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依頼1 後編

「ダメよ」


 その一言は、私にとって予想外の一言であった。 彼女はご希望の品をなんでも作ると豪語していたし、村の狩人には過ぎた品であろう、【精霊の宿る弓】を無償で譲っているほどなのである。

 今日初めて会った私に譲るなんてことはないだろうから、10万Gほどの料金は覚悟していたが、まさかダメと言われるとは思ってもみなかったのである。


「なぜ!? アンドラス殿には無償で譲ったんでしょう、流石に無償で譲れなんて厚かましいことは言わない、でも、依頼として作製してくれるのはいいはずでしょ!?」


 この時の私は、酷く取り乱していたとしか言いようがなかった。


「アマンダ……、私はあなたを"信用していない"」


 短い間話しただけの間柄ではあるが、最低限仲が良くなったと思っていた彼女からの否定の言葉は、その場でチームを組んで仕事をする冒険者仲間の罵倒の何倍も心に突き刺さった。


「……え?」

「ごめんなさい。 友達として、あなたと仲良くはしたいと思うし、これからいろいろとご贔屓にしてもらいたいとは思うのだけれど、冒険者としてのあなたを私は信用していないの」

「い、いや、私のランクはAだ! 世間にもそれなりに認められている冒険者だぞ!? なんならギルドカードを提示してもいい!!」


 Aランク冒険者である私を、冒険者として信用できないなんて、そんな可笑しいことはないだろう。 Aランクと言えば、かなりの上のランクであるし、災害指定レベルA級の魔物討伐などの難易度の高い討伐任務や、要人の警護などの礼節を必要とされる任務にまで駆り出されるほどの信頼は勝ち得ているのである。


(Aランクの私を信用できない?)


 一体どういうことであろうか?


「はぁ……、アマンダ。 あなたがAランクだということには関係がないのよ……。 私が言っているのはギルドランクの制度のことよ。 あなたはギルドランクの上げ方が、同ランクの依頼を10回達成するか、一つ上のランクを5回達成するか、二つ上のランクを2回達成すれば良いということも当然知っているでしょう?」


 彼女の問いかけに私は頷くことで自分の意思を伝えた。

 そんなものは知っていて当然である。 ギルドに加入する際に必ず説明される内容なのだから。 まぁ、Sランク以上になるにはこの法則は当てはまらないのであるが……。


「はっきりと言うわ。 この制度では、力のある人間はどんどん上のランクに上がって行くことになる。 人間的に最低な人物だとしても、依頼さえこなせばいいのだから簡単よね。 もしSランクなら、国からの依頼など、極秘性の高い依頼を受けることも考慮し、『ギルドでの審査を通ったものしかなれない』と言うこともあるから多少の信頼はできるけど……。 あなたの言ったAランクは、力が強く、才能がある、いわば物語の主人公的な人間ならすんなり成れてしまうランクよ? まぁ、そんな人間がホイホイいるとは思わないけど。 それでもあなたは本当にAランクを無条件で信用しろといえる? ……私は、現行のギルドランクで冒険者を判断しない。 高いランクだから絶対信用できる人間とは限らないからね。 現に、この村には一度だけ、高ランクの討伐依頼をこなし、一気にAランクへ駆け上がった冒険者が訪れたことがあったけど、態度が悪く、村の娘たちに手を出す最低野郎だったわ。 もちろんアンドラスさんたちに顔の原型がわからないほどボコボコにされた挙句、村から叩きだされたけどね。 そいつ一人のためにAランク全員を悪く言うつもりはないけれど、あなたもそいつと同じじゃないって言いきれる?」


 その言葉に私は何も言えなかった。 アイラの言う、『制度の不備』の指摘は多々あった。

 私のように依頼を少しずつこなし、多少の失敗も経験しながらランクを上げてきた冒険者と、【前世返り(リピーター)】など常人を超えた能力で一気にランクを駆け上がった者たちでは、依頼に対する姿勢などが全然違うのである。 また、ギルドランクを駆け上がった者たちは、自分の力を過信し、他者を蔑むようになったり、力量を把握しきれずに死んでいったりと、あまり良い成果が出ていないということがあったからだ。


 ギルド制度について、悶々と考える私をよそに、アイラの話は続く。


「もう一つ。 あなたはその剣を使って何をするつもりなのかしら? 自分の名を売りたいなんていうことなら、一切、剣を(こしら)える気はないわ。 それと、それまで一切私の創るものに興味がなさげだったのに、アンドラスさんが来てから見る目が一気に変わったわね、あの眼はとても嫌な眼よ?」

