第九話:タイトル考えるのも結構しんどい
ドロドロと流動している漆黒の空間。
アケル達が意識がない中に素直に感じた事を言の葉で表すとこれが適当だろう。
ふむ。さぁて早速だが本編に戻るとする。
温い風に起こされたアケルは寝起きの顔そのままだ。
目覚めの良くないアケルは案の定過去の時代に来たと言うのに普段と変わらないしかめっ面で、何分経ったか把握できず時間感覚に狂いが生じていて時計を持ってくればよかったと後悔してるアケルはあまり代わり映えしない過去の光景に安堵とやや期待はずれの念が過ったが、とりあえず本当に過去に来たのか調べないかと思い周りに証拠となるものを探そうと思ったがその前に。
「おい起きろ黄橋!」
隣でうつ伏せになっていた黄橋を揺り起こすと寝ぼけ面で今何時か尋ねてきやがった。そんなのこっちが聞きたい。
黄橋を起こすのと同時に女性陣も目覚めたようで改めて辺りがどんな状況か確認するとひんやりとしたコンクリと時折吹くぬるい風の温度差を味わい視界を360度回転させてみる。空は快晴というわけでもなく今にも豪雨を生み出しそうな濃い雲でもなく普通の、つまり日常と変わらない天候だ。
天候が確認できるのも爆弾で吹き飛んだかのような吹き抜けの天井のおかげである。
ではアケル達がぶっ飛ばされ到着した場所はとこであるか。それはもう少ししてわかる事になる。
「ここは一体どこなのよ!?」
普段と変わらぬ声で叫んだのは瀬川碧だ。
せめて何処に飛ばされるのだけでも聞いとけば良かったなどと思っていたが、聞けなかったんだから考えてもしょうがない。とりあえず行動しないと。
体を起こし尻の埃を払うと
「ようやく着いたか」
そいつは突然鼓膜を突っ切って聴神経までやってきた。
低音の重みある言葉にアケルは耳を疑った。空耳か?
無為に辺りをキョロキョロする一同。
「何をしているこっちだ」
言われた通りに声のするほうへ顔を向けたが人影はない。そこにいたのは、
「何だ?挙動不審だな。人の話を聞くときは目を見るがマナーみたいなもんだろうが」
染色されかのような藍色の毛皮に背負った猫だった。
居合わせた全員がこのびっくり現象に肝を抜かれたのか口をパクパクしていたので変わりに筆者が尋ねた。
「猫が喋るんですか?」
「そうだ。別に可笑しくはないだろう」
はい滅茶滅茶可笑しいです。つか怪しいです。
ここで漸く篠川さんが
「ね、猫さんは何者なんですか?」
「山田からは聞いていないのか?ふむ仕方がない自己紹介から始めるとするか」
毛繕いみたいな仕草からして、やはり猫らしい。見た目も100%猫だ。
「まぁ貴様達から見た通り俺は猫だ。特に既存した固有名詞はない。そこら辺は貴様達で考えとけ」
自己紹介にもならない自己紹介であった。
藍色の猫なんてのは珍しいなと思いつつ猫の名前を考えたりもする。・・・・・。
あぁ中二病だな。
「じゃあ貴方はこの時代の猫なの?」と村崎さん。
「まぁそうなるが一般的に猫と定義される動物とは少し違うな」
それはすぐにわかる。喋る猫がまともだとは絶対に思わないし、こんな生意気な口調をしている猫の存在を認めたくもない。
「じゃあ、あたし達に何かようなの?理由もなく喋る猫が現れるとは思えないし」
「うむ、そうだな。まぁ平たく言えば案内役だ。貴様達のな」
案内役か。出来れば猫じゃなくて人間が良かったが。
何で案内役なんてよこしたか、なんてのは今更の疑問で当然これからの動向についてのことだろうし別に聞いても応えはわかりきっている。
それで黙ったまま上から目線の猫の言葉を待つ。
