プロローグ
あいつは俺にとって鏡みたいな存在だ。
姿形も性格も性別も違うのにそう錯覚させる不思議な存在。
友人であって、友人でなく。
親友でもなければ、恋人でもない曖昧な関係。
好き(like)かと聞かれればそうだが、好き(love)かと聞かれればそうではない。
はっきりしていることは特別で大切だということ。
いつ切れるかわからない細く張りつめた糸。
切るか切らないかは俺とあいつ次第。
周りからどう思われてるのかはわからないが、そんな関係を言葉に表すなら単純に「変」だと俺は思う。
学園を去って一年。
十月上旬の今日この頃。
身分を隠していたときとは違い、黒い制服を着用し校門を潜る。
少し気ダルいが左耳につけた銀のピアスとそう大差はない。
(さすがに目立つな)
目的地である本校舎に向かう途中。見かける(警戒して茂みに隠れている)生徒は男女問わず全員白の制服を着ており俺と同じ制服を着ているものはいない。
殺気に似たような視線を向けられているのは仕方ないが、やはり気になってしまう。
「新田ハルト様ですね。お待ちしておりました」
そんな考えを消し去ったのは俺を呼ぶ一人の少女の声。
一年前より少し長くなった浅緑の髪。
透き通るような薄緑の瞳。
見たこともない十字架のエンブレムがついた腕章をつけた元相棒、出水楓の姿を見て安堵する。
『久しぶり。元気にしてたか?』
以前ならそう言っていたが、今の俺に彼女を気遣う資格はない。
「あぁ、そうだ」
「学園長がお待ちです。ご案内いたします」
立場も関係も変わってしまい掛ける言葉が見当たらない。
本当なら案内もいらないが、楓の後に続いて本校舎に入っていく。
実際の間の距離は一メートル弱だが、心の距離は比較にならないほど長く暗い道だった。