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モユルハナ  作者: 四季 ヒビキ
〜保健室常連〜
14/15

未成年だけどコドモじゃないだとかふざけたこと言ってるうちは例え1000歳でもお子様です

今回は少々不適切な表現を含むギャク貝です。

あー、痛い。 なんとなく口に出してみる。

 ラルゴの冷房の寒さとは打って変わって、学校は蒸し暑いことこの上ない。 なんだこの燻製器をバカでかくして、スモークされるものを人間にした施設は。

 

 クーラーの一つや二つくらい体育館につけておけよ。 暑いわ。 死んでしまえってか。 うるさいバーカ。 暑いことに何ら変わりねぇよバーカ校長の熟年離婚。

 

 

 

 「・・・・・・以上で、部活動部長任命式を終了いたします。 三年生から順番に―――――――」

 

 

 

 あああああああ!! 話が!! 長いんだよ!!

 以上!! みんな帰れでいいじゃないか!!

 ほんとに殺す気かこの学校!! 体育館のドア開けておいたっていいだろ!! なんでわざわざ締め切るかな!!

 

 

 

 「岸沼君、暑いのはわかるけど・・・・・・血走った目でそんなこと呟いたら、お友達に誤解されちゃうわよ?」

 

 

 「あの熟年離婚校長死ねってかよ殺すぞ話の要点も纏められないクソが・・・・・・」

 

 

 「あらまあ・・・・・・どうしましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜教室、英語の授業にて〜

 

 

 

 「はい、この時間を席替えに使います。 私が用意したくじを引いていってください。 それでは、この列から順番に回ります」

 

 

 宍戸先生はとてとてと小動物のような歩みでくじをまわしている。 実は、席替えのためにくじを引くのは生まれて初めてである。

 

 席替え自体はやったことがあるが、体が弱いので学校もろくに行かず、先生が変わりに引いていたり、後ろの席で固定になっていた。

 

 今俺は窓際の前から三番目に座っている。 迅は、右から三列目の五番目を領地にしている。

 

 坂上は・・・・・・すまないが小さすぎてわからない。 いつもいないし。

 

 

 

 「はい、岸沼君起きててえらいえらい」

 

 

 「え? あ、あはは」

 

 

 全く悪意のない言葉をぶつけられると、正直恥ずかしい。 この先生は素直に俺を褒めてくれている。 ほかの教師には皮肉られているが、宍戸先生だけは別なのだ。

 

 

 俺が引いたのは・・・・・・一番?

 

 

 待ってくれ。 もしかして俺、一番前?

 

 

 「・・・・・・」

 

 

 

 

 震えが。 震えが止まらない。 俺、実は一番前も初めてなんだ・・・・・・!!

 

 

 嫌だ。 一番前だけは嫌だ・・・・・・。 寝れないじゃないか。 いつもいつもいじられ、こき使われ、その上チョークを至近距離で投げられる!! 体罰反対!! 叩いても蹴ってもいい体なんてこの世にありはしないんだぞ!!

 

 

 宍戸先生は絶対ないが、ほかの教師はわからない!! 吉田先生は見掛け倒しのまるでダメなおっさんだからあれだけど・・・・・・その・・・・・・ほかの教師の名前覚えてないけど!!

 

 終わった。 俺の高校生活、美術幽霊部員から元幽霊部員になった。 もうだめだあああ・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 〜放課後〜

 

 

 

 

 

 「はっはっは!! おま、幾らなんでも宍戸先生がそんなくじを単純に作るわけなかが」

 

 

 「もうなんとでも言え・・・・・・。 俺は肝が冷えて寿命が三年は縮んだ」

 

 

 「ま、おいの隣に来たからには、成績うなぎのぼりじゃあ! 良かったの!」

 

 

 「カンニングはしないぞ」

 

 

 「たたき起こしちゃるわ! いつもグースカ寝とんの心配してたし、ちょうどえがった」

 

 

 

 「は・・・・・・いつも満点が当たり前のお前にはわかんないだろうな。 授業聞いてたって、なんの知識も理解できない俺の気持ちなんか・・・・・・」

 

 

 「だーいじょうぶ大丈夫! 授業に出た言葉だけ覚えれば点数は取れる! 前知識必要なし! モーマンタイ!」

 

 

 「はあ、一番後ろで良かった・・・・・・」

 

 

 

 

 

 「・・・・・・!」

 

 「・・・・・・!・・・・・・!」

 

 

 

 遠くで、叫び声のようなものが聞こえた。 悲鳴とかではないようだが、喧嘩でもしているのか?

