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モユルハナ  作者: 四季 ヒビキ
〜保健室常連〜
15/15

殻破り、光さす

お久しぶりです・・・・・・(昇天) 半年ぶりです・・・・・・。 特に作者がリニューアルされたわけでもなく、半年前のまんまで戻ってきました。 忘れている人も俺俺詐欺状態の人も、よろしければ暇潰しにどうぞ・・・・・・。

跳ねる心臓を危惧しつつ、四階まで登る。 不整脈なのか、心因性なのかはわからないが、動悸が収まりそうにない。

 

 こういう時はたいてい弱気になっているもので、進んで明るいところに行かないと不安になる。 太陽のスポットライトは、勇気づけてくれるわけでもなく、背中を押すわけでもないが、静かに別世界に誘う。

 

 そこだけ時が止まったような、みんな生きているのに、俺だけ止まったような、不思議な錯覚を覚えるのだ。 こんなの、俺だけなんだろうが。

 

 時間を感じさせない、朧気なひかりの筈なのに。 心が動けば動くほど、刺さるように降り注ぐ。

 

 落ち着いていると、そのひかりが、丸みを帯びた、何者かの胎動のようなものを乗せる。 とても抽象的で申し訳ないが、今に俺にはそうとしか伝えようがない。

 

 ・・・・・・今は、全然丸くない。 チクチクと、縫い針のような細く鋭いひかりだ。 もしかしたら、こんなことしていないでさっさと行け、という誰かの思いなのかもしれないが。

 

 さあ、ついたついた。 学校に端っこの部室。 音がしないが、一応ノックをして入る。

 

 

 

 「・・・・・・失礼します」

 

 

 「・・・・・・花薫くん、ね」

 

 

 

 後ろを振り向かず応答する。 しかし、俺の声をそんな聞いていないはずなのによくわかったな・・・・・・。

 

 

 

 「そりゃあね、そんなに息をあげて入るのなんてね」

 

 

 

 嗚呼、そういえば。 俺は今息が上がっている。 こんなにぜえぜえいいながら美術室に入るなんて俺しかないだろう。 あのマダオ・・・・・・吉田先生は震えてこそいるだろうが。

 

 

 

 「・・・・・・あの、今日からよろしくお願いします」

 

 

 

 「ふふ、もう活動しているじゃない。 筆を買いに行くのも活動の一つよ」

 

 

 

 「あ、そういえば・・・・・・。 俺は、一体何をすれば」


 

 

 「・・・・・・? 部活内容? えっとね、花薫くんは何が得意かわからないから、一通り美術の何たるかを教えるわ」

 

 

 「・・・・・・俺、絵の具三回しか触ってないんですよね」

 

 

 「あらら・・・・・・ま、まあなんとかなるでしょう」

 

 

 

 目をそらしどこか遠くを見つめ、手を止めることなく会話を続ける。

 

 

 「じゃあまず、彫刻から」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――三時間後。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・・・・どうだった?」

 

 

 

 「腕がつりそうです」

 

 

 

 「あらら」

 

 

 

 

 冗談抜きで筋肉痛になりそう。 医者から体力増やせ、食事量増やせとさんざん言われてきたが、大人しく筋トレでもしておけばよかった。 すごい辛い。

 

 

 ぷるぷると貧相な腕が震える。 まさか、筆を重たいと思う日が来ようとは思いもしなかった。 鉛にすら思える重みが、幽霊部員から才能のない美術部部員へと誘ってくれるのだろうか。 今すぐにでも辞めたくなるほど辛い。

 

 

 

 

 「花薫くん・・・・・・もしかしたら、油絵の才能があるかもね? 」

 

 

 

 「油絵・・・・・・ですか」

 

 

 

 「うん、私も油絵が一番得意なんだ。 最初は大して興味もなかったんだけどね、続けていくうちに、離れられなくなっちゃった」

 

 

 

 「先輩の絵って、なんか抽象的ですよね。 細かいところに、醸し出すようなメッセージがあるような気がします。 まあ、俺も詳しくはわからないんですけど」

 

 

 

 「私の絵が、抽象的?」


 

 

 「ええ」

 

 

 

 訝しげに頭をかしげる先輩。 いったい俺の発言のどこが気に入らなかったんだ・・・・・・!! 態度か!! 態度なのか!!