「流石に貴様達だけであの組織を潰せるとは思っちゃいない。武器もないしな」
話し終わったのか、ついてこいとだけ言い廃墟とも言える建物内をもくもくと進み始めた。
アケルは村崎さんと目線でコンタクトを取ると村崎さんはコクりと小さく頷き一匹で勝手に進み始めた猫を追うように歩いていく。
黄橋は寝起きはいつもこうなのか知らないがボーっとしてる。瀬川は何か言いたげそうだが黙っていて、ファンタジーの妖精にも負けないしおらしい姿の篠川さんは挙動不審で、彼女の姿を見るとこれから先が心配になる。しかしそれでもアケルは彼女が足手まといになるとは蟻んこの涙ほどにも思わなかった。
なんだか奇妙な親近感が鉄柱剥き出しの柱から伝わるし何となく生意気猫の後ろを歩いて
いただけだったが思い出したかのように疑問が浮かぶ。
「おい猫さんよ、ここは何処なんだ?」
丁度猫の真後ろで黄橋と並んでいたアケルが尋ねた。
「あ、僕もそれ知りたいな。なんか親近感もあるし」
黄橋は同じ感覚だったらしい。
「ふん、そうだな親近感を感じるのも無理もない。何せここは17年前、じゃなくて17年後の――」
少し溜めを入れた。なんだよ、早く言えって。
「貴様達が通う学校。つまり立教高校の旧校舎だからな」
旧校舎を後にしアケル達は正体不明の奇抜な猫に従いながら殺風景な裏路地を進んでいて時々瀬川が文句を垂れていたが誰も応答することなく黙って着いていたが半刻ほどかけて到着した場所は火事で焼け落ちかけたんじゃないかと思うほどボロく荒んでいて人の気配は勿論だがネズミ一匹の気配もない平屋であった。
校舎の事や今の置かれている状況に疑問がRPGのザコキャラ並に湧いて出てくるがそいつを一つ一つ聞き質す程の意気込みもない。だって出会う全ての敵をコテンパンにのしていくわけもいかないだろう?たまには逃げるってコマンドも有効ってことだ。
そんな事を考えていると
「もたもたすんな。うすのろが。こっちだ」
誰かこの猫に猫としての言葉遣いと振る舞いを骨の髄まで叩き込んでやってくれ。
いくら可愛いからってそんな言葉遣いじゃ一生飼い主は現れないね。たとえ飼い主が現れたとしてもこの小生意気さに癇癪を起しちまいそうだ。
「こんな所で一体何をするつもりなんでしょうね?」
柱が腐敗したおんぼろ平屋にくそ生意気な猫が入っていくのを確認して村崎さんの口が久々に開口した。
「わかりかねるね。裏路地を通ってるせいかまだこの時代の人にも会っていないしさ」
黄橋の言う通り、17年後の校舎を後にしてからそこそこは歩いてはいるのだが、まだ人らしき人には会ってはいない。わざと避けてるのだろうか。人らしい猪口才な猫はいるのに。
「まぁ今は素直についてったほうがいいかもね。いざとなったら猫を囮に――」
意味不明な返答した瀬川は無抵抗の篠川さんの首根っこを掴みそのまま平屋に入っていった。つか篠川さんも少しは抵抗してもいいと思うのだが。
連れて行かれる篠川さんの姿はまさにテロ組織に拉致される少女のようである。万が一本当に連れ去られそうになったら筆者の権限で犯人を処刑台まで案内するがな。
瀬川の姿が平屋の闇に消えると
「ぁ、待ってよ」
黄橋も続いた。こいつも自分の意志ってのがないのか?少しは危険だと感じて欲しいね。
「とりあえず今はアイに従いましょう」
「アイ?」
間違え電話を受信して困っている少年みたいなアケル。
「あぁ、ごめんね。あの猫の事よ。藍色の毛並みだからアイ。流石に名前がないと呼びにくいと思って」
