第一章 2-3
取りあえず中に入ると、そんなベタなことはなく見かけと遜色ない立派な内装。
入口の対角には木造作りのキッチン。その間には六人用の大きなテーブル。
トイレのすぐ近くに二階へと続く階段があり、軽い喫茶店が出来そうな広々とした空間は太陽の光と木々の優しい温もりで包まれ十月と思えない暖かさだった。
だからこそ、違和感がある。
中に入っても学園内や学園長室で感じた気怠さが襲ってこない。
使われている木にしても特別な木ではないように思えるが、そこで一つ思い出し試してみる。
マナを手の平の上でソフトボールぐらいに圧縮しそのまま壁に放つ。
普通なら壁を突き破り外の湖を抉る威力がある球体は壁に触れた瞬間霧散した。
「なるほど、コーボルトね」
「ご明察です。さすがは新田ハルトさんと言ったところでしょうか」
正解を言い当てると上階から声が聞こえた方向に視線を向ける。
階段の中段あたりにいたのは見たこともない二十歳前半と思われるメイドさんだった。
「最近のメイドの必須事項は忍者の末裔か?全く気配が感じられなかったぞ」
その奇抜な衣装よりも警戒すべきは彼女自身だ。
広範囲索敵能力を使える楓には及ばないが、狭い範囲なら気配を見逃すことはない。
しかし、声を掛けられるまでいることすら気が付かなかった。
「メイドというのは主の妨げにならず、主を支える存在。足音や気配を消すなど造作もありません」
「いや、そんなドヤ顔されても一般ピーポーな俺にはリアクション取れないから」
メイド萌なら素直に喜んでいた状況かもしれないが警戒心を最大限まで引き上げる。
基本スペックは俺のほうが上だと思うが、この手のタイプは気を抜けば一瞬で持って逝かれるだろう。
「ご安心ください。私はあなた様に危害を加えるつもりはございません」
「そうは言っても。こっちは半分お尋ねものみたいなもんだ。警戒するなというほうが無理だろ」
武器は学園長から贈り物のみ。
相手が相手なら取り出す余裕があるがたぶん今は不可能。
残る選択肢は体術だが、相手のほうが格上。
まさに八方ふさがりで、警戒することで相手を牽制するしかない。
「左様でございますか。では、こういうのはどうでしょう」
彼女の姿が消えたかと思いきや、背後から右腕を掴まれ押さえつけられる。
「如何でしょう。あなたがいくら優秀で警戒していても。無駄ということです。…!?」