「それは……、しかし、ならアンドラス殿はなぜ……」


 質問に質問を返すのはよくないことであるが、どうしても聞いておきたかった。


「アンドラスさんは「村を飢えさせないため」って言ってたわね? 何度もギルドに依頼を送っていたけどその様子じゃ知らないみたいね。 村人を飢えさせないために弓がいるから嬢ちゃんに作れるのかって……、思えばあの時、アンドラスさんは私を信用していなかったのね」

「え?」

「中央の人々は知らないでしょうけど、この辺りは4年前に大凶作に見舞われたわ。 作物が取れず、獲物を獲得するのにもことを欠く日々。 ギルドへの食糧輸送の依頼は受ける冒険者がおらず、行商人も五日に一度しか来ないし、それも村人全員をまかなえるだけの食料を積んでいるはずもない。

 村人は魔物を獲ることを選択するしかなかったの。 でも、一人で取れる魔物なんてたかが知れているわ。 当時はアンドラスさんでもバートを仕留めるのには苦労していたし」


 大凶作は確かにあった"らしい"。 らしいと言っているのは、リーガル付近では一切そんなことはなかったからである。 国は把握しているかもしれないが、所詮一般人である私がそんなことを知る由もない。


「現状を打開した後はどうするのか聞いた時も、アンドラスさんは迷わず「村人のために使う」と言ってくれたわ。 あの時のアンドラスさんの言葉に偽りはなかった。 大凶作を乗り切った今でも、必ずアンドラスさんは、村人にその日の成果を分けて回っているのだから……」


 先ほどアンドラス殿が来ていたのには、深い訳があったのである。 私は最早アイラの言葉を聞くだけになった。


「それと……、あなたの剣を見ていないわ。 ……私は物の声を聴く。 あなたが良き持ち主であるか、あなたが信頼できる冒険者かどうかは、武器(その子達)の声を聴けばわかることなんだけどね」


 ちょっとおどけて行ってくるアイラに私の頭の中は真っ白になってしまった。


「……は……? なら、いったいなぜ?」

「あなたにはちゃんと知っておいてほしかったの。 ギルドカードのランクなんかでは測れない世界があるってことを。 それと、露骨に態度が変わったのは確かに嫌だったしね」

「それは……、ごめんなさい」

「いいわ。 とりあえずあなたの剣を見せてね。 全てはそれからよ」


 素直に謝る私をやさしい笑顔とともに許してくれる彼女。 先ほどまではほぼ無表情だっただけに、その笑顔に思わず頬が赤くなってしまうのを自覚してしまった。



◇◆◇◆◇



 ―――村自体に異常は無し。

   しかし、村人は全員Bランク以上の強さを持つと推測される。―――


 先日依頼を(アマ)出した冒険者(ンダ)から上がってきた報告書である。 はっきり言って大問題な内容であるが、真相を聞こうにも、その冒険者(アマンダ)はすでにリーガルを出立した後であった。

 なんでも、少し前の依頼で折れてしまった大剣を持ってふらりとどこかへ行ってしまったらしい。

 アマンダと仲の良いギルド職員(ミヤ)から仕入れたネタなので信憑性は高いだろう。


「さて、困ったものだ。 村人全員がBランク以上の強さの村か。 はっきり言えばありえんとしか言えんが」

「ほう、村人全員がBランク以上とな?」

「ああ、そんな化け物のような村があるとは、正直思ってもみなかった」

「確かにな」

「それなら、依頼がなかtt……!!!」

「依頼がなかっただって?」


 ギルドマスターのローポが、独り部屋で悩んでいるところに突如かけられた声。 あまりに自然に声をかけられたため、反応が遅れてしまった。


「……陛下!! このようなところで一体何を!?」

「ああ……、気にするな。 それより続きを話せ」


 突如現れた国王陛下に驚くしかないギルドマスター。 この国王はお忍び、市場視察という言葉をフル活用し、隙を見ては城下町をブラつきまくっているのである。

 いつ近づいたのか、執務机のすぐそばに寄っていた国王は、資料を眺めながら続きを催促した。


 その後、ギルドマスターの言葉を聞いた国王の顔には、普段見ることができないほどの笑顔が浮かんでいた……。



◇◆◇◆◇



 ギルドへの報告書を提出したあと、アマンダはまたふらりとリルの村を目指していた。 その道中、あの問に対してどう答えるかをずっと考え続けていた。


 少し時は遡る。


「じゃあ、剣を見せてくれる?」


 アイラの言葉にうなづき、背中に担ぐ大剣を外し渡す。 流石は鍛冶を行っているだけはあり、それなりの重量を誇る大剣を、軽々持ち上げてみせたアイラ。 だが、まさか両手持ちの(トゥハンデット・)大剣(ソード)を片手で軽々持ち上げるとは思っても見なかったが。

