第3考 『運勢ってなにさ?』
「まじか……、今週の俺ってこんなにも……」
やぁ、俺だよ俺! 三木悠木!ただの高校生って身分のしがないフツメンさっ!
ちなみに、そんな俺は今、猛烈に落ち込んでいる、理由は手に持っている雑誌のひとつのコーナーにあるんだ。
「なに見てるの?………どれどれ」
そう言って覗き込んでくるのは、幼馴染に三咲美里だ。
相変わらずポニーなテールがうざってぇ奴だ。
「へぇ、今週の運勢かー、あっ! 私のは最高ですだって!」
そしてこの差である。
俺は最下位だというのに、こいつは一位……。
たかだか1ヵ月の違いだと言うのに、これだけの優劣が出来てしまうとは恐ろしいものだ。
「よぅござんしたねー。俺は最下位だよ、クソがっ!」
そう俺が言えば、美里は俺のランキング位置を調べる。
見つけたのだろうか、元々大きな二重の目が更に大きく見開いたように見えたんだけども。
「うわっ、ほんとだ……。 どれどれ、身近な人を大事にしましょう、そうすれば……」
何故か熱心に読み始める美里、こいつめ……。
俺の不幸を喜んでいやがる、くそっ! だが運勢が悪いのは事実、何故だっ!?
「ったくよ、なんでこんな生年月日やら星座なんかで運勢が分かるんだろうね?」
そう雑誌から目を離さずに俺の不幸を楽しんでいた美里がようやく顔を上げる。
「ん? んー、そうだねぇ……どうしてだろう?」
こいつは本当に付き合いが良いな、そこだけは認めてやろうじゃないか。
にしても、どうしてだろう?
ふっふっふ、またしてもカガク的にいくしかあるまいよっ!
「俺はこう考えるね、生まれた月、分かりやすく言えば季節だな?
そこが関係していると思うぜ」
どうよ、ちょっとカガク的じゃね?
「…………なんで、季節が関係してるの? 暑いからとか寒いからって事?」
よしっ、俺のカガクに釣られたなっ。
ここからが素晴らしきカガクの力さっ、平伏するがいいっ!
「良い所に気がついたな? 夏はどうして夏なんだろうな?
冬もそうだ、どうしてだと思う?」
「どうしてって、そうやって地球が太陽の周りを回ってるからでしょう?」
「そうだ、その通りだ。
まぁ、正確にはもうちょいあるんだけど、重要なのはそこよ」
いいぞ、今までまだツッコミが入っていない。
これは遂に俺のカガクが進化していってると言う証っ!
「重要なのは分かったけど、それでどうしてなのよ?」
「いいか、俺は磁気に注目しているんだよ。
人間には生体電気ってのがある、そんな感じで微弱だけど磁気があると見ている」
「無いでしょ、あってもソレがなんなのよ?」
若干顔を寄せる形で問うてくる美里、だからポニーがうぜぇっての!
だが焦るな、ここで焦ればいつもの二の舞だぞ、俺?
「その磁気ってのは生まれた時の地球の位置なりによって大まかに決まる。
そう仮定しよう、いいか?」
「……まぁ、話進まないしね」
よし、危ない所だったが、なんとか切り抜けた。
ここから、そう。 ここからが大事なんだ、焦るなよ俺っ!
「でだ、その磁気ってのは人間以外にも宿っている。
物にも、動物にも、なんにでも、そういう考えだ」
「うん、磁気がねぇ……ただの石にそれって」
っ!? やばいっ、ここは切り札を出すしかあるまいっ!!
「慌てるな……磁気ってのは分かりやすく言ったに過ぎない。
別に普通のソレってわけじゃないんだよっ、話の腰を折るなよな?」
「あー、うん。 ごめんね、続けて?」
くっくっく。顔を真面目っぽくするのが辛いぜ。
見事に騙されおってからにっ!内心じゃ常に大笑いよっ、だがすぐに声に出して笑ってやるからなっ!
