表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モユルハナ  作者: 四季 ヒビキ
〜高校一年生〜
3/15

保健室

保健室での惰眠を貪ろうとしている花薫くん。 保健室は貸切だと思っていたが、思いもよらぬ客人が・・・・・・?

保健室は日差しが入らない。 何故なら、良く分からないでっかい木が窓を守るように生えているからだ。

 

 おかげで、あの柔らかい日差しは入らず、室内灯の寒々しい光が、しんとした保健室に広がっている。

 

 寒々しい光と、軋むベッドは病院を彷彿とさせた。 ずっと寝ていると、腰が痛くなるあの感じまでよく似ていた。

 

 

 

  

 運び込まれてから三十分程経ち、思うように眠れずにいた時、煙草の匂いが鼻を掠めた。 ここは定時制ではないので、年齢層はほぼ変わらない。 しかも、喫煙室は設けられておらず、教師でさえも校内で吸うことを禁じている。 ・・・・・・となると、この匂いはあのボヤ騒ぎの犯人であろう。

 

 ゲホゲホと少女の咳が聞こえた。 保険医が付き添っているのか、話し声も聞こえた。 だがしかし、ドアの窓からは姿が確認出来ない。

 

 俺は一番ドアに近いベッドに体を横たえているが、そのせいでやらかしたのだ。

 

 「じゃあ、ちょっと待っててね、坂上さん」

 

 坂上・・・・・・うちのクラスにも確か、いたはず―――――――。

 

 

「なんだよ、キャンキャン吠えやがって。 犬かっつの・・・・・・ゲホッ・・・・・・ゔえぇ」

 

 ―――――――は?

 

 「しかも、吸ってたのあたしじゃねーし・・・・・・。 なんかよくわかんねぇおっさんが吸ってただけだし? その場に居合わせただけだし! あー腹立つわぁ」

 

 この学校に不審者がいた事も驚きだが、それ以前に・・・・・・なんだこいつ。

 

 俺の目の前でぶちぶちと愚痴るボヤの犯人は、どう見ても小学生にしか見えない女子生徒だった・・・・・・。

 

 よく「ヤンキー」と聞いて、思い浮かべる格好といえば、足首までの長いスカートか、極端に短いスカートで、長い金髪に、ピアスやタトゥー・・・・・・誇張されていそうな情報だが、一目見て「浮いてそう」な感じだろう。

 

 腰までの長い金髪、長いスカート・・・・・・まあ、小学生にしか見えないあの人は、ただ単にサイズがなかっただけなんだろうが。

 

 目つきと金髪と身長以外、その辺にいる高校生と何ら変わらない。 こんなやつが犯人だったとは・・・・・・てっきり、もっとガラの悪い体格のいいやつを想像していただけに、驚きを隠せなかった。

 

 「・・・・・・おい、何見てんだよ」

 

 「えっ・・・・・・いや、別に」

 

 「だったら見てんじゃねえよ!! シマウマみたいな頭しやがって!!」

 

 自分でも知らないうちに彼女をジロジロ見ていたようで、彼女に噛み付くように怒鳴られた。 にしても、シマウマか・・・・・・。 意外と可愛い例えが返ってきた。

 

 確かに、俺の頭は白髪がところどころ混じっていて、某天才外科医のようになっている。 流石にツギハギではないが。

 

  ぼすん、と布団からホコリが一斉に舞う音がした。 吸っていた訳では無いのに、具合が悪いのか? 首を傾げていると、答えを知る人物が帰ってきた。

 

 「お待たせ・・・・・・、携帯酸素、持ってきたよ」

 

 携帯酸素・・・・・・?

 

 「・・・・・・」

 

 無言でそれを奪い取る彼女に、八の字眉毛の保健医。 名前は知らないが、一部の生徒には人気があるようだ。

 

 「それで、女子トイレでむせながら、どうして煙草を吸っていたのかな?」

 

 「だから、吸ってないって!! なんべん言えばわかんだよアマが!!」

 

 ・・・・・・おお、怖い。 小さな体から出てるとは思えない声量で脅しつけている。 小さいチワワに怯えているようで、自分が少し情けなかった。

 

 「煙草の煙吸って具合悪くなったんだよ、クソが!! 悪かったな!! 幼児並みの体で!!」


 うわあ・・・・・・あんな怖いのに、ここへ来た理由がダサい。 おそらく、知らないオッサンの吸っていた煙草の副流煙で、具合悪くしたのか・・・・・・。

 

 「あーはいはい、寝てる人もいるんだから、静かにねー。 ステイステイ」

 

 「犬じゃねえよ!! 」

 

 「・・・・・・」

 

 「あー、ごめんね岸沼くん。 うるさかったら、こいつ生徒指導室あたりに連れてくよ」

 

 チラと時計を見ると、17時12分。  六時間目はとっくに終わり、部活中の生徒以外は既に下校している。

 

 「・・・・・・いえ、時間も時間なんで、帰ります」

 

 「あらそう? 送ってこうか?」

 

「多分、大丈夫です」

 

 「わかった、気をつけてね」

 

 よっこいしょ、と爺さんみたいによろよろ立ち上がり、イライラしながらうろちょろしている坂上をちらっと横目で見た。 立ち上がってみてみると、坂上の背の低さが顕著に現れていた。

 ・・・・・・俺の胸の下くらいか。

 

 ガラガラと戸を引く音と共に、俺の中の坂上への興味も、閉じられてしまった。 ちょっと怖かったからか、忘れようとしているのかもしれない。

 

 

 

 

 静かな玄関を抜けた先の校庭は、オレンジが深い闇を作り、サッカー部と野球部の掛け声が雄々しく響いていた。 同い年とは思えないほど、若々しく、それでいて皆より一歩進んでいる背中が、物語るもの。 俺には、一生体験せずに終わりそうだ。

 

 この一時も、掛け替えのないもののはずなのに、俺は何をしているんだろうか・・・・・・。 そんな事も、夕日を見ていれば消えてくれればいいのに。

 

 溜息は、五月の風に乗って何処かへと流される。 今日の出来事も、旋風のように過ぎていった。 ・・・・・・いつか、忘れ去られたとしても、俺が何かを残すことはできるのだろうか。


 ・・・・・・柄にもなく物思いにふけるもんじゃないな。 今、車に轢かれかけたし。 気をつけよう・・・・・・。

キャラ紹介


坂上真白・・・・・・さかがみましろ 女 高一

詳しいことは次話以降で書かれるが、わかっていることは"超低身長"の"ヤンキー"ということだけである。


しみじみした空気にしたくなくて最後笑いに走ったことをこの場を借りて反省も後悔もしません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