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モユルハナ  作者: 四季 ヒビキ
〜高校一年生〜
5/15

ブレイク & ブレイク

美術部の部室、美術室に向かう前のお話。


この高校、どうやら変わっているのは「生徒」だけではないようで・・・・・・?

曇り空が、雨を降らせようとうずうずしているみたいに、雲の厚さは、じわじわと増しているみたいだ。

 





 廊下の明かりが白く照らすが、どこか物寂しい影が、あちこちに出来ていた。

 

 美術部の部室に行く前に、俺らは写真部すぐ横の保健室に寄った。

 

 「あらら・・・・・・痛そうね、染谷くん。 ご飯どうするの?」

 

 「は、はは」

 

 固まっている。 ただ治療を受けているから動けないのか、人と接するのが怖くて動けないのかはわからないが、彼は病院に連れてこられた犬のようだ。 ・・・・・・雰囲気も、どことなく柴犬っぽいし。

 

 にしても、ひどい出血だ。 思い切り舌を噛んだかと思うくらい血が出ている。 「美術部」の言葉にこんな危険性が含まれているなんて、思いもしなかった。 俺も、おそらく染谷も。

 

 

 「ねえ岸沼くん、彼は一体どうやってこんな怪我をしたの?」

 

 「ああ、普通にかんだだけです」

 

 「彼らしいのね」

 

 

 辛辣だ・・・・・・。 保健医は顔色一つ変えず言い放った。普通に噛んだだけなら、こんな出血する筈がないと知ってるのに・・・・・・。

 

 「・・・・・・あ、そうや岸沼。 美術部の部長やけど、あんな、あんまり変な目でっちゅうか・・・・・・。 人に害なす輩とちゃうから、いじめたらあかんで」

 

 

 心配そうに、というより怯えたように話す。 そんなに変わったヤツに今から会いに行くのか? ちょっと不安になってきた。

 

 

 「いや、いじめないから」

 

 「いや・・・・・・その、変わった人、だから」

 

 「染谷程じゃないさ」

 

 「・・・・・・はあ、おい、そんな変なんか」

 

 染谷程変わったヤツなんて早々いないと思うぞ・・・・・・。 その言葉は胸にそっとしまった。

 

 

 明らかにしょぼくれている染谷を他所に、保健医は淡々と、染谷の口の中に脱脂綿を詰めこむ。

ふごふご言って苦しそうだが、仕方がない。

 

 「ふ、ふごっほひひふは(ち、ちょっと入れすぎ)

 

 「ごめん、何言ってるかわかんない」

 

 「んー!! んご!! んごうおう!!」

 

 必死にギブアップを体で表現している。 そんな染谷を弄ぶように、ひたすら脱脂綿を口の中に満たしていた。

 

 

 

 「先生、そろそろ死にそうです」

 

 「え? あっ・・・・・・」

 

 あっ・・・・・・で済ますなよ。 一応仕事なんだから・・・・・・。

 

 

 

 

 「おい、死因が脱脂綿による窒息死になるところやった・・・・・・」

 

 「あー、ごめんごめん。 そんな苦しいと思ってなくてさ。 おまけに考え事してた」

 

 「岸沼、なんか貧弱な俺らでも振るえる武器なか?」

 

 「やめとけ、死ぬぞ。 俺らが」

 

 「はっはっは・・・・・・仲いいねぇ、青春だねぇ。 はい、これ授業のやつ」

 

 「・・・・・・?」

 

 「ああ、これはな、授業中不慮の事故やらで保健室に行った時、欠席として扱われなくなる魔法の紙切れ」

 

 「・・・・・・それ、持病の発作とかでも使える?」

 

 「恐らくな」

 

 ・・・・・・もっと早く知っておけば、単位とか誤魔化せたかもしれない。 もったいないことをした。

 

 「岸沼くんには、正当な理由サボりかどうかで使われてるか審査が必要ね・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 保健室を後にした俺らは、4階の美術室に向かう最中、とある匂いを感じ取った。 この匂いは、つい最近嗅いだことのある匂いで、いい匂いとは言えないだろう。

 

 

 「・・・・・・なあ、なんか煙草くさくないか?」

 

 「ん・・・・・・?」


 こいつは何かに気がついたらしい。 染谷は階段を上り、駆け足で向かった。 追いかけたいが、一階分の階段の上り下りでも、息が上がる俺には無理だ。

 

 俺がもたもたしている間に、あいつはすたすた上って行ってしまう。 やがて、足音が聞こえなくなった。

 

 

 「・・・・・・おや、吉田先生。 こんなところでいかがなさいましたか?」

 

 「だあああああっ?! へっ?! ああああああの・・・・・・」

 

