第一章 2-9
演習場の中はマナで構成され半異空間状態となっており、数百個の個室に分かれている。
その中で起きたことは決して外部に漏れることはないため、密談をするためには打ってつけと言えよう。
「で、これどう考えてお前らの仕事じゃないよな?」
「何のこと?」
「惚けるなよ。まず一つ。ここを選んだことだ。この島の警察組織として活動している聖十字団には学園内に屯所が設けられている。その屯所で事情聴取しないことがまず不自然だ。それにここに来る前に見回りしていたのも理由の一つ。それで足りるだろ?」
もし、本当に聖十字団の事情聴取なら断っていたが、友人の頼みだったから仕方ない。
それに千東自身が見回りしていたとなるとたぶんこの件にはあいつは関わっていないと見た。
「あんたのそういう頭の回るところ私は嫌い」
「褒め言葉として受け取っておこう。それに俺も聞きたいことがあったしな」
千東相手なら昨日、リーダー格の男が言っていたことの確認も出来る。
「昨日、君が返り討ちにしたのは全員一年生だった。君が失踪したとき学園長自ら緘口令が敷かれ君の存在は一年生は知らない。もしかしたら、誰かが口を滑らせた可能性もあるけど0と言っていい。黒い制服についても特待生として扱っているし」
「なるほどな。確かにそれはおかしいな」
悩んでいるフリをして千東の様子を窺う。
裏表のないやつだから嘘を言えばすぐ顔に出るのが彼女の長所であり短所である。
「そう思って彼らの事情聴取をしたんだけど、詳しいことはわからなかった。で、君が聞きたいことってのは?」
「俺を襲ってきた奴等ってどんな奴等だって聞きたかったんだが、普通に聞けたからもうねえよ」
「そう?だったらいいけど」
これ以上状況をややこしくすることはない。
そして、昨日の奴等に俺のことを教えた奴を探し当てるためには聖十字団(千東たち)に表立って動かれたら困る。
「話は終わりなら俺は帰るな」
相手を特定しようにも情報が足りない。
今は大人しくしより多くの情報を集めることに努めなくては。
「そうはいかないよ」
演習場を出ようとすると扉に鍵がかけられる。
「どういうつもりだよ」