猫の呼称なんてどうでもいいと思ったアケルだったが村崎さんにそんなことを言葉で表現したりするほど性格はひねくれちゃいない。
きっと村崎さんがここまで辿り着く間に考えていたのだろうと思うと何だがギャップを感じる。清楚で優雅な村崎さんもやはり普通の女子生徒と同様猫みたいな可愛いものには目がないにちがいない。まぁ、あのその猫は全然可愛くないが。
「そう?言葉遣いはともかく毛並みといい円らな瞳といいあれは猫の中でも上位に入る可愛さよ?」
ぶっちゃけ猫を飼ったことがないアケルには猫の可愛さランクなんてのはちっとも理解できないわけで、でも村崎さんがそう言うのならそうなのだろう。
「そうなんですか。それじゃ俺らもその猫様を信じて行ってみっか」
開けっ放しの戸を跨ぎ電気も着いていない平屋は不気味な空気に包まれていたが、外見に正しい平屋の内装は殺伐というより江戸時代の下級武家みたいなしんみりとした感じで奥から落武者が飛び出てきても不思議じゃない。出てきてほしくはないが。
すでに瀬川や黄橋の姿はなく奥に続く廊下があるのを確認すると過去に行く前に手渡された何も使い用がないケータイから発せられる光を頼りに進んでいった。
「かなり暗いわね」
「そうだね。灯りでも持ってくるんだったな」
ケータイの発する光は微々たるもので50センチぐらい先が確認できるぐらいである。
黄橋がのんびり話していると急に奥が光で満ちた。真夜中のトンネルにておふざけで肝試しをした時とかに突然火の玉が現れたみたいに驚いた。アケルはなんとか堪えたが妖精に似つかわしい篠川さんは思わず声が漏れてしまった。
ああ、過去に来ていきなり幽霊に遭遇しちまったか。
「何わけわからん事を言っている。しっかりついてこんかい」
どうやら火の玉の正体は猫、じゃなくてアイが突然取り出したランプの灯りだった。確かに火の玉にしてはやけに低空飛行だなと思ってたとこだ。落ちないよう器用に取っ手を口で抑えてずんずん進んでいく。
やけに広い空間に出た。暗闇のせいで正確な広さは測りかねるが、アイがまたしても器用に部屋のスイッチを押すと天井のシャンデリから眩しい光が注がれ急に明るくなった。
急な光の眩しさに目を細めたがそれもだんだん慣れていきようやく全体を見渡せる。
平屋に入ってそのまま奥に来ただけだってのにどこかでワープポイントを踏んだじゃないかと勘違いするほど表のボロ平屋とは次元と違いを感じさせられた。なんせ壁、床を含んで天井までピカピカの大理石だぜ。そこら辺の高級ホテルよりすごいんじゃないか。まぁそれも本物だったらの話だが。篠川さんもアケル同様に驚いていて、申し訳なさそうに踏んでいる大理石の上でヒョコヒョコしている。黄橋は瀬川と仲良くわけわからんゲームの話を繰り広げているようだ。こんな時になんて奴らだ。村崎さんはと言えば自ら命名した猫と一緒に何やら説明を受けていた。
アケルもしぶしぶ村崎さん達の会話に入ろうとする。
「貴様達には渡しておくものがある」
大理石の壁に可愛らしい肉きゅうを当てるとそこから数メートル離れた壁がいきなり開いた。灯りによってくる蛾のように開く音を聞いて瀬川達がぽっかり開いた壁の周りに集まり、
「全員この中から好きなやつを取ってこい。数は無制限だかあまり持ちすぎるなよ」
そう言ってアイは律儀にお座りした。
何を持つってんだ。
さてさて入ってた先に何があったのか?簡単に言えばあれだ。警官が持ってたり洋画とかどこぞテロ組織が使ってそうな代物がたんまり置いてあった。つまり重火器だ。
「漫画みたいな光景だな」