 そのまま大剣に顔を近づけ目を(つぶ)る。 何やら言葉をつぶやいているが、アマンダにはついぞ聞き取ることはできなかった。 音としては聞こえているのだが、言葉として認識はできなかったのである。 【剣との対話】とは、人とものとの壁を超える技法なのだ。

 しばらくの時間、ずっと【剣との対話】を続けたアイラは、ゆっくりと目を開ける。 そして柔らかく微笑みを浮かべ、アマンダを見つめた。


「良い剣ね。 あなたに感謝してたわよ? 『いつもきちんと整備をしてくれてありがとう』と。 自分が鈍らだから、使い手であるあなたには迷惑をかけていると謝ってもいるわね。 もっとあなたの役に立ちたいのだそうよ? 使い手としてこれほど嬉しいことはないんじゃない?」


 武器を消耗品として処理してしまうものは多い。 実際、アマンダの大剣も近くの武器屋で買った500Gの品である。 宿が一泊二食付きで8000G程の王都で、量産品の武器はかなり安く設定されている。 質は良くはないが悪くもなく、至って普通と言ったところであろうか。

 そんな安く設定されている武器は、壊れたら使い捨てにする冒険者があとを立たない。 物語の世界のように手入れをしなくても使い続けられるような便利な武器など存在しないのである。 そのため、傷んだり、壊れたら素材として武器屋に引き取ってもらい、新しく買いなおす冒険者がほとんどなのである。

 アマンダは一つの大剣を手入れして使用していたが、手入れの時間さえ取れば長く使えるし、手入れ道具は値段もかなり安いので、そちらを選んでいただけである。 まさか武器にそこまで感謝されているとは思わず、自分の今までの行動を恥じていた。


「うん。 これなら任せることはできそうかな? この(大剣)は最近買ったものね? 今まで使っていたものはある?」

「……あるわ、折れてしまっているけど。 でも、もう剣はいいわ。 私はその(大剣)を使い続けるから」


 アマンダには、最早【精霊の宿る剣】などどうでもよかった。 今は、純粋にこの大剣を大切にしていきたい気持ちでいっぱいだったのである。 前に使っていた大剣が折れてしまったから、同じ重さ、同じ形の剣として選んだだけのものであったが、今では愛おしくて仕方がなかった。


「そうね、あなたにはこの(大剣)を使い続けてもらったほうがいいわね。 私はそのお手伝いをさせてもらうわ。 前に使っていた(大剣)にも話を聞いておきたいのよ。 折れてしまったのだったら早いほうがいいわ」


 アマンダは、早いほうがいいと言うアイラの言葉に訳がわからないと言った表情を返した。 どういう訳か尋ねようとしたが、「とりあえず持ってきてもらわないといけない」との事だったので報告も兼ねて一度取りに帰ったのである。 その際に、「私からの問について、あなたなりの答えを見つけておいてね」と言われたのである。

 リーガルへ帰る道中も、報告書を提出する際もそのことばかりを考えていた。


 そして現在。



◇◆◇◆◇



「うん、やはりいいものだね。 この子も『大事にしてくれてありがとう』って言ってるよ。 道半ばで折れてしまったことを後悔しているみたい。 もっとあなたと一緒に戦っていたかったのだそうよ。 もう消えてしまいそうだけれどね」


 私の心の内は歓喜で溢れていた。


 最近の冒険者たちは安く手に入るのをいいことに武器を粗末に扱うのだ。 それも力任せに叩きつけるような乱暴な使い方で消耗しているにも関わらず、まるで武器たちが悪いかのように『使えない』などとほざく始末である。 私にしてみれば、"到底"許せるものではない言い草だ。

 しかし、アマンダは違う。 現在使っている剣も、折れてしまった剣もどちらも感謝を示している。 鍛冶が一般的ではなかった昔では多く存在したようだが、量産が進んだ今では全くと言っていいほど見なくなってしまった武器からの感謝を受ける存在は、私に純粋に喜びを与えてくれた。

