14 攻略した
攻略と言える程のものではありませんが。
吾輩達は王都の城門前に到達した。
迎撃はここまで一切なかったがこれで終わりという訳ではなさそうだ。
城壁の上には木製の張り出しが数多く作られその上に布が被されて中が隠されていた。
ここまで届く人々の不安そうな騒めきが布の下にあるのが人であることを示していた。
「そこで止まりなさい!」
女性の透き通って綺麗な声がして城壁の上にドレスを纏った美しい少女が現れた。
吾輩達は様子を見るため進軍を停止した。
「私はウェルダン王国第一王女ソフィアです。偽勇者は前に出てきなさい」
勇者は厳しい顔をしていたが大人しく義勇軍の前に出た。
「僕だ、ソフィア。戻ってきたよ」
「あら、『王女様』はつけてくれないのですね。寂しいですわ」
ソフィア王女は口元に手を当て憂いの表情を浮かべた。
その物腰はあくまで可憐で優雅だ。
初対面で何の知識もなく猫を被られたら疑えというのが無理かもしれない。
勇者だったら被っているのが猫だけにコロリと騙されることだろう。
吾輩を差し置いて猫を被るとは小憎らしい奴である。
「君は僕を騙した。そんな人に敬称はつけられない」
「そうですか。なら手短に用件のみ述べましょう」
ソフィア王女は右手で合図をした。
その途端木製の張り出しの上の布が取り払われた。
一瞬身構えた勇者だがその中から現れたものに驚愕の声を上げた。
「ソフィアなんだその人達は?」
「反徒どもに恐れをなして私の宣告を無視して逃げ出そうとした愚か者達です」
木製の張り出しの上にはぎっしりと市民達が乗せられており子供の姿も見える。
「その人達をどうする気だ!」
「この木製の張り出しは私の合図で落ちます。後は分かるでしょう?」
にっこりと微笑む。
透き通るようなその笑顔は既に内側の醜悪さを隠せなくなっていた。
「偽勇者、その場で今直ぐ自害なさい。さもないと張り出しを落とします」
「クッ、君はどこまで・・・」
勇者は葛藤していた。
ソフィア王女はやるだろう。
しかし勇者が自害しても今度は義勇軍を脅しに掛かるに違いない。
とはいえ人質を見殺しにも出来ない。
「分かった。だが先に人質を解放してほしい」
「駄目です。今直ぐ死になさい。でなければ見せしめに一つか二つ張り出しを落とします」
「止むを得ないか・・・」
勇者は剣を抜き自らの首筋に当てた。
そして一気に引こうとした。
「待つニャ!」
吾輩は前に出て勇者の横に並んだ。
「ミュウさん・・・」
勇者は歓喜びの表情を浮かべた。
自分の命より吾輩が気に掛けてやったのが嬉しいようだ。
「お前がソフィアかニャ。聞いていた通りの性悪ニャ」
「貴方が反徒の首謀者の変な喋り方をする悪しき魔女ですね。貴方の相手は後でして上げます。下がりなさい。さもなければ張り出しを落としますよ」
「やりたければやればいいニャ」
「ミュウさん!」
勇者が驚愕の表情を浮かべた。
事の成り行きを固唾を飲んで聞いていた張り出しの上の市民達は恐怖の悲鳴を上げ義勇軍側でも騒めきが広がる。
「そうですか。只の脅しと思っているのですね。それなら後悔しなさい」
王女が合図を送った。
その瞬間張り出しの一つが落ち市民達が宙に投げ出された。
市民達は足場を失い死の恐怖で絶叫した。
しかし何時まで経っても落下が始まらない。
何故そんなことになっているのか不安気に周囲を見渡すが自分達が何の支えもなく宙に浮いているのが分かるだけだった。
原因は見えない。
後ろを見た市民達が更に不可思議な光景を目にした。
城壁の全ての木製の張り出しの上の市民が宙に浮いていたのだ。
それらは彼らを先頭に義勇軍の方に向かいゆっくりと降下していった。
「ニャハハハ!思い知ったか性悪王女、何でも自分の思い通りになると思うニャ!」
吾輩は胸を張って笑ってやった。
「クッ、魔女の力ですか。まさか本当だったなんて・・・」
「その通りニャ。これで障害はなくなったニャ。勇者、一気に城門を叩き壊して王都を解放するのニャ!」
「分かりました!ミュウさん!」
勇者が城門を叩き壊して突っ込んでいった。
義勇軍の兵士達もその後に続き雪崩れ込んでいく。
後は驚くほどあっけなく王都は陥落した。
こうして義勇軍は勝利し腐敗と悪政を極めたウェルダン王国は滅びたのであった。
次回は「15 罰した」の予定です。