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第9話 メインヒーローは腹黒王子





おっと。

おっとっと。

非常にアレなことに気付いてしまいましたよ、奥さん。

いや、奥さんいないけど。


アドニスの恐い笑顔を見て、私は気付いた。

こいつ、腹黒王子なんじゃね?と。


「ねぇ、フェル?」

「なんだよ?」


小声で隣に座るフェリクスに話し掛ける。

フェリクスは先程のあの恐い笑顔を見ていなかったのか、いつも通りの調子で返してきた。


あ、そう言えば、ちゃんと復活出来たんだね。

爆死したまま灰になるんじゃないかと思ってたんだけど。

良かったね、フェル。


「アドニスでんかって、せいとうはおうじってせっていだったよね?」

「設定言うな。...まぁな。それがどうかしたか?」

「いまさっきアドニスでんかからはらぐろおうじのでんぱをじゅしんしてしまったんだけど」

「何を今更。兄上は王太子だぞ?純真な正統派王子でいられるわけないだろ」


何言ってんだ、お前。

そんな風に言われて、私もはたと気付く。


言われてみればそうだ。

いずれは国を背負って行かねばならない王太子が、純真なままではあっという間に潰れてしまう。

魑魅魍魎が跋扈する貴族社会において、純真な心はハッキリ言えば邪魔だ。

王ともなれば、その魑魅魍魎たる貴族達を纏めていく立場となる。

そんな立場の人間が、純真な訳が無かった。

もっと言えば腹黒で当然なのだ。


ひぇ〜、えらいことに気付いてしまったわ。

知らないままでいたかった。

正統派王子に夢を見るままで......いや、夢は見てなかったな。

とにかく、リリアンヌ様のお相手として相応しい清廉な方だと思っていたかった。


「って、フェルははらぐろおうじなアドニスでんかをおしてるってこと?」

「そうだよ」

「...うわぁ...」

「つか、お前が気付いてなかったことのが驚きだよ」

「だって、きょうみなかったんだもん」


正直に言うと、アドニスルートではリリアンヌ様しか見てなかった。

リリアンヌ様を見るためだけに、アドニスルートをやり込んだ。

だから、アドニスが裏で腹黒いことを見抜けなかったのだ。


「わりとわかり易かったと思うんだけどな?こっそりイジメの首謀者を吊し上げてたりしてたじゃん?」

「はっ!たしかに!」


そう言えばそんなシーンあったわ。


ゲームのアリスがとある令嬢(もちろんリリアンヌ様ではない)からイジメを受けてて傷付いていた(あ、精神的にね)ときに、いつの間にか相手の令嬢をアドニスが追い詰めてたんだよね。

あの令嬢そこそこ頭を使ってアドニスに知られないように巧妙にイジメてたし、アリスも心配かけたくないって言って黙ってたはずなのに。


え、思い出したらちょっと怖くなってきたわ。

リリアンヌ様をこのままアドニスに任せて本当に大丈夫?


「二人とも?」


唐突に向かい側から発せられた不穏な声。

それに、私とフェリクスは反射的に身体をビクゥ!と強ばらせた。


「先程からコソコソと何を話しているんです?僕とリリアンヌ嬢にも教えてくださいよ」


そちらを向けば、そのお綺麗なお顔をキョトンとさせていらっしゃるリリアンヌ様の隣に笑顔の般若がいた。


うーわー!

こっっわ!

なにこれめっちゃ恐いんですけど!


「い、いえ...大したことではありませんわ」

「そうです、兄上。オレの婚約者との会話なんて、兄上にお聞かせする程の内容ではありませんよ」


アドニスは「ふぅん...?」と目を細めた。


ヤバイね、これ。

全然納得してないやつだね。


私は何か話を逸らせないかと思考を巡らせる。

周りを何度か見渡して、そして思い出した。


「あ!そ、そう言えば!ステラリア公しゃくさまはどちらにおられるんでしょうね?わたしもごあいさつさせていただきたいとおもっていたんですが...!」


めちゃくちゃ苦し紛れに言ってみる。


けれど、そう言えばそうだ。

今日は元々ステラリア公爵とリリアンヌ様がアドニスのご機嫌伺いに来る、という名目に私が乗っかっただけだ。

そのステラリア公爵の姿が、応接間のどこにも無かった。


「父でしたら文官が来て何事かを話したあと国王陛下に拝謁すると言って、殿下方が来られる少し前にこの部屋を辞しましたわ」


どうやら、国王陛下からお呼びがかかったらしい。

リリアンヌ様はアドニスに「殿下のご到着も待たずに、申し訳ありません」と美しい所作で頭を下げる。


うーん、やっぱり美しい。

そして、アドニスと並んでいるリリアンヌ様のお姿はとても絵になる。

...たとえ相手が腹黒王子でも。


「リリアンヌ嬢が謝る必要はありませんよ。文官が呼びに来たなら、きっと陛下のご意向でしょうから。公爵への挨拶は、次回にすることにします」


今度はリリアンヌ様へ優しげな笑みを浮かべるアドニス。


...さっきの私とフェリクスへの笑顔との温度差が。

いや、べつにいいんだけどね。


「なぁ、アリス」


私がアドニスの様子を見て何とも言い難い気持ちになっていると、隣から小さく呼ばれた。

顔を向けると、フェリクスはコソコソ話の体で話し掛けてくる。


「なんとか逃げられたな?」

「そだね」


なんだか、どっと疲れたけどね。

リリアンヌ様をこの腹黒王子に任せていいのか、正直物凄く心配になったけどね。

取り敢えず、今日のところは引き下がろう。


その後はなんとか取り繕って、初めての王子とその婚約者の面会は和やかな雰囲気で終わった。






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