 彼女のためなら最高の仕事ができるであろう。 いや、彼女らの為ならのほうが正しいかもしれない。


「……消えてしまうの?」

「彼らは武器として生み出された。 武器として生きられなくなった時から、彼らの魂は消えてなくなる。 大事にされていたものほど消えるまでの時間が長いのだけれどね」


 彼女の持ち込んだ剣は途轍もなく弱っていた。 よく今まで魂をつないでこれたものだと言ってしまえるほどであった。

 さて、これからが私の仕事。 この(大剣)の遺志と、あの(大剣)の思いを一つにする仕事が待っている。 久しぶりに腕を思いっきり振るうつもりである。

 その前に。


「それで……、私の問への答えは出たのかしら?」


 この問だけにはしっかりと答えてもらいましょう。



◇◆◇◆◇



 規則正しい金属を打つ音が聞こえる。 私の答えを聞いて満足したのか、「その誓い、必ず全うしてね」とつぶやきを残し、工房へと入っていったアイラ。

 彼女が本気で剣を"創って"くれるらしい。 私が使っていた剣たちの魂はそのままに、あの子たちの望むように形を作り変えるのだという。 私としては、前のままでも十分であったのだが、あの子たちが変化を望んだそうなのである。 あの子たちが望んだことなら私には文句はない。

 それよりも今心配なのは、アイラである。


 すでに工房に篭ってから二日が経っている。 その間、規則正しい鎚の音色が止むことはなかった。 昨日も今日も、昼食にすら顔を出さないアイラに、流石に何かあったんじゃないかと思い、アンドラス殿に相談したが、「工房に篭ったアイラ嬢はそんなもんじゃ。 気にせんでええ、本人は元気じゃて」と言われてしまったら何とも言えない。 しかし、二日間『飲まず、食わず、休まず』で働き続けている彼女が元気とはとても思えなかった。


(心なしか鎚の音も弱くなているような……)


 そんなことを思ったからであろうか? 工房からの音が不意にピタリと止んでしまったのである。 作業が終わったのかとも思ったが彼女が出てくる気配はない。



◇◆◇◆◇



『ものを作るときは、素材が何になりたがっているかをしっかりと見極めることである』

 伝説の名工『ケレベス・ファブリカートル』の言葉である。 素晴らしいと評判の彼の作品は、しかし決して優れたものではなかった。


 アイラは思う。 彼は"素材に振り回されたのだ"、と……。


 鍛冶師の仕事は、ものを作ることである。 確かに素材がなりたがっているものに作り上げれば、性能は良くなるだろう。 しかし、それでは使い手のことを何一つ考えていないのと同じことである。

 人には英雄になろうとする願望が、心の奥底にある。 英雄でなくても誰かに認められたいという感情は誰にでもあるだろう。 それは物でも同じだった。 どの素材も、良い武器、防具、道具になりたいと思っているし、歴史に名を残すような名剣たちを羨んでいるのである。


 名工ケレベスはそのあたりを見誤ったのである。 ただ素材の赴くままに武器や防具を作り上げた彼は、それが規格外の性能をもつ武器になり、また規格外の能力を持ったものにしか反応しないものになるなど、考えもしなかっただろう。

 そう、彼が作った武器や防具は、全て伝説に名を残せるほどに素晴らしいものであったが、同時に歴史に名を残すような英雄たちにしか扱えない代物であった。 それゆえに、彼は名工の名を得ることができたのである。


 しかし、そんなもの素材に対する"冒涜"でしかないとアイラは思う。


 昔、一度だけ名工の武器をもつ冒険者を見たことがある。 しかし、名工の武器を嬉々として振り回す冒険者とは裏腹に、武器は泣いていた。 "この冒険者で妥協した"のだと。

 その武器は、確かに名工の作品であった。 自分を最強の武器として作り上げてくれたことに感謝し、自身の能力を遺憾なく発揮できる冒険者を探し求めていたが、生半可な実力をもつものでは使えなくなってしまったことには嘆いていた。

 数百年の長きに渡り、誰も自分を使うことができない現実を目の当たりにして、その武器はついに折れた。 『"このままでは何のために生まれたかわからない"』と。 仕方なく今の持ち主である冒険者にくっついてきたらしかった。

 武具たちの悲しみを聞かなかった『名工』。 その瞬間から憧れ続けた名工は、ただの『独りよがりのジジイ』へとアイラの中で大幅ランクダウンした。


 だからこそ、アイラはこの剣を完璧に仕上げようと思うのだ。 独りよがりのジジイと同じ、物の声が聞こえるものとして。 恥ずかしい先人の失敗に自分も当てはまらないように。


