第十話:銃刀法違反とか言わないで
武器を選べって事だったがアケル達は歴戦の勇者でも伝説の殺し屋でもない武器を見つけてもこれに決めた!なんて出来るわけもなく結局のところどんな武器なのかも分からず選んでしまった。以下が皆が選んだ武器である。
アケル
リボルバー
球体の変なの
薄っぺらの紙数枚
瀬川
オートマチック二丁
変な時計
篠川さん
新品の靴(ここに来る途中汚れてしまったため)
村崎さん
オートマチック一丁
不恰好な機械
黄橋
ガス弾×4
以上である。
他にも最新式っぽい機関銃や散弾銃もあったが持ち運びに不便であると考え比較的手軽な物を選んだ。拳銃が手軽かどうかなんてのは読者個人の意見に任せるが、アケル達にとって拳銃なんてのはUMAに匹敵する珍妙な代物で使い方は勿論銃それぞれの呼称さえも存ぜぬ状態である。これほど武器と隔離状況にあるのはアケル達の時代での驚異的な平和維持活動と国際組織および日本政府の武装兵器撤廃の賜物であった。後は全員に同じ数の銃弾と銃をしまうショルダーバッグをもらい小憎らしい日本語習得猫;アイから初歩的な銃の扱い方を伝授されたがアケルの本心はぶっちゃけ銃なんて使わんって事でほぼ聞き流していた。つか篠川さんは銃すら持っていないぞ。
大体の作業が終わったところでアイは感興にそそっている瀬川らを呼び大理石が煌びやかに空間のちょうど中央らへんで
「これからは俺の指示に従ってもらう。無視した場合は死ぬと思ったほうがいい」
死ぬなんて大袈裟な。それに死が付きまとうほど危険なとこに乗り込むとは聞いていないが。
「それくらいの覚悟ってことじゃないかな」
黄橋がフォローした。何でこいつはやけに楽しそうなんだか。タイムトラベラーを完璧に娯楽か何かに思っているにちがいない。
「覚悟ってなぁ。お前と瀬川がもうちょっと危機感迫ってる感じだったなら俺も真剣になっていたんだがな」
「そう?彼女面白くてさ。話が弾むんだよね」
「ったくお前はあいつの本性を知らねーからな。とりあえず怒らすような事は言わねーほうがいいぜ」
アイは瀬川の拳銃に対しての興味深々な質問攻めにあっていてそれに受け答えするアイも別に悪い気はしてような気がする。やっぱり猫って女に弱いのか?それとも毛並み藍色のくせに実は中年の親父が真の姿だったりな。
「彼女の真の姿?それはますます興味が惹かれるなぁ。いや恋愛感情とかじゃなくて知的好奇心という面でね」
その狂戦士瀬川碧はアイから真剣に拳銃の使い方について学んでいて、試しにアイが置いた空き缶に一発ぶちかますと見事に空き缶は後ろにぶっ飛びそれを篠川さんが拾い上げている。こりゃ免許皆伝だな。なんて呑気に構えているアケルは拳銃を片手に溜息をついた。
さてそろそろ過去へわざわざ赴いた目的を再確認する必要があるな。えーっと何だっけ?あ、そうそう。これから起こりうる人口消失事件を防ぎ、それを目論む組織の排除だったっけか。結構重量のある目的だったのを忘れていた。これも呑気な黄橋の責任だろ。そーいや今日は一体何月何日なんだ?17年前ってのは把握しているが山田先生からこの時代の詳細を聞くという計らいもすっかり忘却の彼方に置きっぱだった。せめて一度目に発生した消失事件の日にちだけでも聞いとくべき――
「・・9月11日」
ぴしゃりと答えたのは口数の少ない関西弁美少女篠川瑠璃であった。
瀬川が打ち抜いた缶を片手に持って訴えかけるような瞳と風采を持つ彼女に話しかけられただけでスライムみたいに溶けちまいそうだ。
そういやこんな美少女とタイムトラベルしてるんだから少しぐらい黄橋みたいに気軽に構えてもいいんじゃないかと思わされる。でも何で知ってんのかな?
「来る前に山田先生に聞いておいたの」
だそうだ。
まぁ聞いておいてくれたのは事実かなり役立つ。篠川さんの愛くるしい見開いた瞳を見ながらアケルも精一杯に気持ちを込めた微笑で応答した。
「んで今日は――」
「9月10日だ。ちなみに21時10分前だ。」
次に答えたのは日本語をほぼ完璧に習得していると思われる生意気子猫アイでその低い渋い声を聞く度に本当は人間ではないのかと思ってしまう。ん、いやちょっと待てよ・・・。
「とすると……!」
「事件発生日って明日じゃん!」
なんということか。事件発生日が9月11日なら後1日しかねぇ。11日の何時起こるかは知らないがひょっとしたら11日午前12時がタイムリミットだったとしたら残り二時間弱しかないことになっちまう。とんだ誤算だ。今売れっ子のアイドルが実は三十路まじかだった時なみの大誤算だ。これってヤバイんじゃないの?
