4. 開門
一時間後。
俺は膝をついてこうべを垂れるセバスティアンたちを睥睨していた。
その中に俺が生け捕りにしてこいと言ったセバスティアンはいない。
「どういうことだセバスティアンっ。俺はセバスティアンを生け捕りにしてくるようにと言ったはずだが!?」
「は、はい。おぼっちゃま。しかしながら当のセバスティアン・マケドニアス・アレクサンドロス・シーザー17世は40年分の有給を消化するために、バカンスに行っているとのことでして、すでにこの宮殿にはおりませんでした」
「なに? バカンスだと!?」
このタイミングでバカンスだと。
あの野郎。見えないところでも俺をおちょくる気かっ。
「して、それはどこだ!?」
「はい。近隣アノマ・テラピー子爵家領の保養地ヤスメールでございます」
そりゃ随分と癒されそうな場所だなあ、おいっ。
にしても外地か。
面倒だな。
別の貴族の所領となれば、迂闊に執事達を送り出すわけにもいかん。
かといって、俺が直接行くとなると、親父に頼んで公式に親善の使者として行くしかない。
それでは随分と時間がかかってしまうし、目立ちすぎる。
セバスティアンが本気で逃げる気だったら捕まえられないぞ。
もうこうなったら諦めるしか。
ん……。待てよ?
俺自身が親父や他の奴らに見つからないように、ここを抜け出せれば。
みんなが俺を探している間に、さっとヤスメールに行って、バレる前にこっちに戻って来れば。
よし。
「おい。ヤスメールというのはどこらへんにあるのだ。地図はあるか?」
「ございますが、如何なさるのでしょうか。婚儀前のこの時期にお館様がおぼっちゃまの領外への御遊覧をお認めになるとは思えませんが」
「別に今すぐ行こうというのではない。姫とのハネムーンの候補地として覚えておこうというだけだ。心配するな」
あ、こいつら。
俺のこと信じてないな。
顔でわかんだぞ。おい。
そんな白々しいもの見る目するな。
「この俺のいうことが信じられんのか?」
「いえ、無論。おぼっちゃまが責任を持って節度を持った行動をとってくださると我々どもは信じております。」
「そうか。では地図を持って参れ」
「かしこまりました」
一人のセバスティアンが立ち上がりそそくさと出て行った。
「ああ、残りの奴らはもう元の仕事に戻っていいぞ。以上を持って解散だ」
言うと、セバスティアンたちが蜘蛛の子を散らすように広間を去っていく。
俺は、後から地図を持ってきたセバスティアンにも解散を告げて、自分の部屋に戻った。
さて、俺にできるのは召喚魔法だけだ。
それも兄貴や親父と違って、魔法や妖精、精霊、生物は呼び出すことができない。
だが、地球の知識とそれによる機械召喚を組み合わせれば、妖精や精霊と同等なことがそれなりに再現可能だ。
もちろん。自分自身の瞬間転移とかは真似できない。
だから召喚魔法で直接この宮殿から抜け出すことは難しい。
だからあれを呼び出そう。
俺の頭の中にある最強のメカ。
「いでよ! ど◯でもドアーっ」