 剣たちの記憶から得たアマンダの戦闘スタイル、彼女の癖、彼女を観察して気がついた重心の偏り、利き腕、利き足、彼女の全て。 そのすべてを統合して、この剣に命を吹き込んでいく。

 この一本を打つためにここに居るのだという思いも載せて、作業に没頭した。 時間の感覚なんてものは、工房に入った瞬間からすでに忘却の彼方である。


 手始めに、彼らの魂を抽出。 豊富な魔法知識から最適な魔法を選択し、【塊魂(かいこん)】を作成する。 折れてしまった剣は炉に放り込み、一度完全にドロドロにとかしてしまう。 もう一つの方も溶かすが、かろうじて剣の形状は保たせる。 折れていない方の剣を芯金として使用し、剣を作っていくためだ。 魔法というのは便利なもので、鉄を溶かしたまま、冷やさずに保つことができるのである。

 【塊魂】を溶かした鉄に混ぜ込む。 【塊魂】が混ざることにより、赤くドロドロになっていた鉄が、蒼く輝き出す。 この瞬間が、アイラは途轍もなく好きなのだ。 良き魂を含むほど、蒼き輝きは濃く、美しくなるから。

 芯金の大剣を少しばかり叩く。 アマンダの戦闘スタイルに合わせた重心配置に持っていくためには、外見よりこの芯金の方が重要である。


〔え? そっちじゃないって? でもそっちはあなたの伸びたい方向でしょう? それではアマンダの動きを邪魔してしまうもの。 そっちには伸ばすことはできないのよ。 ごめんなさいね〕


 『アマンダの助けになりたい』という要望は、所謂、"後付け"であり、実際の所、彼らも有名な剣になることを望んでいる。 彼らからの思念にはやはりその感情が混ざってしまうのだ。

 しかし、それではアマンダの役に立つことなどできない。 彼らには申し訳ないが、アマンダに合わせた形状になってもらおう。


 時々、剣たちとやりとりをしながら芯金を淡々と作り上げていく。 完成した芯金は、そのまま蒼く輝く鉄へと差し込まれた。 蒼き輝きが一層増し、部屋を光で満たす。

 ゆっくりと芯金を引き抜くと、球体だった蒼く輝く鉄が引きづられるように伸び、ある大剣の形を示す。 このまま冷ませばそれだけで十分な代物が出来上がるだろう。 しかし……。


〔これではダメね。 アマンダの戦闘スタイルとは噛み合わない突起が多すぎるわ。 あなたたちのなりたい形はわかったのだけれど、そのままではアマンダに使われなくなってしまうわよ〕


 そのままの形状ではダメなのである。 彼らの願望が形作るこの大剣は、確かに使うものによれば、名剣の仲間入だろう。 ただし、その使うものはアマンダではないのである。 それでは彼らの思いもアマンダの気持ちも一切を無にしてしまうことになるだろう。 それではいけない。 独りよがりのジジイと同列になるつもりは一切ない。


 鎚を打ち付ける。 アマンダの使いやすい形状になるように。 不要な突起は削るように。 彼らの意見を無視するわけではなく、お互いの意見の良い所取りをしていくのである。 普通の鍛冶師にはできない。 しかし、【聴く者(リスナー)】の特性を持つアイラには、朝飯前のものであった。


 時間の感覚など忘れ、狂ったように鎚を打ち付け、ようやく納得の行くものが出来上がった。 鎚を置き、冷ましに入る。 この冷ましの重要性は実は知られていない。 急激に冷やしたり、一度加熱してから冷やしたり、様々な冷まし方が存在するのだ。 ゆっくりと風魔法を当てながら、冷ましを進める。


〔さて、後は装飾だけね〕


 アマンダの握りやすい形状にはなっているが、これではまだアマンダのものとは言い切れない。 装飾を施すことにより、より一層アマンダとのつながりを深くし、完全にアマンダのものとする。


 鎚をおいてから実に二時間が経過していた。



◇◆◇◆◇



 音が止んでから実に二時間、一向に扉が開く気配がない。 最初の頃はまだ作業をしているのかと思いもう少し待ってみることにしていたが、いくらなんでも二時間は長かった。 まさかの事態があったのかと、工房前の鉄扉をハラハラしながら眺めていると、不意に勢いよく扉が開いた。


