第一章 2-1
千東と別れ、時刻は午後二時。
家具や荷物はあるのは聞いたが、食糧のことは聞いていないため、とりあえず寮である学園の裏手にある山に向かうことにした。
…のだが。
「ちょっと面貸してくださいよ。先輩」
森に入る少し手前で柄の悪そうな下級生に止められる。
正直面倒くさいが、このまま逃げれば更に面倒なことになりそうだ。
「黒髪、青目の男。どうやら情報に間違いは無さそうだな」
森の中に入ると待っていたのは柄の悪い生徒たち十数名。
その中のリーダーらしき少年は聞き逃せないことを言っていた
「で、後輩。こんなに人数集めてまさかパーティーでも開いてくれるのか?」
「っち」
軽口を叩くと舌打ちされ、どう考えても歓迎されているムードではない。
「いやね。噂の魔族者がどの程度のもんか知りたくてさ。いっちょ、手合せ願うぜ」
俺をここまで連れてきた少年が両手に緑色の粒子を溜める。
それに続いて囲んでいる他の連中も戦闘態勢に入っていた。
「こらこら、学園の規則に書いてあるだろ。特殊施設以外での能力の使用を禁ず。ってさ」
「人殺したあんたがそれを言うか?それともギャグのつもりかよ」
真面目な話をしているのに舐められたさすがにイラっとくる。
けど、ここで能力を使っては意味がないし、それに微かだが不自然な風を感じる。
「いくぜ、野郎ども!」
『イェーイ!』
少年の掛け声と共に数十名もの天族者が襲い掛かる。
普通なら落ち着いている状況ではないが、この程度ならどうということはない。
アタッシュケースを地面に落とす。
「なっ!?」
直接殴ってきたものは避けて足を引っ掛け、戸惑った奴らをすぐさま一掃。
後方支援する奴は背後を取り、背中に少し触れ力を流し込むと糸が切れた操り人形のように崩れ去る。
「能力に頼りすぎだ。もっと己を磨けよ。後輩」
本土では許可なく能力を使用することを禁じられているため、この一年で天族者に不足がちなその分体術やマナの応用術を身につけた。
その成果がまさかこんなに早く役に立つとは思ってもいなかった。