アケルは思わず口にした。
これも小説なんだけどね。
世界中の大理石を使ってしまったんじゃないかと心配にさせる巨大な空間にひっそりと姿を見せた謎の秘密の部屋(わざわざスイッチみたいなものを押していたためなんとなく秘密っぽい)にも全員を卒倒させるには十分の危ないブツが綺麗に整頓されていた。それに奥行きも結構あって重火器の種類も豊富そうだ。
瀬川と黄橋は驚いてすぐ小学生みたいな幼稚な声を上げながらでっかい機関銃に駆け寄った。アケルもこれにはだいぶ虚を突かれたが、そりゃ組織ってのを潰すんだしこれくらいは必要かと自分に言い聞かせた。
篠川さんも目をパチパチさせてこの異様な光景に圧倒されている。このままじゃ篠川さんは過去にいる間ずっとパチパチしっぱなしになりそうだ。
村崎さんはまだ表でアイとしゃべってるようだ。よほど気に入ったのだろう。
それより一番先に目が惹かれたのは大砲でも見たこともない兵器ではなく大理石の壁に寄っ掛かるように静寂を守っている一人の少女であった。良くわからんがかなり可愛い。ぁ、ちなみにこれは筆者の意見ではなくアケルの意見だと考えて欲しい。人が入って来たってのにピクリとも動かないのを不思議だったがとりあえずアケルは二次的接触を試みようとした。
そーいや過去に来て初めて人間にあったな。
「こ、こんにちは」
「…………」
返答はない。つか1ミクロンも動いちゃいない。
「不思議な人だね」
いつの間にか隣に黄橋がいた
「ほぉそいつを選ぶのか」
外でお座りをしていたアイもいつの間にかアケルの足元にいた。
どうやら村崎さんもこの光景に唖然としているようだ。
「こいつ生きてんの?全然動かねーけど」
「そりゃ電源が入ってないからな」
あぁ電源ね。
「はぁ!?なんで電源!?」
・・・・なんだこの二流芸人みたいなやり取り・・・ヘドが出る。
「これ人間じゃねーのか?」
「そうだ。見りゃわかんだろ」
見た目は普通の少女だろ。つっこみは置いておいて、さて容姿を簡単に説明するとなんだか良くわかんない服装で赤いリボンをしている。髪型はポニーテールで色はブラウンだ。
「じゃぁ電源を入れれば動くわけか。じゃあ入れてみてくれよ」
そりゃ見た目普通の人間がロボットだっていうだろうからそりゃ動いてみて欲しいってのは正常な人間なら誰でも思うであろう。
「物理的なスイッチじゃない。こいつは名前を呼ばれれば動く仕組みになっている。それと一度電源を入れたらぶっこわれるまで動き続けるからな。それでなこいつの名前は――」
しゃがんでアイと同じ目線になり耳を傾けたアケルは一般人が見たらなんて間抜けな光景だったろうに。しかし残念ながら今のこの大理石の空間に一般人と確証できる人物はいない。何故なら全員未来から来た高校生なんだからな。120パーセント一般じゃあるまい。
そんな事より武器を選べと言われたがなにを選んでいいのかさっぱりだ。球体の爆弾みたいなやつもあるし特撮で使いそうな銃もある。レーザーがでそうなあれだ。
そのレーザー銃らしきものを手に取って片目を閉じ撃つ真似をしてみる。特撮に憧れていたわけではないが男の子なら一度はヒーローみたいに戦いと思うだろう。
だがこれから起こる事は特撮でもゴールデンタイムにやるアニメでもない。
武器を選べと言われた段階で気づくべきだったのかもしれないがまだこのときは誰もこれから始まる壮絶な戦いを消しゴムのカスほども思ってもいなかった。
期末テストと受験勉強という弊害を乗り越えながらもちまちま更新しよう考えてる次第であります。