第十二話:牛乳とか拭いた雑巾って触りたくないよね
ホテルを出発した後も再び徒歩でアイの言う目的地に向かっていった。まぁホテルをタダで泊めてもらったしこれ以上は贅沢過ぎるかな。しかし相変わらず人気がない。戦後の風景みたいに空は曇天が張り巡らされていて17年後に学校ができたり大手の百貨店やらアケルが毎日お世話になっているコンビニが建設されるのかと考えるとなんだか寂寥感を覚える。そういえばここら辺かアケル達が住む事になるマンションが建つのは。
「なぁ気になったんだがどうして俺に挑戦状なんて送りつけたんだ?」
久しく瀬川に話しかけた気がする。黄橋は村崎さんとアイより二歩後ろで会話を交わしているようだ。篠川さんはアイと同列に並び持ち前の愛らしさを全開にしている。この人は人間以外の動物となら何ら変わらずコミュニケーションがとれるらしい。
「理由なんてないわ。ただあんたがあのマンションに入っていくを見てこれは使えるって思っただけよ」
「使えるってなぁ。いきなり出てきて親とか心配してんじゃねぇか?」
「む・・・・・」
黙りこむ瀬川は特別天然記念物並みに珍しい。こりゃ失言だったか。
「ぁ、わりぃな。変な事を聞いちまったか?」
「ふん、あんたはどうなのよ?ご両親は?」
「両親ねぇ・・・・」
アケルは思いがけない瀬川の口撃に若干慌てたが、すぐにいつもの調子に戻った。
「元々いねーよ。気が付いたらあそこで生活してた」
いつもの調子とはいえ何処か悲しげなアケル。道端に転がっている石を無意識に蹴飛ばしたところ、村崎さんの靴に当たりそうになったがギリギリでそれた。
「ふーん。あんたも不幸な世界に生まれてきたってわけか。ちょっと意外ね」
「んあ、不幸?何で俺が不幸なんだ?まぁ確かにお前が居候になってからは―――」
「!・・ぶはぁっ」
頬に一発もらった。
それもグーで。
「・・・・っう。いてぇだろ馬鹿が」
頬を押さえるアケルの横で瀬川はアケルが蹴飛ばした石をさらに遠くに蹴飛ばす。
「つかあんた"も"ってどういうこった?あれか、お前も両親いねーのか?」
「・・・・うっさい。どうでもいいでしょ!」
しかめっ面になった瀬川は言うのもなんだがちょっと可愛かった。
それっきり瀬川は何も喋らなかったが、別に深追いする気にもならず黙りを守り前方を行くお三方+猫に目を向けてみたが嬉しい事?に聞こえなかったらしい。まぁ聞こえたとしても誰も詳細を知りたがる奴はいないだろうな。黄橋は例外だが。銃器の入った重いポーチをしょい直すとアイが口を開けた。
「ここだな」
ここか。ついに覚悟を決めるときがきたか!なんて微塵も思わなかった。つか何もねーし。
「どういうこった?何もねーじゃん」
辺りを注意深く確認する一同であったが本当に謎の組織が潜んでいそうな建物はなかった。
「下だよ下!」
アイが荒っぽい口調で前足を地面へポンと叩く。
「下?」
視線を90度落とした。一面に粗く敷かれたコンクリートが目に入った。それと
「マンホール・・・」
篠川さんが自身なさげに言った。確かに下水って文字が書かれた丸いマンホールが一つあるだけだ。ただのマンホールだ。一つ下水と書いてあるのを除けば。
「こ、このマンホールが何かあんのか?」
「入り口だ」
あぁ入り口か。なるほどここがワンダーランドへの出発地点ってわけ――
「んなわけあるか!」
ツッコミのセンスは極寒の昭和基地にでも置きっぱなしにしておいてアイの言葉を繰り返す。
「このマンホールを降りていけって言うのかよ!?」
「そうだ。それしかなかろう」
平然な面持ちでなんて事ぬかしやがる。
ここは17年前と言えど清潔と大和魂を授けられた日本国であるぞ。
マンホールを降りると言う事は下水を通るということ、つまり清潔の二文字を掲げてきたこの国ではあってはならぬ不潔な万象の権化である。
この通路を使用するのはどこかの大泥棒か間違えて水道に大切なものを流しちまった哀れな奴ぐらいだぞ。
「うるさいのぉ。お前以外は全員賛成なんだぞ」
嘘を仰い。猫だからって言っていいことを悪いことが・・・
「ちょ、篠川さん何してんすか!?」
篠川さんは蓋を細い腕ながら豪快に持ち上げると、いざ行かんとばかりに身を乗り出している。
「・・・だってアイさんが・・・」
それなら仕方がない。っと思わず言ってしまいそうになるのを必死に堪え、アイに再び睨みをきかせる。
「他に入り口はないのか?」
「ふん、あったらそっちに行っとるわ」
それもそうなのだがやはり気が進まない。だって下水だぜ?臭いんだぜ?