「うむ。そうだな」
やけに落ち着きまくってるアイはまるで他人事のような素振りだが今は構っていられない。
「急いでその組織やらに向かわないと」
「あてがあんの?」
冷静な口調の瀬川は右手を顎に当てなんだか推理しているような仕草で
「ねぇアイ?あんたはその組織が何処にあるか知ってるんじゃないの?」
瀬川までもこの猫をアイと呼んでいる事に村崎さんの影響力は大きいななんてこととを脳裏に浮かべつつアイの渋い声で現実に連れ戻された。
「知ってるからこその案内役だ。事件発生までには時間がある。とりあえず十分な睡眠時間をとれるほどのな」
安堵。1に安堵2に安堵3、4は飛んで5に安堵。これくらいほっとした。
瀬川も胸を撫で下ろしたようでアケルの隣の黄橋は、まぁあんまり驚きも安堵していないようだ。
「もう夜遅いからな。近くのホテルにでも行って体を休めろ」
もう21時になるのか。時間の経過が早いのか元々この時代に来たのが遅いのかどちらでもいいが急にほっとしたことと夕食の時間をとうに過ぎてる事にアケルの腹がうめき声を上げ、それに一同が微笑した後大理石の空間とボロ平屋を振り返った瞳に映しながら近くに宿舎でもないか探した。最後尾で欠伸をした篠川さんがたまたまアケルの視界に入ってしまい慌てて口を塞ぎ赤面して顔を俯く一連の仕草はいつ見ても心が和む。
少し人通りが増えてきた道をひと塊で歩きながら17年後の風景なんかと重ねてみたり路上で騒がしく音楽を奏でるストリートミュージシャンを横目にこれまた大層デカイホテルの前で止まった。止まったってのも先頭を歩くアイがお座りしたせいなんだが。
「ここだ」
アケルは肩にかけている邪魔そうなショルダーバッグを下ろし眼前にそびえる巨大なビルディングを見上げた。
―――たけえな。
ずっと見上げていたら明日の朝首が痛くなりそうだったのでほどほどに視線を普段の位置に戻すと駆け足でホテルに入っていくアイが居た。動物の入場はOKなのか。
アイを倣ってホテルに入ってみるとアイが招き入れた大理石の空間とは一変して高そうな絨毯が一面に敷かれており、ホテルのオーナーの趣味なのかインドを思わせる像やら幾何学的な模様が広がっておりいかにもセレブオンリーと看板がかかっていそうなホテルだが確か表にそんなものはなかったよな。
一歩進めると天井の高さにあっけをとられた。高い。高すぎる。力士が5人肩車してようやく手が届きそうな高さでアケルの家の天井の4倍ぐらいだ。
内装も非常に綺麗でアケル達を除くホテル駐在者はやはりそれなりにリッチな風貌をしていて明らかにアケル達は浮いている。なんだがちょっと恥ずい。
「お待ちしておりました。さぁ皆さんこちらです」
アケル達の前に突如現れたのはこのホテルのベルボーイであった。
柔らかい微笑を向けながら両手を広げ奥にあるエレベータを誘導しようとしている。
何かの間違いじゃないかと思ったが、すぐそばのソファーでガラスの机を挟みながら何やら偉そうな人と話をしているアイの姿が見え、猫相手にペコペコしている弱気な人物はオーナーか?
「あのお方は当ホテルの総支配人でございます」
全員のショルダーバッグを嫌な顔一つしないで微笑を貫き通すこの秀逸なベルボーイは見た限り若くアケルの先輩と言った感じである。
白い髭をたくわえ腹の出た弱々しい態度をしている総支配人を我が弟子のように扱うアイの身分にこの時代の猫は江戸時代中期の犬と同じぐらい神聖なものなのかと思ったが
「アイ殿は総支配人を含め我々の大事なお客様でございます」
猫を大事なお客様とは変わった時代だな。
その後もアイはやけに立場の弱そうな総支配人にもくもくと何かを話していたようで部屋に戻ってきたのはルームサービスで頼んだパスタを美味しく食した後だった。ちなみに部屋というのはスイートルームで金すら払えそうにないアケル達全員にそれぞれの部屋の鍵が渡され立教高校一年一同がスイートルームを5つも占拠するという有り得ない事態だ。しかもスイートルームなだけあって異常なまでに広く液晶のテレビや無駄に広いバスルーム、夜景を一人占めできるバルコニー。人生に一度あるかないかの超が三つほど接頭に付きそうなVIP待遇であった。
いや、過去ってのも悪くないな。
「今のうちに寛いでおけよ。現代に戻ったら二度とこんなの味わえないぞ」
何故かアケルの部屋に居座るアイはベッドの上で足で耳をかきながら言った。毛だらけになっちまったベッドを掃除するのはさぞ大変だろうに。ルームサービスを運んできた年齢不詳の女性客室係りを想像しながら哀れに思うアケルであった。
アイはいろんな部屋をブラブラ回っていたようで結局寝床にしたのはアケルの部屋のソファーデあった。アケルは女性陣の部屋にでも押し掛けてみようかと企んでいたが瀬川はともかく村崎さんと篠川さん相手に変なイメージを持たれたくないためぐっと堪えてベッドで丸くなりそのまま深い眠りに落ちていった。
んで翌日。
起床一番にたまげた光景を見たアケルは夢で現れたファンタジーっぽい意味不明の物語を完全に記憶からすっ飛ばし口をアヒルみたいなにボケっと開けたまま呆然とした。
9月中にもう一話書き上げたいなぁ