08 打って出た(前編)
ありがちな展開で話しは進みます。
「侯爵様、それは真でございますか!」
「ウム、トウド伯爵、事実のようだ」
ウェルダン王国の門閥貴族の中で現在頂点に立ち国政を牛耳っているメプル侯爵が重々しく頷いた。
派閥の腹心であるトウド伯爵は驚きを隠し切れない。
「しかし今回派遣された王国第二軍は精鋭の一万名。如何に反徒の数が増えようとロクな武器も持たぬ烏合の衆。前回の無能な第三軍三千のようにはならないでしょう」
「それが反徒達の勢力圏に入ったきり連絡が途絶えた。恐らくは第三軍の二の舞になったと思われる」
「まさか、そんな・・・」
「このまま王国第一軍を派遣したとて同じ結果になりかねん。ここは根本的に方法を変える必要がある」
「侯爵様には何かお考えが?」
「ウム、それはな・・・」
かくして平民を人とも思わない貴族達によって世にも鬼畜な策略が行われることになる。
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「こちらの勢力圏外の村々が王国軍によって襲われているって本当かニャ!」
吾輩は義勇軍臨時本部に駆け込んで斥候や伝令の報告を聞いているハンスと各部隊の隊長達に確認する。
義勇軍とはハンスが提案した名称でこちらの正当性を誇示する意味があるとのことだった。
「事実のようです」
ハンスが沈痛な面持ちで答えた。
王国軍が古巣のハンスには特にこの手の話しは堪えるのだろう。
「現在詳細を確認中ですが少なくとも三つ以上の村が焼かれ多くの村人が殺害された模様です。僅かな生き残りの話しでは反徒に協力する反逆者の一味として処罰すると王国軍から宣告があり襲われたそうです」
「そんな事実があるのかニャ?」
「いえ、まったく。只このままこちらが勢力を拡大すればいずれこちらに合流してくる可能性の高い近隣の村々が襲われているようです」
吾輩は少し考えた。
「・・・誘い出しかニャ?」
「おそらく。先の戦いでも王国第二軍があっさり敗れ去ったことを踏まえ策を弄したのではないかと思われます」
「自らの王国の民にやるべきことではないニャ」
「・・・その通りです」
ハンスもここまで王国が腐りきっているとは思っていなかったのだろう。
目を伏せグッと怒りを抑えている。
「誘き出したいというのなら乗ってやるニャ。その上で噛み千切ってやるニャ!」
吾輩の檄に各リーダーが賛同の声を上げる。
「しかしそれでは敵の思う壺です」
ハンスだけが反対する。
「ハンス、予想される敵はなんニャ?」
「恐らく王国第一軍一万名でしょう」
「吾輩達がこれから襲われそうな村の救援に向かうとして敵はどう出るニャ?」
「元々正面から戦っても練度の低い我が軍では勝ち目はありません。しかし敵の狙いはこちらの殲滅です。包囲網を敷いて入り口を開けておき我が軍が入ったら閉じて殲滅するつもりでしょう」
吾輩は袋の鼠を想像した。
吾輩を鼠扱いしようなど失礼極まりない。
「ならこうするニャ。吾輩が騎兵を率いて村の救援に向かうニャ。ハンスは全軍率いて敵がこっちを包囲したら吾輩達には構わず広く展開している敵を外側から各個撃破するニャ」
「それではミュウ殿や騎兵達、それに村の人間も皆殺しにされてしまいます。それに只でさえ少ない騎兵を更に分割すれば各個撃破も難しくなります」
「それについてはこうするニャ」
吾輩は策を説明した。
「本当にそんなことが出来るのですか?」
「もちろんだニャ」
吾輩は太鼓判を押した。
吾輩は騎兵隊二千を引き連れ義勇軍の勢力圏を離れ敵が次に襲うと予想される村に向かっていた。
周囲には包囲している敵軍の気配が濃く漂っていたが無視して突き進む。
村まであと少しのところで前方から煙りが上がり村人達の悲鳴が聞こえてきた。
吾輩は馬で村に駆け込んでいった。
「下郎ども!吾輩が義勇軍のリーダーミュウさまだミャ!命が惜しいヤツはとっとと逃げるニャ!」
吾輩は村人達を斬り殺していた王国軍の兵士十人を瞬殺して雄叫びを上げた。
百人程度の他の王国軍の兵士達は慌てて退却していく。
「村長はまだ生きているかニャ!」
吾輩は声を張り上げた。
「はい!私しめにございます」
「今すぐ生き残りの者を集めて隠れるのニャ!出来れば地下室のようなところがいいニャ!」
「えッ、奴らは逃げたのでは?」
「皆殺しにしようと直ぐに大軍が押し寄せてくるニャ。生き残りたかったら言う通りにするニャ」
「わ、分かりました。私しめの家の倉の地下に酒蔵があります。そこに避難させます」
「それと怪我人をここに集めるのニャ。直ぐに治療してやるニャ」
「おお、それはありがたい。お願いします」
吾輩は村長が酒蔵を開けている内にさっさと怪我人を治癒魔法で直した。
「治療は済んだニャ。早く皆酒蔵に入るニャ」
「エッ!こんなに速く!いったいどうやったのです?」
「治癒魔法ニャ。今は一刻を争うニャ。細かいことは気にするニャ」
吾輩は村人達をギュウギュウに酒蔵に詰め込み空気穴のみ残して倉そのものを精霊魔法で崩した。
「一日ぐらいで助けに来るニャ。それまで我慢するニャ」
空気穴から声を掛けて吾輩はその場を去った。
後編に続きます。