 俺が喘ぐように息をしながら階段を上り終えると、また珍奇なものを目にした。 ここには変なのしかいないと聞いていたが、あまりにも予想外すぎる。 俺が出会った人物なんて、ほんの一端に過ぎないのに。

 

 体格に恵まれた、厳つい褐色のおっさん。 広い背中で何かを物語る、ハードボイルドな男。 そんなキャッチコピーを付けたくなるような、怪しい匂いを醸し出す、吉田先生はそんな男だった。

 

 「そっ、そそっそ、生徒会長?! い、いきなり話しかけんで貰えるかい?! おじさんめちゃくちゃびっくりするから!!」

 

 「ははは、ご冗談を。 こっちの方がびっくりしましたよ」

 

 なんだと・・・・・・あの染谷が、堂々と喋っているだと・・・・・・?! てっきりびびって逃げ出すと思っていたのに。

 

  しかも、相手は先生。 ついでに、喋らなければガタイのいい怖いおっさんだぞ? こんなギャップのある先生と知らなければ、話しかけることすらはばかられる。

 

 

  あいつが煽るように話している相手の風貌を、簡単に話すなら「ヤクザ」だ。 坂上もなかなかの迫力があったが、こっちは「迫力」なんてもんじゃない。 「覇気」か「殺気」だ。

 

 しかし、後ろから話しかけるだけでこの怯え様だ。 渋い声で悲鳴を上げているおっさんは、手にタバコを持っていた。 匂いの正体はこのおっさんで間違いないだろう。

 

 

 「へえ、女子トイレの外だとバレないと思っていたようですね。 最近あそこが不良のたまり場とも知らずに」

 

 「あ、やっぱり・・・・・・バレてますよね。 迅クン、頭いいから・・・・・・」

 

 「それで、懲りずに喫煙ですか・・・・・・」

 

 

 坂上が語る、知らないおっさんは吉田先生だったようだ。 一年留年しているとはいえ、一ヶ月間授業に出ているところを見たことがない。 そんな感じで去年も居たのだろう。 教師の顔を覚えているはずもないだろう。

 

 

 「お、お願いします!! このことはご内密に・・・・・・」

 

 「いいですよ、写真部の設立も"快諾"して頂いたので、先生にはいつも恩恵を受けていますから」

 

 「は、はは・・・・・・」

 

  

 苦笑いでこの場を誤魔化す先生。 これでは立場が完全に逆だ。 生徒会長が、慕われる理由を目にした。

 

 

 「そうだ、吉田先生。 この生徒が、美術部の見学をしたいと」


 「え? 美術部に・・・・・・?」

 

 「ええ、美術部です」

 

 「染谷、この先生が顧問なのか?」

 

 「顧問であり、生徒指導も兼任されているぞ」

 

 「そうか・・・・・・、いいけど彼女、今日機嫌悪そうだよ」

 

 「大丈夫でしょう、こいつなら。 そういう生徒ですから」

 

 

 え、やめてくれ。 俺はそんなにコミュニケーション能力に自信はないぞ。 ・・・・・・お前ほどじゃないけど!

 

 

 「大丈夫や、花や動物好きに悪いやつはおらんね」

 

 「俺、花が好きとも動物が好きとも言ってない」

 

 「まあまあ、おいはお前がいいやつだって信じとうよ」

 

 「・・・・・・はあ」

 


 「で、二人共今から行くのかい?」

 

 「そのつもりでした」

 

 「そっか、じゃあ行こうか・・・・・・」

 

 持っていた煙草を、壁に押し付け火を消した。 ジリジリと火が小さくなると、煙は細くなり、やがて消えた。

 

 

 「じゃあ、行こうか岸沼クン」

 

 

 

 「え、どうして俺の名前を?」

 

 「え?」

 

 「え」

 

 「岸沼、吉田先生はその・・・・・・」

 

 「俺、岸沼クンの事いつも注意してたはずなんだけど・・・・・・」

 

 「え?」

 

 「もしかして・・・・・・あの、国語の、よく誤字をやらかす・・・・・・?」

 

 あの、ボヤ騒ぎの時の前の時間の先生だったのか・・・・・・。 なんなんだ、授業と態度変わりすぎだろ・・・・・・。

 

 「・・・・・・花薫かおる、もう少し、周りに興味を持とうな」

 

 

 

 「俺、教師向いてねぇな、はは・・・・・・はあ」

 

 

 

 

キャラ紹介


吉田先生・・・・・・よしだ 男 46


強面で体格もしっかりしているが、風貌とは反対に性格は繊細で小心者である。 風貌だけで生徒指導部に回され、坂上真白のような不良に怯えながら日々を過ごしている。


妻子持ちで、娘が二人いる。




迅は便利な人物だなあ(白目)

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