表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

旅行体験記

紅葉ドライブ

作者: 凡 徹也

日本各地に紅葉の名所はあるが、代表的な場所のひとつが奥日光である。その紅葉の素晴らしさをこの文章を読んだ方々に、伝わってくれれば嬉しい事です。では、紅葉ドライブへいざ出発……。

 日本の四季の風景の移り変わりは素晴らしい。とりわけ特に秋は「山装う」季節。北海道大雪山に始まり房総半島の養老渓谷へと4ヶ月に渡って地味だった大地の色は錦繍で彩られ、人々を絵画の世界へと誘ってくれる。

 しかし、「紅葉」とは、植物にとっては、冬を越える為の悲しい儀式である。落葉広葉樹は苛酷な季節を乗り切るために自らの身を削ぎ落とす。涸れゆく葉は、命が燃え尽きる直前、華麗な衣装を纏って素敵なレビューを繰り広げるのである。

 いよいよ見頃を迎えた10月の中旬、その大自然のショーを観に車を奥日光へと走らせた。深夜の東北道は、がら空きで、快適に飛ばしてゆく。日光宇都宮道路を過ぎた頃から冷気が車内にも入り込んできた。明朝はきっと冷え込むなと、一人で呟きながら慎重にいろは坂を登り切り中禅寺湖畔の道を走り抜け、午前1時に、戦場が原の赤沼パーキングに到着した。車のドアを開けて外へと降りてみる。真夜中とあって辺りは暗黒の世界。格段に冷たい空気が張り詰めている。見渡すと点々と数台の車が停まっていて、何人かが外で空を見上げていた。僕も仰ぎ見てみると、満天の星の中に一筋の輝線が走った。周りから小さなどよめきが起こる。どうやら、今夜は流星雨の夜でもある様だ。しかし、それに見蕩れているわけにはいかない。さっさとシートに毛布を敷き詰め仮眠の仕度を整え服を重ねて着込んで横になった。夜明けは相当寒くなるだろう。重装備に越したことはない。夜明けの風景を楽しみに目を瞑った。

 夜明け前に目を覚ますと、車の窓ガラスは全て曇っていた。手の指で擦ってみると、外界は、紫の靄で包まれていた。カメラを持ち車外へと出てみる。いつの間にか駐車場は車で埋め尽くされていた。ぼんやりとした視界の中を戦場ケ原へと歩いてゆく。既に大勢の先客達が三脚を立てて日の出の瞬間を狙って構えていた。僕はダケカンバの樹林へと入ってゆく。足元からザクザクと音が鳴り響く。今年初めて降りた霜を踏み壊しながら奥へと進む。黄色に支配された世界の遠くに望める山裾を白い霧の塊が、横へと流れる。シャッターを切り始めると間もなく山の頂きにオレンジの鋭い光が差した。山は少しずつ燃え出していた。

 辺りがすっかり日差しに包まれた頃、車へと戻り更に奥の湯湖へと移動する。その途中の道端は、にわかに増えたカメラマン達に占領されていた。湖畔に着いて車を停め周囲の遊歩道へ入る。鏡の様な無風の湖面に、辺りの見事な紅葉が写り込み、上下の境が無い景色を魅せてくれた。その水面を番のオシドリが横切り波紋のアクセントを添える。暫くその場にしゃがんでその姿を追った。道を更に進むと小さな木道の橋が架かり、水の轟音が聴こえた。ここが湯滝へと落ちる滝口らしい。滝へと降りる脇道を進む。滝は案外と豪快で水量も多く迫り出した一本の楓が見事に美しいので、見入ってしまった。視線を遠くへ移すと男体山は、錦繍真っ盛り。パッチワークの様だ。僕はその場所へと行きたくなり人混みを掻き分けて車へと戻ると先程来た道を引き返した。

 戦場が原の手前を左へと折れ、光徳牧場から旧栗山村へと抜ける狭い林道を登っていく。ジグザグの道を山の中腹まで来て車を道幅の拡い場所に寄せた。外へと出ると、そこは別世界。赤、黄色、そして茶色の葉が全ての方向を埋め尽くしていた。正に紅葉のど真ん中に僕は居た。大きく背伸びをしながら思いきり空気を吸い込んでみる。木洩れ陽がキラキラと輝く中、身体を一回転させ目に写る全ての景色を焼き付けてから足元の楓を数枚拾い上げて本の間に挟んだ。

 その後、車を群馬県へと向けた。金精峠へと登る途中一度だけ車を停めて後ろを振り返り奥日光に別れを告げ、長いトンネルへと入る。トンネルを抜けると道は下り坂となった。まもなく左手に見えたドライブインが気になり立ち寄った。ここは以前、旅行で通った時に食べた岩魚に記憶があり懐かしかった。ところが店の主人に伺うと、今日は岩魚の入荷が無いという。僕が淋しい顔をしていると「特別に」とヤマメを焼いてくれた。こっちの方が珍しい。焼きたての串をほうばった。最高の味わいだ。その余韻を楽しみながら更に車を走らせた。

 山を下ると視界が広がり、右の遠くに一際黄金色に輝く峰が見え、思わず車をその方向へと向けた。鎌田の交差点を右に折れ尾瀬方面に向かう。道沿いにこの山奥で、唯一のコンビニを見つけて飛び込んだ。考えてみるとろくに食事をとっていない。店内にはホームメイドのパンを焼く良い薫りが充満していた。堪らず焼きたてを3個購入し店頭のベンチに腰掛けてあっという間に平らげた。意外なご馳走が嬉しかった。

 腹を満たして再び車を走らせると間もなく、ミュージックロードに差し掛かり、タイヤが「夏の思い出」を奏でた。頭の中に尾瀬の風景が拡がる。あの黄金色の峠の先にその尾瀬がある。目前に迫った桃源郷に思いを馳せながら、峠へと登っていく山道に僕の車は次第に吸い込まれていった。

読んでくれてありがとうございました。皆さんに少しだけでも紅葉の素晴らしき世界が伝わったでしょうか?それぞれの地域にそれぞれが拘る紅葉ポイントがきっとあるでしょう。ぜひ、そのポイントと、オーバーラップさせて、季節の移り変わりを楽しんで下さいね。でわまた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 今回は紅葉でしたね。 濃い緑の中に、あっちにポツン、こっちにポツンと点在する紅葉が好きなのですが、全山がさまざまな色に染まると見事でしょうね。 そういえば、昨年圏央道で渋滞に遭いました。…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