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モユルハナ  作者: 四季 ヒビキ
〜高校一年生〜
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五月

現代日本の、どこかにある市立高校に入学して1ヶ月が経った主人公。 特に趣味もなく、特技も、秀でた才能もなしのないないづくしの主人公は、自らが通う高校に、さほど興味を持たなかった。 しかし、ここは「変人の流刑地」と呼ばれる高校で、否が応でも興味を持たざるを得ないのであった・・・・・・。







真っ黒な世界に、淡いオレンジが映り込む。

瞼で閉じられた視覚の代わりに、研ぎ澄まされた触覚が、五月の風を受けて、俺の前髪がはらりと跳ねるのを感じ取った。


優しく撫でるような風はやみ、代わりに叩きつけるような風が、教室の窓から入ってきた。 授業中の居眠りは、そこまで心地がいいわけじゃない。 でも、眠くて仕方がない。


苦肉の策にしてはよく眠れたが、やはり布団で眠りたい。 授業は、俺が高校を卒業する為に受けなければいけないことくらいはわかっている。 しかし、五時間目の授業は、とても疲れる。 この程度で、と思う方の気持ちはわかる。 俺だってそう思う。 ・・・・・・言い訳がましいが、そんな体力は俺にはないのだ。


こんな、中途半端に不便な体で、この世に生を受け、死ぬな、生きろだなんて。 俺はこの世こそが地獄だと比喩される理由に納得する。

 

 

 

体が重い。 起きたくない。 ついこの間まで病院のベッドで横たえていた体にとっては、階段の上り下りでもしんどいのだ。 引きこもりと同じでもいいから、ちょっと手を貸すなりなんなりして欲しい・・・・・・なんて、烏滸おこがましいのだろうが。

 

「・・・・・・なあ、岸沼きしぬま。 そろそろ起きたらどうだ? 三十分も寝たんだし」

 

目を閉じていても、この人のいらだちは俺らに伝わる。 聞かなかったことにしたい。 目を開けると、刺すような非難の視線があるように思えて、恐ろしく感じる。


無駄だとは思うが、あたかも今起きたかのように振る舞い、起き上がる。 しかし、目を覆いたくなるような痛い視線は、俺ではなく、黒板や携帯電話、中には空に向けられていた。

 

 「・・・・・・」

 

面倒く感じながらも、タテマエで頑張って起きたように振る舞う。 俺もなかなかのクズっぷりだ。

  

 「全く、これで居眠り五回目だぞ・・・・・・。 お前の体にはこたえるんだろうが、起きてくれなくちゃ成績、つけられんぞ」

 

 「すみませんでした」

 

 「・・・・・・はぁ、まあいい。 授業に戻る」

 

 わざとらしいため息で、俺の欠伸が引っ込んだ。

 

 

 

 

 ここの高校は、不思議なところだ、と教師の手元を凝視しながら思いふける。 他人に全くと言っていいほど興味を持たず、必要な時にだけ馴れ合うような、薄っぺらい関係を築き上げる奴が大半だ。 ・・・・・・中には、物好きもいるようで、他人の関心を引きたくて仕方の無い奴もいる。

 

 「先生、先ほど書かれた板書に間違いがあります。 速やかに訂正をお願い致します」

 

 「・・・・・・ん、どこだ」

 

 「上から四行目、右から七文字目です」


 

 こいつは俺のクラスの染谷そめや じんで、「変人の流刑地るけいち」と称されているここの高校で、より一層その闇を深くさせているであろう人物だ。


体格はそこまで良くはない。 背も俺より低いし、筋肉も脂肪もつかず、骨と皮だけなんじゃないかと思わせるほどの体重しかないだろう。


何故かいつも寝不足で、目元にくまがある。 自分の着るものや食べるものに執着を見せず、目に入ったから選んだんだな、というチョイスで自分のことにかなり無頓着な様子が見受けられる。


  それだけではない。 背は低い、一体一でコミュニケーションが取れない、実はひどい方向音痴など、マイナスな面が多々あるにも関わらず、生徒からは厚い好意を抱かれているそうだ。 ・・・・・・俺には、理解できない。


 成績優秀、運動神経もそれなり、自ら部長を務める写真部では、名も無きうちの写真部を一躍有名にさせた程の権力者。 PTAも教師も全員染谷を恐れる程、彼は向かうところ敵なしだ。


だが、打って変わって一体一のみで発症するコミュ障、独特の世界観の持ち主、独特のキャラクター・・・・・・あげればきりがないが、一度見たら三年は忘れらないだろう。

 

 「これで生徒会長サマに指摘されるの、何回目だろうな」

 

 「・・・・・・」

 

 ああやって、傍から見れば意地の悪い教師からの言葉にも、諸共しないように佇んでいるようにも見えるが、彼の足は小刻みに震えている。 内心いつ成績に響くかと心配しているのだろう。


 リーダーシップにも色々あり、心の弱い者達を魅了し、保護するように牽制するもの、己の弱さを使い、人を動かすものがいる。 彼は、そのどちらもうまく利用している。

 

あいつのことが、時々恐ろしくなる。 普段はあんなにポンコツ・・・・・・もとい、頼りない彼が、ここぞという時に、彼のマイナスな面など思い出せなくなるほど、指導者としての威厳を見せつけてくる。 あんなやつが、とこの高校に来てから、何度もその言葉がよぎった。

 

 「センセ、生徒会長と岸沼に噛み付いてるのに、校長と坂上には頭たれてるもんなー。 お笑い草だな、はは」

 

 「・・・・・・」

 

 自分に逆らうべきではない生徒から卑下されようとも、言い返せないのには訳がある。 校長はともかくとして、坂上という奴についてだ。 正直なところ、俺もよくは知らない。 相当悪いやつなんだなー、とサラッと流そうとしたが、生徒のどよどよとした空気に、俺の何かが引っかかった気がした。

 

 授業の終わりを告げるチャイムが体に響くと、教師はやれやれという感じで、教壇に上がった。

 

 「今日はそこまで進んでないが、明日からはちょっと巻きでいくからな、覚悟しておくように」

 

 「起立」

 

 「礼」

 

 「ありがとうございました」

 

 規則通りの挨拶に、俺は無言の反抗を見せた。

 

 六時間目まで、あと五分ちょっと。

 

 

これから読み進めれば、嫌でもわかりそうですが、一応こんがらがってしまった人のために人物紹介



岸沼花薫・・・・・・きしぬまかおる 男 高一


生まれつき病弱で、なかなか学校に通えず、学力も次第と落ちていった主人公。 寝たきりになることも珍しくはなかったので、体重はだいぶ軽い。 ストレスで髪の毛が一部白い。 だいぶひねくれている為、友人はいない。


染谷迅・・・・・・そめやじん 男 高一

花薫のクラスメート。 入学早々生徒会長に立候補し、見事認証された。 背は花薫よりも低く、痩せ型。


成績はいいらしい。 かなりの変人。 三白眼で、目の下にはいつもくまがあるそう。

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