 

 

 

 「・・・・・・私、リアリストだから。 抽象的な絵を描いてないと思うんだけど・・・・・・。 もしかしたら、まだまだ夢見る少女のつもりなのかしらね」


 


 「エッ・・・・・・センパイリアリスト」

 

 

 

 「んもう、オーバーヒートしないの」

 

  

 

 

 ・・・・・・リアリストって、現実主義だよな。 その割には、俺のことを「うまそうな気がする」「カンで感じた」とか言ってたよな。 先輩は、リアリストに憧れているのだろう。 深く考えず、そのまま忘れた。

 

 本人は写実的な絵を書いているつもりだったのかもしれない。 好きなものを描いているのに、望んだ評価がかえって来なかったら、落ち込むだろう。 どこぞのヒが付く独裁者のような人生を歩まれても困る。 黙っておこう。

 

 

 

 

  「花薫くん、正直まだ筆づかいとかは下手なんだけど・・・・・・それでも、色彩センスとかはあると思うし、何よりモデルとか、センスいいと思う」

 

 

 

 「あ、ありがとうございます」

 

 

 

 「私もね、ぶっちゃけすごく詳しいわけじゃないから、これを機に勉強しなくちゃね」

 

 

 

 「はは・・・・・・」

 

 

 

 

 

 ぎくしゃくした口の動きで返事をした。 緊張はしていない。 でも、俺は先輩が苦手だ。

 

 

 最初に出会った、怖気付くほどの神々しさに辟易した。 そして、その反動で大きくなった人間くささに、狼狽した。 ギャップに萌えることもなく、ただただ困惑している。

 

 球体関節人形のように、ぎこちなくて、硝子のように人工的なイメージは、今となってはどこにも無い。 ・・・・・・最初は、悪い方に捉えていた。 「先輩をモノとして捉えてしまった」と。 アルビノという希少価値に魅入られてしまったのかと。

 

 実はとてもポジティブだったのかもしれない。 今は、先輩を「ヒト」として認識した証拠なんだと飲み込むことが出来た。 俺の目で捉えた先輩は、動きが滑らかで、僅かな動きに生を感じる。

 

 だからこそ、なのだろう。 先輩は苦手だ。 先輩は、どこにでもいる女子だ。 俺は・・・・・・ごく普通の人間が苦手のようだ。

 

 

 

 

 

 

 俺は、どこでも割と浮く。 髪の毛が白黒だからじゃない。 人との関わりが少なく、リア充と言う存在には程遠い日陰者。 それを塗りつぶしてしまうほどの個性の持ち主たち。 それが、先輩や迅だ。

 

 変人の流刑地という、聞いただけで尻込みしそうなこの場所。 しかし、俺は入ってみてわかった気がする。 この学校は迅や先輩クラスの変人がゴロゴロいる。 そんな中で俺は、影どころか空気だ。 なんの注目も浴びない。 ちょっと体が弱いだけの、一般人だ。

 

 俺を覆い隠す、ありがたい存在。 俺だって、一時は「有名なバンドのボーカル兼ギターのイケメン」のような華やかな自身を思い描いていたともさ。 が、ここじゃ「坊さんが毎日木魚の代わりにヘヴィーメタルを演奏する」くらいじゃないと、そうそう陽は当たらない。

 

 

 ここの「出る杭は打たれ、出ない杭は引っこ抜かれる」という、恐ろしい世界で生きる為には隠れ蓑が欲しいところ。 モブと言うには出番があって、でも印象が薄いキャラを俺は目指している。

 

 ヒトと思えない先輩は近寄り難く、どこか怖かった。 人らしい先輩は、なんだか普通で、拍子抜けすると同時に「期待外れ」という思想が巡る。

 失礼極まりない。 俺が見ている先輩なんて、俺の記憶にいる先輩でしかないというのに。

 

 先輩は、少し変わっているだけで、普通の女子なのだ。 ひっそりとそこにいる、生徒A。 俺は、なんにも取り柄がない、村人Tぐらい。 彼女と俺の違いは、なんだろうか。

 

 それは、自分の良さを、楽しみ方を知っているかどうかだ。 先輩は、芸術という楽しみを見つけた。 キャンバスに彼女の世界を写す時の姿は、絵になっている。 というより、彼女自身が絵から出てきたような風貌だ。

 

 俺は、趣味も、好きなこともない。 心臓が苦しくなるから走りたくない。 キャベツは甘いから嫌い。 じゃあ、何なら好きなんだ? わからないまま過ごしてきた。 俺は、先輩に会って気がついた。

 

 

 先輩の人間離れした雰囲気に飲み込まれるように惹かれたこと。 そして、彼女の人間らしい部分に触れた時、期待はずれだと、嫌悪したこと。 彼女に苦手意識を持ったこと。 それは、すべて自分に返ってきている。 すべての思いは、俺自身に向けられたものだったのだ。

 

 見た目は周りより個性的なはずなのに、中身は全く面白みのない、無個性な生き物。 何をしても喜ばれないし、喜べない。 そんな花薫という男。 そいつが憎たらしいだけだった。 そして、憎たらしい俺が、榊先輩に重なったのだ。

 

 体が弱い・・・・・・それは、宍戸先生に重なった。 俺は、体が弱いことを理由に運動を嫌った。 今日四階まで階段を上がっただけで息が切れたことを生まれて初めて後悔したかもしれない。

 

 コミュ障は迅だろう。 あいつほどガッチガチにはならないが、余裕で頭が真っ白になるだろう。 坂上、あいつは不良になりきれないガキだ。 俺も、今までの学生生活を有耶無耶に過ごし、成績は底辺だ。 もう、優等生は諦めている。 でも、まだどこかで俺は優等生に憧れを抱いているのだ。

