第一章 2-6
『なるほど。で、本当に彼は自室にいるのかい?』
「…まさか!」
咲耶は急いで二階に上がる。ドアの鍵は閉められていたがピッキングをすればどうということはない。
(やられた)
やけに静かだと思っていれば二階には彼はおらず、ベランダへと続くドアが開けられていた。
『それでこそ。彼らしい』
「申し訳ありません。すぐに追います」
『いや、その必要は無い。君は食事の準備を続けたまえ』
「…わかりました」
学園長の命令は絶対。
納得していない咲耶は料理を続けるのであった。
家を飛び出して森を歩くこと十数分。
無断で出てきたが、今思えばこれ反逆行為にならなよな…まぁいいか。
「一年前だったからちゃんとつけるかわかんなかったが、案外覚えてるもんだな」
森の奥の少し開けた場所。
高密度のマナで満たされ、滝の前には小さな墓が建てられている。
そして、その墓は一年間放置されていたとは思えないほど綺麗で、ご丁寧に花まで添えられていた。
「全くホントに恐ろしいな」
この墓を建てたのは事件があった夜、この島を去る数十分前だ。
誰にも何も告げずに出てきたが、どうやらバレていたらしい。
「ユキ…あの日からもう一年。早いもんだな」
あの日のことは今でも鮮明に覚えている。
思い出したくもない記憶だが、それでも俺の意志とは反して決して消えることはない。
時々、今も夢に見る。
そして、最後の彼女の残した言葉が縛り付ける。
「っと、そろそろ戻らないとさすがにバレるな。…」
人の気配を感じたが相手がわかったため、気づかないフリをし家へと戻る。
こっちが気づいたことに気づいているが声をかけてこない辺りがあいつらしい。
許す許さないではなく、ただ自分の前から去っただけ。
その人物が帰ってきたとき彼女は何を思ったのか。