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そこ惚れニャンニャン、復讐を誓った猫  作者: 大五郎
ウェルダン王国編
6/29

05 戦った

粗筋は出来ていますが個々の話しは即興で作っています。

 ウェルダン王国第三軍副長の騎士ハンスは悩んでいた。


 現在ハンス達第三軍は王国辺境地方に向かって進軍中であった。

 今回の任務は辺境地方農民による反乱の鎮圧である。


 飢饉の年には偶に起きていたが大概地方領主が農民を締め上げ過ぎた結果発生していた。

 殆どの領主は飢饉の年には多少税を軽くして最低限餓死者が出ないよう配慮をする。

 その方が長い目で見れば得策だからだ。

 しかし偶に無能な領主が餓死者が出る程締め上げ過ぎて反乱を誘発してしまうのだ。


 前回の農民反乱はハンス自身が正騎士になる前の十年前に起こっておりその教訓も薄れてしまったのだろう。

 それともこれから増えていくのか。

 ハンスは暗澹たる思いに捉われていた。


 建国より二百年、この国は病んでいた。

 王は己の陰湿な趣味に拘泥し政に関心を示さず貴族達は権力闘争に明け暮れ私腹を肥やすことを当然の権利のように考えている。

 軍の上層部のポストも門閥貴族の三男四男の受け入れ先として扱われ数年職についた後莫大な恩給を国庫より支給されている。


 旱魃や洪水などは事前に治水工事をしっかりやっておけば被害を軽減できた。

 農民の反乱も農民の窮状を領主が理解し適切な手当をすれば防止できる。

 王や貴族が民を顧みなくなって国の屋台骨自体が揺らいでいるのだ。


 これでは今後も農民の反乱が増えてもおかしくはない。

 現に反乱に参加していた農民は最初は百人程度だったが膨れ上がり今では一万人を越す規模となっていた。

 王都ではどの軍をどの程度派遣するかで貴族間での権益を巡って権力闘争が起き一ケ月軍の派遣が遅れてしまいその間に規模が膨れてしまったのだ。


 事ここに至って急遽王国第三軍三千名に出動命令が下ったのであった。

 騎兵千、槍兵千、弓兵八百、残り輜重隊の総勢三千は一万の農民兵に対して寡兵ではあった。

 しかし専門の軍人により構成される王国軍に対して碌な訓練もせずまともな武器も持たない烏合の衆の農民兵が相手なら十分と考えられたのである。


 ハンスもこの戦闘には勝つと思っている。

 戦場で相対すれば相手の練度や装備など関係なく倒すだけである。

 しかし農民反乱に対する王国の刑罰は過酷だ。

 家族全てが死罪となる。


 勝った後の女子供への刑の執行もハンス達の仕事だ。

 副長であるハンス自身が手を汚す必要はないが命令する立場である

 しかもこれで終わりではないかもしれないとなれば暗澹とした思いに捉われるのも仕方がないといえるだろう。


 ハンスが思い悩んでいる内に王国第三軍は反乱農民の勢力圏に入ったのであった。



 街道を進む王国軍を吾輩達は街道沿いの森の中から見ていた。


 あれから幾つもの周辺の領主を襲って餓死者が出始めていた村々に配っていった。

 吾輩達は彼らが腹一杯食った後にそれらが領主から取り返してきたものだと説明した。

 目先の食料に目を奪われていた彼らは真っ青になった。

 王国の法では領主を襲うのは元より奪ったものを知らずに食べたとしても死罪になるからだ。


 しかしどの道反乱者の一味として処刑されるならばと彼らも加わってきた。

 餓死しかけて抵抗する気力すら奪われていたのが戻ってきたのだ。


 かくして吾輩達は一万の勢力となって街道を進む王国軍に奇襲を掛けるべく潜んでいたのだった。


 「しかしミュウさん、大丈夫なんですか?」


 隣で副隊長が小声で語り掛けてくる。

 何度も説明したのにデカい図体に似合わず気の小さいことだ。


 「大丈夫ニャ。説明した通りに気をつけていればこちらに死者は一人も出ないニャ」


 吾輩は太鼓判を押した。

 それでも副長は心配そうである。


 「大体、反乱に参加した時は死ぬ気だったんニャ。それが死なずに済むかもしれないと分かったら不安になるなんておかしいニャ」

 「それはそうですが」

 「話しはここまでニャ。頃もよし始めるニャ」


 吾輩は目を閉じ心を澄ます。

 森に潜む反乱に参加した農民の息遣い、街道を行進する軍馬の蹄の音と嘶きが聞こえてくる。

 吾輩は目を静かに開けた。

 吾輩以外には見えていないが世界は精霊に満ちていた。

 もっともそれは生き物のようではなく半透明の靄のような人の大きさのものが宙に浮かんで伸び縮みしているだけでなんらかの意志を持っているようには見えない。


 『あの軍勢の上に雲を集めて少しの間だけ豪雨を降らしてくれ』


 吾輩は精霊達に心で語り掛けるように命令した。

 その途端周囲を漂っていた精霊達はスルスルと空に昇っていった。


 王国軍の頭上にたちまち雲が集まっていった。

 そしてバケツの水を引っくり返したような豪雨が王国軍に降り掛かった。

 王国軍はいきなりの豪雨で視界が効かなくなり混乱した。


 『今だ!蓋を開け!』


 予め地に潜ましていた精霊に命令を下した。

 その途端王国軍の足下の土砂が崩れ落ち開いた大穴に騎馬や兵士達が吸い込まれるように消えていった。

 予め農民達に大穴を掘らせ精霊達に頼んで穴の蓋になってもらいその上に土を掛けておいたのだ。

 それを豪雨で目つぶしされた王国軍の下で一斉に解除した。

 暫く悲鳴と怒号が聞こえ豪雨が止んだ時地上には王国軍の姿はなかった。


 「さあ、皆かかれ!」


 吾輩は合図を出した。

 農民達は一斉に木の板を持って穴に向かい周囲の土砂で穴を埋め始めた。


 「ガーッ!止めろ!止めてくれ!」

 「おのれ!農民風情が卑怯な!」

 「助けてくれ!俺は死にたくない!」


様々な声が穴の中から聞こえてきた。

最初は威勢のいい声が多かったがある程度土砂を放り込んだところで助けを求める声ばかりとなった。


 「助かりたいかニャ?だったら降伏するニャ。紐を一本下ろしてやるから武器や装備を外して上がってくるニャ」


 大概の者は従い従わなかった者はそのまま土で埋めた。

 二千数百名の捕虜を得て武器や装備も手に入れた。

 この戦いは大勝利だった。

 吾輩達は生き延びることが出来たのである。


ハンスさんには活躍してもらうつもりだったのですが急遽後半の出番がなくなりました。

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