「できたわよ! どう!!」


 顔に少し煤をつけながら、それでも輝く笑顔で、最高にドヤ顔を決めたアイラが、手に見慣れぬ大剣を持って出てきた。

 いや、見慣れぬ大剣ではない。 私にはわかった。 あれは"私のもの"だと。

 比喩や誇張な表現ではなく、本当に私のものだと理解出来たのである。


 アイラから手渡されるそれを握る。 ……一瞬にして手に馴染んだ。 まるで長年使い続けてきたかのように馴染むそれを驚愕の思いで見つめる。


「あの子達を合わせて作ったのよ! あなたに合わせて形状をいじったから、ちゃんと馴染んだようね。 当然、あなたが持つことを想定したから、あなた以外の人が使っても違和感を覚えるでしょうけどね」


 それは願ってもないことなのだけれど、本当に規格外ねアイラは。 二つの大剣を合わせて作られたそれは重さも相当なはずなのに、軽々と持ち上げているわ。

 先端と持ち手付近が幅広になった大剣。 幅の広さ、厚さも元のモノより一回りは大きくなっている。 それなのに重さは前と変わらない。 スッと構えてみると、体重の乗り方に違和感のあった部分が解消されている。

 本当に一体どうやって作ったのだろうか?


「これは本当に凄いわね」

「ええ、この子達も協力してくれたから。 想像以上にいいものができたと思うわ。 切れ味も抜群になったと思うから」


 想像以上なんて代物じゃないわ。 これほどの品なんて遺跡の奥の方からでも発掘されないんじゃないかしら?


「こんなにすごいものをありがとう。 この子達にもお礼を言いたいわ」

「いいわよ、別に。 私も久しぶりにいい仕事をさせてもらったわ。 その子達へのお礼は末永く、この子達を使ってあげて返してあげて。 ちゃんと整備してあげてね」

「……フフッ、当然よッ!!」


 私の心には未だかつてないほどの活力が満ちていた。



◇◆◇◆◇



 【紅鎧の竜殺し(ドラゴンスレイヤー)】アマンダ・アマダ。

 女性初のSSSランク冒険者。 その類まれなる美貌と、無類の強さから、あらゆる冒険者から憧れと畏れを一心に浴びた女性である。 彼女を語る文献や、英雄譚は後をたたない。


 一つ、女性初のSSSクラス冒険者。

 一つ、災害指定レベルEX級の幻獣『ドラゴン』を単身で倒した。

 一つ、彼女の持つ武器は、大剣一本のみ。

 一つ、身につけた鎧は、どんな魔物でも傷を付けることができなかった。 などなど。


 彼女の没年は正確には伝わっていない。 老衰を迎えたとも、荒野で果てたとも言われている。 生涯独身を貫いたと言われているが、アマンダの子孫を名乗るものは世界各地に存在した。


 彼女の使っていた武具は、あらゆる伝説を残していた。 ドラゴンを一太刀で叩き切る大剣やドラゴンのブレスでも溶けない鎧など、その伝説を求め、各地でアマンダの装備は高額取引された。 その中で唯一、規格外の性能を誇る大剣『アマンダ(ロード・)(オブ・)元に(アマンダ)』だけは、彼女以外のどんな冒険者も振ることができなかったとされている。


 大剣の出自は全くの不明。 どれほど仲の良い冒険者であろうとも、彼女の大剣だけは情報がつかめなかったといわれている。

 アマンダの没後、数十年の時を経て、大剣はまるで、『役目は終わった』と言わんばかりに、一度まばゆく輝き、砂で作られていたかのように崩れ落ちたそうである。

 後に、『アマンダの没後ちょうど百年の時に崩れ落ちた』とされるが、真相は誰にもわからない。


 この伝説は、彼女の剣に宿った精霊が起こしたとされ、長く大切に使われた武具には精霊が宿るとの見方を示す学者たちは大勢現れた。 誰ひとりとしてそれを証明できるものはいなかったが……。


 彼女の話は【前世返り(リピーター)】達によって正確に伝えられ続けた。







 ―――しかし、誰も知らない。


 数々の伝説を残したアマンダの大剣が、元はただの量産品の大剣だということを。


 美術的価値などから60億Gもの値がついたとされ、その規格外の性能から、様々な特殊素材を用い、推定でも30億Gで作られたとされる大剣が、実質1000Gで作られた代物だということを。



 それをアマンダの影に隠れた、もう一人の伝説が作り上げていたことも……。


 まったく、誰も、知らない……。

1/6 一部内容修正。

1/25 内容修正。

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