アニメとかでよく主人公やらが敵の基地に侵入する時とかに通ってるけど、あれ絶対臭いの我慢してるぜ?もしくは鼻栓をしてるに違いない。お前はどうよ黄橋?
「僕は構わないけどね。アニメの主人公になれる気分だよ」
前向きすぎだろ!その前向きさがあればお前は人生を屈することなく成し遂げられるだろうな。
・・おっと黄橋をベタ褒めしてもしょうがない。ここはまず打開策を。例えば全身をくまなく被えるコートを見つけてくるとか。それと鼻栓もだ。
いやいや何入る前提になってんだ。入らなくても済む方法を考えなくては。
うーん、いっそのこと俺抜きで行ってもらうか。アイと瀬川がいりゃぶっちゃけ大丈夫だろうしな。黄橋もいるし。・・・。ぁぁでも篠川さんを一人にはしておけねぇ・・・。
「アケル先行くよ」
黄橋がマンホールから首だけ出していった。まるで生首のようだな。
アケルがあれこれ考えているうちに村崎さんも含め全員がすでに異臭とネズミの住まうワンダーランドの入園口に入ってしまったようだ。
「メルヘンとネズミが主役のディズ●ーランドとあんま変わらないよ」
黄橋の声だけだ。てか全然違うだろ。ディ●ニーランドは夢と希望を与えくれるけど下水道なんて不快な気持ちと吐き気しか与えてくれねーよ。
「ああ、しょうがねーな!行きゃいいんだろ行きゃよ!」
しぶしぶ化け物みたいな口に足を運ぶアケル。紐なしバンジージャンプに挑むかのように弱気率100パーセントで底の見えないマンホールを覗いた。
「くそ、帰ったら10回体洗ってやる」
マンホールが入り口とはまったく面倒な作りにしやがって、とまだ見ぬ組織に怒りの情を覚えながら異臭のする梯子を降りようやく足が地に着いた。
「もう最低ね」
不貞腐れているのは瀬川である。無理もないがガランとしている下水道にはそんな文句は虚しく木霊するだけである。アケルは失神寸前だ。
「よし。全員降りたな。こっちだ」
薄暗いが前方がまったく見えないほどじゃない。アイを先頭に再び歩き出した。
「大丈夫?顔色悪いわよ?」
村崎さんがアケルの身を案じて優しく話しかけてきた。
「だ、大丈夫っす。なんとか我慢します」
左手で鼻を押さえながらひん曲がったポーチをかけ直す。どうでもいいが邪魔だぞこのポーチ。
「そう、なら行きましょう。とっと組織とやらに接触して現代に帰りましょう!」
「はは、そうっすね」
相変わらずアイを先頭にぐんぐん歩き始めた。ぐんぐんと言ってもヨロヨロ歩くアケルの歩方速度に合わせてくれているのかあまり進んだ気はしなくぶっちゃげ村崎さんと気分を紛らわせる程度の小話をしていただけでアイの言う目的地とやらに到着した。
いつもはもうちょい書いてるけど時間ないんで一旦投稿。
もうかなりグダグダになってますね。すいません。