第一章 2-4
勝ち誇るメイドは妖艶な笑みを浮かべていたが、すぐに顔が歪み後退する。
確かに完璧に対処は出来ないが相討ち覚悟ならどうということはない。
「惜しいな」
・『影流し』
自分のマナを流し込み、相手の循環しているマナを乱し酔いや頭痛に近い感覚を起こさせるマナの応用技の一つ。
相手のマナの流れを読まなければ成功せず、逆に相手にマナを渡してしまうが習得すれば能力を使わず相手を鎮めることができる。
熟練者はたったコンマ数秒で相手の意識を奪うが俺ではせいぜい一、二秒ないと意識を奪うことは出来ない。
「その年でその技を使えるとは驚きですね。ですが、わかったでしょう私には無駄ということを」
「そうみたいだな」
即座に離れた彼女は乱されたマナの流れを正常に戻しただけでなく、現在進行形でコントロールしている。あれではマナを乱すことは出来ず、呆気なく組み敷かれる。
「まだ。おやりになりますか?」
「いや、あんたの実力はわかった。それにあんたが本気で危害を加える気がないのもわかったもう十分だ」
平然を装っていても焦りは消えない。
そもそも彼女がマナのコントロールを必要はない。彼女が本気を出せば影流しをする暇なく仕留められるのは今の攻防で確信した。
「左様ですか。申し遅れました私、宮美咲耶と申します。本日より新田ハルト様の身の回りの世話をさせていただきます」
咲耶は一流のメイドのようにスカートを摘み優雅にお辞儀する。その動作に見とれていたが彼女の言葉を反芻し首をかしげた。
「…は?」
事実を理解し素っ頓狂な返しをしたが、咲耶は微動だにせず微笑むだけだった。
とりあえず、一旦落ち着くために椅子に座る。
咲耶はお湯を沸かし、お茶の準備をしているその姿は先ほど戦闘を行ったのは夢だと思うほどギャップがある。
(学園長にはさっき確認を取ったが世話係ね…)
元々、孤児院育ちの俺からすれば、メイドは夢物語の産物以外何物でもない。
しかし、目の前にいるのは絵に描いたような一流メイドで、直視せざるおえないのだ。