第一章 2-12
躊躇無く片足を高圧水流で切り落とすと痛みよりも千東の反応に意識がいく。
現実にダメージが反映されないからこそ出来る荒業で、初めて知ったが学生にあまり刺激を与えないためか血は出ず変わりにマナが放出されていた。
「いや、邪魔だったからつい。っていいのか?ツッコミいれたせいで反応遅れてるぞ」
「あっ…」
千東の腕を掴み影流しをお見舞いする。
さすがに動揺していたせいか簡単に千東の意識を奪うことが出来た。
…のだが、やりすぎた。
千東が倒れたため扉の鍵が解錠され、足がくっ付く。
このまま放置するのも心が痛むし、時間もあるのでとりあえず千東を小脇に抱え医務室へと向かった。
記憶を辿り医務室についたのは午前七時。
不幸中の幸いというやつか医務室に着くまで誰一人会うことなく無事につく。
「戻ってきているとは聞いていたが、まさかこんなに早くお前の顔を見るとはな」
よれよれの白衣を纏い。治療する場所にも関わらずタバコを吸う不謹慎さ。
ボサボサの灰色の髪を掻くこのおっさんの名は矢崎(下の名は知らん)。
素行に問題があるものの医者としてはかなり腕の立つ男だ。
「で、なんだ?襲って気絶させたか?」
「どちらかというと襲われたほうだ。それに何故かあんたが言うと如何わしく聞こえるな」
「とりあえず、寝かせておけ、そのうち目を覚ますだろ」
「診察しろよ。あんた医者だろ」
「相変わらず礼儀の知らねえガキだな。ま、俺も人のことは言えないが。見るからに何らかのショックを受けて気絶寸前のところを影流しされたんだろ。そんなもん一目見ればわかる」
詳しく調べもせずにドンピシャに症状を当てる観察眼はさすがといえるが適当すぎだ。
ホント何でこんなおっさんがクビになってないんだろ。
「そういえば、お前相棒に会ったのか?」
「元相棒だ。会ったがそれがどうかしたか」
少し答えるのが遅れそうになったが誤差の範囲だ。
その証拠に鎌をかけた矢崎の表情に変わりは無い。
「…いや。何でもない。ほら、はよ行け」
まるで、追い払うかのような態度だが気にする必要は無い。