメインのルートだったので、イベントもスチルも他のキャラに比べて多い。
でろ甘のアドニスの愛情溢れ過ぎている蕩けた笑みは、アドニス推しは口を揃えて最高だと言っていた。
もちろん、フェリクスも例外なく。
私もアドニスルートは一番やり込んだルートである。
なんと言っても、リリアンヌ様が一番出るルートだから。
つまり。
リリアンヌ様に協力するのに、私はかなり便利な情報を握っている。
私は思わず悪い笑みを浮かべてしまった。
先程は私如きがリリアンヌ様のご相談に乗るなんて烏滸がましいと思っていたが、こんな内容ならばっちこいだ。
寧ろ私以上の適任はいないだろう。
「アリス様?」
急に不敵に笑いだした私に、リリアンヌ様が訝しげな顔をする。
「リリアンヌさま、ばんじわたしにおまかせください」
やる事は決まった。
あとはフェリクスと作戦を練ろう。
「あなたさまとアドニスでんかのために、わたしがひとはだぬぎますわ!」