 

 

 

 「おい、ここの校門にたむろってたら帰れないぞ」

 

 

 「いや・・・・・・大丈夫やと思うな。 この声は、予想がつく」

 

 

 迅はいつになく冷静である。 なんだこのポンコツ、俺にも教えてくれないと怖いじゃないか。

 

 

 

 

 「・・・・・・坂上と」

 

 

 「・・・・・・と?」

 

 

 

 

 

 「あぁんコラ?! 何メンチきっとんじゃオラァ!!」

 

 

 やべー、これまじもんの喧嘩じゃん・・・・・・。 坂上の声がする。 迅は険しい顔つきで声のするほうを睨み、足取りを速くした。

 

 

 

 「あ・・・・・・? なんだドチビ。 お前も兄さんか姉さん探しに来てんのか? 」

 

 

 

 「あたしは!! 高校二年だよ!! 悪かったなクソチビで!!」

 

 

 

 「はぁ? ふざけたこと抜かしてんじゃねーぞ小学生。 だいたい・・・・・・兄さ・・・・・・一学年と同じリボンしてんじゃねえか。 コスプレにしかみえねー」

 

 


 「うるせえお前ん家何処だ!! 挨拶しにいってやらあ!! 覚悟しとけよ糞ガキ・・・・・・!!」

 

 

 

 「ちっせえのに虚勢だけはでけえもんだ」

 

 

 

 

 

 「うるさいぞ坂上。 俺の弟に手ェ出したら本当に退学にするからな」

 

 

 

 「・・・・・・おと・・・・・・うと?」

 

 

 

 

 坂上が噛み付いた相手。 それは、俺よりも背が高く、金髪と束ねた男だった。

 

 人を見下したような目で、胸ポケットにはタバコが入っていた。 俗に言う、不良だ。

 

 

 

 「・・・・・・チッ、おせえよクソ野郎」

 

 

 

 「悪かったな、待たせて」

 

 

 

 「え・・・・・・迅が死ぬほど方向音痴なのは知ってたけど・・・・・・弟に、迎えにこさせてたのか?」

 

 

 

 「ああ、そん通りじゃ」

 

 

 

 「マジかよ・・・・・・」

 

 

 

 

 似ていない。 弟なのに、明らかに強い。 明らかに喧嘩慣れしている。 売り言葉に買い言葉なんてせず、落ち着き払って相手を挑発する。 筋肉がつき、血管がうっすらと見える腕で、頭に血が登った相手を仕留めるのだろう。

 

 

 しかし、弟というならば、未成年なのは間違いないだろう。 タバコなんか持っていたら、即座に捕まるであろう。 ましてや、生徒会長の弟だなんて、恐ろしくてたまらないじゃないか。

 

 

 

 「・・・・・・つか、知り合いかよこの野良犬」

 

 

 

 「一応クラスメートだ。 あいつは留年して俺と同じクラスになった」

 

 

 

 「・・・・・・はん、さっさと学校やめちまえよ」

 

 

 

 「なんだとクソが・・・・・・」

 

 

 

 「お前は頭を冷やせ、単細胞」

 

 

 

 小さな体でつかみかかろうとする坂上を、声で抑え込む。 叫びも怒り猛りもせず、静かに止めた。 彼は、ぼそぼそと喋るが、普通に話せば割といい声なのだ。

 

 ぎりぎりとこちらまで歯ぎしりが聞こえる。 弟はタバコが吸いたいようで、胸ポケットを触り確かめている。 俺は、この中の誰にも勝てる気がしないので、びびって逃げ腰だ。

 

 

 

「・・・・・・花薫」


 

 

 「はっはい!」

 

 

 

 「・・・・・・また明日な」

 

 

 

 「迅・・・・・・明日、土曜日だぞ」

 

 

 

 「・・・・・・ぶっ」

 

 

 

 迅の弟が空気を読まずタバコに火をつけ、吸い込もうとした途端、咳き込んだ。 主流煙を吸い込むのに失敗したようだ。

 

 

  「あ、そうだった・・・・・・。 てか花薫、お前今日部活じゃろ、はよ行け」

 

 

 

 「・・・・・・あ、そうだったな。 じゃあ、気を付け・・・・・・」

 

 

 

 

 ガタガタガタガタ・・・・・。

 

 

 

 

 「え・・・・・・?」

 

 

 

 下駄箱が震え、いくつか靴が落ちた。 地震か? そう思考を張り巡らせて緊張感を持つと同時に震源地を見つけて緩んだ。

 

