第一章 1-4
昔はよく楓と一緒になってからかっていた。
ほんと習慣って恐ろしいな。
「全く、あんたは相変わらず変わらないな」
「お前こそ、変わらないな。身長とか、身長とか、身長とか。あと身長とか」
「私の存在の証明はそこしかないのか!」
千東が何を言おうとしているのかはわかっている。
こうして、茶化していれば流されやすい千東のことだ。
忘れて解放してくれるだろう。…ことがことだけに無理だと思うがな。
「で、千東。まさか、世間話しに来たわけじゃないだろ」
あえて自分から話を振る。
あの頃から逃げていてもきっといいことはない。
「言おうと思ったけど、あんたの顔見てやめたよ。だから、これは聖十字団としての忠告。問題を起こさないように」
千東はそういいながらポケットから腕章を取り出し身に着ける。
楓が創設した組織に千東が関わっていないわけがないよな。
「忠告どうも。それじゃあな」
「じゃあね」
昔なら「あーだ。こーだ」と言っていただろう。
千東もこの一年で内面的には大きく変わった。
たった一年。されど一年。
しかし、その一年は浦島太郎の気持ちを知るには十分過ぎる。
目に見えない溝は埋めることは出来ない。
ここに戻ってきたのは学園長の要請があったからだ。
要請であって強制ではないため、断ることは出来たが俺はそれをしなかった。
全てをここに置き、捨て去ったはずなのに再び拾おうとしている自分がいる。
そうさせるのはここに未練があるからか、あるいは罪を償うためか。
どちらにしろ。ここで学園生活を終えることに変わりはない。
それに戻ってきたからこそできることもある。
謝られることが嫌いな相手にこれまでのことを謝るのは至難だが、それでもやらずにはいられなかった。