 

 

 榊先輩。 見た目が奇抜で、どこか気味悪がられる。 俺も、髪の毛が白くなってからは周りの目を盗んで生きようと努力した。 聞こえない悪口に怯え、自ら日陰者を望んだ。 しかし、彼女はあまり気にせず生きているように受け取れる。

 

 先輩は、気味悪がられようとそのままの姿で生きている。 なんてことないです、というふうに。 俺は、俺は・・・・・・。

 

 そう考えた時、ふと顔が赤いことに気がついた。恥ずかしい。 この状況も、この惨めな思いも。 見た目の奇抜さに共通点を見出して、勝手に近づいたくせに、先輩こそが俺が望んだ「自分の好きなことに夢中になって生きる人生」のお手本みたいな「自分と似ていて、俺よりも優れている」存在だと知り、拗ねていたのだ。 同時に、そうなりたいという希望が、胸に満ちていたのだと。

 

 

 

 

 

 

 「・・・・・・花薫くん?」

 

 

 「えっ、あはい」

 

 

 「もしかして、今頼りないとか思ったの?」

 

 

 「いや、そんなんじゃないです。 むしろ・・・・・・楽しみ、です」

 

 

 「そう、よかった」

 

 

 

 

 はは、と乾いた笑いを漏らし、目をそらした。 すこし、胸のつかえが取れたような気もして、すっとした。

 

 

 

 「・・・・・・もうこんな時間ね、帰りましょう」

 

 「そうですね」

 

 「明日も、やるけど」

 

 「行きますよ」

 

 「わかった、気をつけてね」

 

 

 

 きっと、明日もこんな約束をするのだろう。 この約束が、俺に個性をくれるかもしれない。 不整脈じゃない胸の大げさな鼓動が、俺の体に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 帰り道、同じ高校の生徒に混ざって帰る。 皆、一度きりの高校生活を楽しんでいる最中だ。 各々好きなことを部活でやっている。 やり足りないような顔で帰るやつ、いつ死んでもいいと思えるくらいに出し切ってるやつ。 俺は、まだ始まったばかり。 まだどっちにもなれない。 でも、二年後には顔つきが変わるだろう。

 

 俺は、それぞれの個性に圧倒される中で、その人らに何かしらの「長所」を見つけていた。 その長所は、俺が願っても手にできないような、素晴らしいもの。

 

 例えば、迅は弟思いの生徒会長。 成績も優秀だし、スピーチではあのおどろおどろしい雰囲気を跳ね除け、堂々と話している。 仕事だってこなし、家事もこなす万能なやつだ。 その上、部活体験の時も、人に酔っていた俺を助けてくれた。

 

 宍戸先生。 いつもホンワカしていて、俺を変な目で見ない。 あくまで、普通のクラスメートとして見てくれる。 病弱な先生は、同じ不整脈持ちどうし何かと共感でき、それでいて頼りがいのある先生だ。 俺がぶっ倒れたらまっさきに駆けつけてくれるだろう。

 

 坂上・・・・・・は、ぶっちゃけよく知らない。 だが、あの不幸っぷりは放っておけない。 一生懸命に不良ぶっているんだと聞いた。 タバコも吸えないし、酒も飲めない。 ピアスホールを開けるのが怖く、注射も嫌い。 背も低く、スカートを折れない。 ここまで来ると、ただのマスコットキャラクターだ。 髪の毛こそ染めているものの、心はまだ染まりきっていないようだ。

 

 

 

 先輩。 ・・・・・・なんだか、先輩はわからない。 機嫌がいいと、行動的になる。 現に、俺の入部準備の買い物は、エネルギッシュだったし。

 興奮すると歯止めが聞かないマシンガントークだし、俺が非力なの知ってて荷物持たせるし・・・・・・。 美しい容姿だが、感情の起伏が大きくて、といっても二パターンしか知らないんだけど。 不思議な人だが、俺に可能性を見出した。 「センスがあるかも」の一言で。

 

 その一言は、夢見がちな高校生、すなわち今の俺には、とんでもなく甘い言葉だ。 エンジンがかかったように揺れる気持ちを、さらに加速させた。

 

 変われる。 俺でも、俺らしく見違えるほど変われるかもしれない。 それが、こんなに嬉しいことだとは知らなかった。

 

 

 

 今日の空は、洗ったように綺麗だった。 梅雨が明けたと同時に、俺の思考も洗い流した。 刺さるような陽の光は、もしかしたら、鳥のヒナが殻を破った隙間から見えた、初めての光だったのかもしれない――。

今回は文字数が多いです。 なんでかって? ほっぽったプロットがあんまりにもガバガバだったから加筆修正したら伏線とか拾えてなさすぎで修正せざるを得なかったのさ!! クリスマスぼっちで過ごしたからじゃないです!!

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