表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モユルハナ  作者: 四季 ヒビキ
〜美術部仮入部〜
8/15

シチューの味

帰宅した花薫くんの、家族とその関係について触れたお話です。


ほのぼのしてる・・・・・・かも知れない


 

 「おお、花薫、やるな」

 

 「やるな、じゃなくて、迅が音痴すぎるんだ」

 

 「いやいや、おいはそんなんじゃなかがー」

 

 「はあ・・・・・・」

 

 

 こいつのことだから、きっと本気でそう思っているのだろうな。 その溢れんばかりの自信は、一体どこから湧き上がってくるのだろうか。

 

 

 「それじゃあ、明日な」

 

 「おう、また明日。 わすれんじゃなかよ」

 

 「はいはい」

 

 

 そう言って、俺達は会話を終えた。

 

 

 2LDKの普通の家に、俺は一人。 父親はまだ帰って来ていない。 父は、だいたい七時前には帰ってくる。 今日は、何時になるだろうか。

 

 

 

 

 

 家に帰ってまずやること。 俺は優等生でもなんでもない、かと言って不良でもない。 俺が帰ってやること。 それは、薬の確認だ。

 

 別に、残量を気にしているわけじゃない。 無くなっても、その時はどうにかなるだろう。 ただ、どこかで死にたいと願うわけじゃない。 本当に死にたくない。

 

 俺が服薬している薬の飲み忘れで、死ぬことはない。 あっても痛いのに痛み止めがないくらいだ。

 

 俺が怖いのは、分量を誤って飲むことが怖いのだ。 だらしない性格でも、きちんと薬の分量や服薬方法は守っている。 いつも、規則的に三錠、五錠と飲んでいると、これをひとつ多く飲めば、どうなるのだろうと考えた時、ふと怖くなる。

 

 多く飲んだ、或いは少なく飲む事で副作用が起こった経験はないが、病気などの苦しい理由で死にたくはない。 痛み止めがなくて一時的に痛んでも、それは生きている証と捉えれば、死ぬより怖くない。

 

 矛盾しているかもしれないが、死に直結する痛みは未だに克服できていない。 寧ろ、出来ていたら人じゃないとすら思える。

 

 

 

 

 そんなわけで、俺は夕食後飲む薬を卓上に置いて、テレビを付けた。 時刻は十六時十二分。

 

 制服を脱ごうとすると、ガチャガチャと家の鍵が開く音がした。 父だろう。 ただいま、と声もする。

 

 

 

 「花薫、ただいま」

 

 「おかえり、父さん」

 

 「・・・・・・今日、学校は?」

 

 「行ったよ」

 

 学校は? と父さんが聞いたのは、俺が学校に行っていなかった時があるからだろう。

 

 病気のせいというのもあるが、病気にかこつけて仮病でよく休んでいたからだ。 こんな、休み休みで行ったって、充実した学校生活に必要なものは得られないんだ。 と今以上にひねくれていたから。

 

 そんな俺が、一ヶ月間保健室に駆け込んだり、授業中に搬送された回数がまだ一桁なのが、周りからしたら異常なのだろうが、俺的にはすごい事だと思っている。 自惚れているのだ。

 

 

 「・・・・・・あのさ、父さん」

 

 「どうした?」

 

 「俺・・・・・・美術部の部員になった」

 

 

 

 仮入部の幽霊部員だけどな。

 

 

 

 「そうか・・・・・・偉いな」

 

 「だから、帰りが今より遅くなる」

 

 「わかった、無理はするなよ」

 

 「・・・・・・うん」

 

 当たり障りなく、会話を交わすが、その中に俺への配慮なんてあるのだろうか。 ある程度は愛されているだろう。 でも、これまたなんとなく、腫れ物に触るような扱いに思える。 ・・・・・・寂しい、という事なのだろうか。

 

 わからない。 俺は、何がしたくて、何になりたいんだろうか・・・・・・。

 

 

 

 「あ、あとさ」

 

 「なんだ?」

 

 「明日、クラスの子・・・・・・友達、なのかな。 その子と帰り、どこかに寄る」

 

 「どこかわからないのか?」

 

 「うん、そいつ、ひどい方向音痴だし」

 

 「心配だな・・・・・・お前もその子も」

 

 

 

困った顔で、眉をしかめた。 でも、じゃあいいと切り出せるわけじゃない。 ・・・・・・何故か、迅の明らかに落ち込む顔が目に見えた。

 

 

 

 「だから、行先は連絡する。 ・・・・・・ただ、こんなこと言うのも変かもしれないけど」

 

 「言ってくれ」

 

 「門限って何時なんだ?」

 

 

 

 

 俺は、友達なんていなかった。 学校から帰ったら、家に帰るしか選択肢がない、まるで優等生のような生活を送っていた。 寄り道といえば、病院に搬送くらいだ。

 

 俺は、父親に初めて門限を聞いたのだ。 何故だか、遠足の前の子供のような、受験生が番号を探すような期待と不安を胸に抱いていた。

 

 

 「・・・・・・そうか、遊びに行くなんて、なかったもんな。 大体、今の高校生が何時まで遊ぶのかは検討もつかないが・・・・・・」

 

 「俺もわからない」

 

 「参ったな・・・・・・うーん、大体、十時までかな。 それ以上は、危ないし、飯食うなら体にも差し支えないだろう」

 

 「・・・・・・意外と、遅かった」

 

 

 思ったことが、つい口に出た。 子供っぽくて、なんとなくくすぐったく、恥ずかしかった。

 

 

 「はは、もうそろそろ大人になるんだ。 まだ子供だが、それなりに責任持った行動は出来るだろう。 変なやつにはついていくなよ」

 

 「・・・・・・わかった」

 

 「さあ、明日は忙しいみたいだし、飯にしよう。 今日は、シチューにしてみたぞ」

 

 「よそってくる」

 

 「あ、俺大盛りで」


 

 適当な皿を選び、溢れそうなぐらいなみなみ注いでみた。 ・・・・・・筋力のないマッチ棒みたいな腕がぷるぷるしているが、父親には、バレないように隠す。 ・・・・・・女子でもこんなもの持てるだろう。 恥ずかしい。

 

 

 「お、ありがとう」

 

 「うん」

 

 

 

 俺の分は、普通によそう。 食は細くない方だと思っている。 ただ、キャベツは嫌いなのに、シチューにかさましのために入っているので、バレない程度によける。


 

 

 その他、名前もよく知らない料理が並んだ。 正直、食べられればなんでもいいのだが、父は食事にうるさい人物だ。 料理は任せているし、文句は言えない。 言うつもりもないし。

 

 

 「よし、じゃあ食べよう」

 

 「頂きます」

 

 「あー、味薄いかも」

 

 「気のせいだよ」

 

 「そうかぁ?」

 

 「うん」

 

 

  いつもの光景の中に、いつもと違う自分がいた。 しかし、変化を嫌っていたくせに、変わることが出来た人を、羨ましく思っていた俺には、悪い心地はしなかった。

 

 ・・・・・・あれ、もしかしたらシチューの味、薄いかも?

作者はキャベツ大好きです。 キャベツうめえ!!!キャベツうますぎ!!信じられないシャキシャキ感!ドレッシングはいらねえ!!素材本来の味!!


花薫くんはキャベツの甘味が苦手なようです。 お子様なんです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