ヘーゲ村危機一髪
カイルたち一行が旅立って一週間ほど経過した
カイルたちはどこまでも果てしなく続く
草原を進んでいた
カイルはなんとか自衛手段を身につけさせるべく
イオナに剣術の手ほどきをしていた
ルチアナはと言うと
カイルから手ほどきを受けるほど弱くはなく
むしろカイルより強いんじゃないかと言うぐらいの
格闘術の使い手だった
イオナの剣術の腕は物の見事に上達していった
現在エレネスト公国を出発して一週間が経とうとしているが
イオナの剣術はカイルにも勝るとも劣らないものになっていた
「カイル様、今日はここで野営を張りましょう」
「そうだな、そろそろ日も暮れるし調度いいだろ」
そう言うとルチアナは馬車を止め
荷台から大きな袋を取り出し
おもむろに投げた
すると投げられた袋は
ひとりでに飛んでいき
カイルたちから少し離れた地点に落ちた
そこにルチアナが歩んでゆき
持っていた魔法陣入りの
長い木の棒を
布の中心あたりに突き刺した
すると布はまるで生き物のように
立ち上がり
一気にテントの形を成した
カイルはルチアナに礼を言い
テントの中に入った
テントの中は外見よりも広く
暖炉や本棚、厨房、ベット、風呂などが
調度品として置かれていた
カイルは、毎回この中に入るときに
某有名、ファンタジー小説を思い出すが
そこには、触れないでおこう
「ルチアナ、あとギルドまでどれくらいかかりそうだ?」
ルチアナは料理中の手を止め答えた
「おそらくあと二日ほどだと思われます」
「そうか、結構かかるんだな」
「食料は足りそうかな?」
「おそらく足りなくなると思います」
「今夜の食事を境に1日一食にすればもつと思いますが」
「それはできればやめてほしいな」
旅生活に文句はない
毎日野営なのに風呂に入れるし
ふかふかの布団で寝れる
一見便利そうに見えるこのテントでも一つ弱点がある
それは、冷蔵庫のような
食料保存に長けた魔道具がないことだ
長期保存ができるものがないため
どうしても料理は無味簡素なものになりがちである
ルチアナはなんとか美味しい料理を提供しようと
頑張っているが持っている材料が持っているものだけに
やはり限界がある
俺としては
ルチアナには申し訳ないが
そろそろ普通の料理が食べたいとこだ
「そういえば、この先に確かソーン村という小さな村があったと思います」
ルチアナが料理を並べながらそう答えた
「その村に寄ってくか?」
「食料補充もできるだろうし」
カイルがそう提案すると
横で聞いていたイオナが
同意を示し一行はヘーゲ村に
向けて出発することになった
ーーーーー
翌日カイルは、日課にしている素振りを済ませ
朝食をとり出発した
ヘーゲ村への旅路はここしばらくと変わらず
永遠と続く草原を走っていった
午後を過ぎた頃
カイルたちはヘーゲ村周辺にやってきて
いかにも危険だという状況に遭遇した
眼前にはおそらくヘーゲ村だと思われる
民家郡に火の手が上がっており
逃げる人々やそれを追いかけ
惨殺するものの姿があった
「カイル様、どういたしますか」
ルチアナは目の前の状況に
顔色一つ変えずカイルにそう尋ねてきた
「助けるに決まってるだろ」
カイルは、短く言い切り
馬車からおり
身体強化の魔法を自身に唱え駆け出した
カイルは目にも止まらぬ速さで
蛮族たちの首を的確に狙い切り裂いていく
蛮族たちは、反応する暇も与えられず
糸が切れた人形のように倒れていく
カイルが村を襲いにきた蛮族を
始末するのには5分とかからなかった
「このまま火の手が回ると危険だな」
カイルは、火を消すために魔法を唱える
唱えるのは青の上級魔法『レイン』
カイルが両手を空にかざすと
大きな魔法陣が村の上空を覆い黒い雲を出現させた
出現した雲は大粒の雨を降らせ
みるみるうちに民家の炎を消していった
ーーーーー
消化が終わりルチアナとイオナと合流すると
おそらくこの村の長であろう
白髪の長身の男性が歩み寄ってきた
「旅のお方、危ないところを救ってくださりありがとうございます」
「いえいえ、自分たちもこの村で食料を買おうと寄ろうと通りかかっただけなので礼には及びませんよ」
カイルがそう話していると
村の住民が集まってきた
皆一堂に焦燥しきった顔をしていた
「そうでしたか、しかし今私どもも食料をご覧の通り略奪にあって小麦ひとふさすらないのです」
そういって村長は非常に申し訳なさそうな顔をした
「お気になさらず、食料はなんとかしますので、それよりなぜこの村は襲われたのですか?」
カイルがこう尋ねたのは、この村周辺がほとんど平野でなおかつ
襲ってきた盗賊らしき集団は、草原で生活する
遊牧民のような格好ではなく
ゲームでおなじみのテンプレ的格好をしていたからである
「私どもも襲われたのは初めてなんです」
「ここ周辺は、治安がよくて有名なんです」
「どこからやってきたかは不明なんですか?」
「ええ、領主様から盗賊が出たという通達はきておりませんでしたし近辺の村からもそのような情報は入ってきておりませんでした」
「そうですか」
「大変申し訳ないのですが、盗賊の討伐をお願いできないでしょうか」
「私たち農民は自衛手段がありません」
「もしまたあのような盗賊に襲われたらひとたまりもありません」
「それに、彼らがここ周辺に根城を構える可能性があります」
「それを防ぐという形で残党を処理してくださらないでしょうか」
「もちろんタダとは言いませんできる限りのお礼は致します」
そういって村長だけでなく村人全員がカイルに頭を下げた
カイルは、迷うことなく村長の頼みを承諾した