 

 

 「ひっ、ぼ、ボクはそんな・・・・・・なにもみてないから・・・・・・!」

 

 

 

 吉田先生だ。 俺が遅いから、様子を見に来たのだろうか。 そして、坂上と怖そうな男子を見つけて、震えながら勇気を振り絞ってこっちにきたのか。

 

 しかしまあ、むさい。 ヒゲ生やした体格のいいおっさんが震えで靴箱の靴を落としている光景なんて、ここでしか見られないだろう。

 

 

 

 

 「ゲホ、ゲッホ・・・・・・!」

 

 

 

 「おま、あたしそんなタバコ好きじゃな・・・・・・」

 

 

 坂上が白目を向いて、ピンと背筋を伸ばしたまま倒れた。 口からよだれを垂らし、ギャグ漫画みたいになっている。

 

 

 「ぶっ・・・・・・!」

 

 

 

 「・・・・・・さ、さかがみさん、だ、だ、だ、だいじょうぶかい・・・・・・?」

 

 

 

 震源地が遠ざかってこちらを見ている。 玄関のガラス戸のアルミサッシがカシャカシャと振動して気持ち悪い音を出す。

 

 

 

 「・・・・・・ふん」

 

 

 

 迅が坂上に蹴りを入れ、そそくさと帰ろうとする。 あいつ、坂上にはこんなに厳しいのか・・・・・・。 初めて知った。

 

 

 通りすがりの生徒は、坂上が怖いのだろう。 みんな無視して帰っていく。

 

 

 

 「ねえ、誰か倒れてるよ・・・・・・」

 

 

 

 「え、あれうちの生徒・・・・・・? 誰かの妹かと思った」

 

 

 

 「ちっさ・・・・・・なんか、ほっといたらすぐ死にそう」

 

 

 

 

 ・・・・・・どうやら、違うみたいだ。

 

 

 

 

 帰宅ラッシュの玄関で、人がいっぱいいるが、誰も坂上を助けようとせず、過ぎ去って行った。 そこに、とある団体が押しかけてきた。 野球部だ。

 

 

 

 

 「さあ小松くん!! ランニングの時間だ!! 俺達が毎日欠かさずやっていることとはなんだ!! 」


 

 

 「はい先輩!! それは息と呼吸と酸素吸引です!!」

 

 

 

 「全部同じだな!! ただ、野球においては呼吸も大事なトレーニングだぞ!! 素晴らしいな君は!! コート十週走っていこう!!」

 

 

 

 「ありがとうございます!!」 

 

 

 

 「よし、いい返事だ!! 田中も見習えよ!! 誘ったお前よりもやる気があるなんて!! 」


 

 

 「小松ゥ・・・・・・帰ってこいよぉ・・・・・・」

 

 

 

 

 ありし日の記憶。 お見合いと野球は一緒だと言われ、半ば強制的に入部した、あとで同じクラスだと知った田中と小松。 小松はあの時は逃げきれたが、あのあと田中により入部させたらしい。

 

 それが、今はこうだ。 誰よりも真っ直ぐで野球しか見えていない少年へと変貌を遂げた。 変人の流刑地、そこが変人だけを取り入れて構成されているんじゃない。 こうして、真っ当に生きるまともじゃない人間を、ああやって製造していくのだ・・・・・・。

 

 

 

 

 「・・・・・・」

 

 

 

 「涼、タバコ!」

 

 

 

 「え・・・・・・あっつ!?」

 

 

 

 口にくわえていたタバコを落とし、制服を焦がしたようだ。 今更だがスプリンクラーは作動しない。 ある意味よかった。 俺も坂上もずぶ濡れだし、なによりあそこの野球部が、濡れた服が乾くまで田中たちが走らされていたかもしれない。

 

 

 

 

 「ほら、帰って手当するぞ」

 

 

 

 「俺がいないと帰れない方向音痴はどこのどいつだ!!」

 

 

 

 

 

 ・・・・・・弟、もしかしたらここの高校に入るんだろうか。

 

 

 悪い頃は言わない。 今からでも勉強して、この高校以外を志望した方がいい。 俺は、この時だけ先輩ヅラが許されるような気がして、そう思いながらすべてを忘れて美術室へ向かうのであった・・・・・・。

 

 

 

 

 

染谷 涼 ・・・・・・182cm。迅の弟だが、父親が違うらしい。 。その証拠に、血液型がBのRH-である。 (迅はBのRH+)


次話はもう少し落ち着いた話の予定です。


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