「運ってのはさ、良い事とか悪い事って言うけどよ。
要はその人に何かが起こるって事なわけ、そこはいいよな。
んでだ、その磁気、引き寄せたり、引き寄せられたりする力を人は持っている」
「それはさっきも言ってたけど、だからなんなのよ」
くっくっく、焦らす事もまた必要……。
だが、そろそろ良いだろう、頃合だっ!
「磁石の例えで混乱するかもしれないけど、S極、N極ってのがある。
そして生まれた月日によってそんな感じで微妙に異なるわけだな? Sの奴もいれば、Nの奴もいる。
……あぁ、実際はものすごい種類の磁気があると思ってくれよ?
だけど、動物はともかくとして、物質は一定の期間は、常に決まったモノなんだ」
分かりやすい例えってのは大事だよな?
なんか、本当にありそうな気がしてくる不思議。
「うん……?」
「そして、微弱なものとは言え、引き寄せる力を持っているんだ。
そこに引き付けられる事も無くはない、全てのモノにはそれがあるんだからな。
そしてそのモノは例外を除いて多くが月日で変わるんだよ」
「そう言ってたね?」
やっべ、のってきちまったぞ? オラのワクワクが止まらねぇ!
「そうすると、今日、俺には水のソレが引き付きやすいとしよう。
俺の磁気に水は引かれちまうわけだな?くっつきたいわけだ、他の人よりも。
だからこの場合、占いでは水難の相がありますね、って感じで言われる感じになるわけよ」
俺が手相占いっぽい真似をしつつ言うと、この馬鹿はおぉっ!って感じの顔をしながら頷いている。
「おぉー、なんかソレっぽいね」
どころか、声に出して言いやがった。
前のじゃないが、こいつ大丈夫だろうか? 俺は心配になってくるが、まぁいいか。
「待て待て、話は続くんだ。これで終わりなわけがないだろう?
次は人同士の場合だな、これは大抵の人は違う、けど余程の事がなければ一生変わらないものなんだよ。
だから、反発しあう磁気を持つ同士では、気に入らない、嫌いな人になりやすいとも言える。
こっちはテレビとかじゃなくて、ある程度情報を聞いた上でする本格的な占いの場合だな?」
「あー、人同士だと月日では変わらないから?」
「そう、だからテレビとかでやってる簡単な占いの場合は全てにラッキーアイテムなり、アンラッキーアイテムとかでそこを補ってるんだよ。
それを持っていれば自分と反対のモノを持つだろう人との反発を緩和、逆に強化しちゃうから気を付けてって感じだな?」
「おぉー、それっぽい! それっぽいよ!」
くくくくっ! 見事に俺の、話に引きついたわっ! ここまで来ればもう離さないぜっ!
「だから、運勢占いってのは月毎や日毎に変わるんだ。
んで、運命の人ってのもあるだろう?
それは奇跡的な確率でさっきの例えに出したS極とN極な感じなわけよ?
ピッタリ引きあうからこそ、惹かれ合うわけだな?」
「え……あ、あぁ。 そうだよね、うん」
最後に飛びっきりのカガクをぶつけてみたんだが、美里の反応はいまいちだな?
まぁ、いいさ。ここは押し切って俺の勝利を飾るっ!
「どーよ、この完璧なカガク的な見方はよ?」
「うん……凄く良いと思うよ? うん、嫌いじゃないかな、そういうの」
あっれ? いつもみたいに最後には下らない!とか言わないのか?
カガク的な話をするとなんでかコイツはそうならねーんだよなぁ……、普段もそうだと可愛いものなんだが。
「まぁ、うん。
だけど、微弱なものだからな、大抵は外れるわけだよ。
まぁ、人と人を引き付け合うって奴の場合はそうでもないかもしれないけどさ」
そう言うと、こいつはしきりに頷いてくる。
まったく、俺のカガクって奴はいっそ恐ろしいね……こんなデタラメを信じ込ませちゃうなんて。
ふっ、あとでデタラメな嘘だってのを教えてやるか。
学校とかで自慢気に語られでもしたら、俺は死ぬ、クラス的に。
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美里が帰るとき、それを伝えたら、なぜか軽いながらもビンタを食らった。
ったく、占いも馬鹿にできたもんじゃねーな?
身近な人をちょっと騙したらこうだもんよ、気を付けねーと……。




