第2考 『後ろに目があるってなにさ?』
「なー、この漫画のさ、『むっ、何奴!』ってのさ、なんでこいつ気付いたんだろ?」
そんな事を聞いたのは俺、三木悠木、ただの高校生だ。
「んー? どうしてだろうね? 侍さんだし、鍛えてるからとかじゃない?」
そして、何故か俺の秘蔵のポッ○ーを食べながら小難しそうな小説を読んでいるのは幼馴染の三咲美里だ。
「鍛えてる、ねぇ? ここは俺の黒歴史的考えでいってみるべきか」
そう言った俺は、目を瞑って封印したあいつを呼び起こそうと……。
「黒歴史って、アレ? なんか無駄にクサい台詞を好んでた、あの……」
するわけがないっ! あれを解いたら俺はもうダメになるっ!
ってか止めてっ、いくらお前でも言って良い事と悪い事がっ!?
「待てっ! その先は言葉にしちゃいけねぇ……胸にしまっとけ、な?」
「…………あの」
俺が丁寧に言っても、まだ言おうとしやがるっ!
こやつめっ、仕方あるまい……、お主はこの言葉が欲しいのであろうっ!? くれてやるわっ!!
「分かった! ハーゲンダッ○を奢る! どうだ!」
「それで? それでいくとどんな感じなの?」
「あ、あぁ、うん。そういう風に言ったけど、俺もいつまでもガキじゃないんだ。
カガク的に考えてるわけだよ、君」
流石はハーゲンダッ○……これほどの効果とはなっ!
「科学的?っていうけど、どういう感じで?」
っていうか、ここまでして話したいって訳でもないんだけども。
まぁ、奢るって言っちゃったし? 最後まで楽しく言わせて貰うとするかね。
どうせだし、ふっふっふ、カガク的にガンガンいかせてもらうっ!!
「ふふん、いいか? 人には五感があるだろ?
んで第六感っていうのもあるって言われてる。所謂予感だのそういったものだな」
「あるね、それが?」
「それで気付いたと思うんだよ! こいつ!」
「ふーん、それで?」
「……え」
こいつ、どうしてこんな冷めた反応を!?
「いや、そうかもしれないけど、その第六感ってどういうものなの?
科学的とやらで言ってみなさいよ」
な、なんだと!? この完璧な理論を簡単に論破するだと!?
慌てるな、適当に、それっぽい事を言えばいいだけさっ!
「お前にゃ理解できないだろうけど、仕方ないな」
「はいはい、それで? 言ってごらんなさい?」
「第六感って言うけど、その前に美里、お前はどうして俺がここにいるって分かる?」
「え? そりゃー、目で見てるし、話してるからじゃない?」
くっくっく、見事に俺の巧みな話術の術中に嵌りおったわ! このまま適当にソレっぽいので誤魔化す!
「だろ? んで、例えばコレが街中だとしたら? 動物が一杯いる動物園とかだとしたら?」
「えっと、どーいう事?」
「つまりだ、俺がいるって事を美里以外の人間、動物も認識できてるって事なんだよ」
いいね、俺もそんな感じに思えてしまう流れ……。
まったく恐ろしくなってしまうくらいだよっ!
「うん、そうなる、のかな?」
こいつもこの流れに飲まれ始めているな? くっくっく。
「そうなるの。ここまでが五感だ。視覚、或いは聴覚とかで俺がいる事を知れる、分かるってことだな」
「うん」
「で、話をまた変える。
俺が例えば、危ない奴だとしよう……そうだな、美里のストーカーだ」
俺が適当に言えば、美里は身体を大きく動かした。
飛び跳ねるほどか? いやまぁ、そういうのが実際いたら怖いだろうし?
「え!? わっ、わたしのス、ストーカー!?」
でも、これじゃ話が進まない。 まったく困った奴だ。
「何キョドってんだ? 例え話だぞ? ったく話を折るなよ」
「あ、うん。ごめん、続けて?」
「俺はブツブツと独り言を言ったり、挙動不審だったりするわけだよ」
俺は置いてあったカバンを手にとって、電柱から覗く真似などを交えて教えてやる。
……思うんだけど、あれって普通ばれないか? なんでドラマとかで気付かないんだろう、不思議だ。
「うんうん」
「それを他の人、或いは野良猫なんかが見たり聞いたりするんだ。
美里、もしそんな奴見たらどう思う?」
「んー? 変な人とか、怖い、とかかなぁ?」
だよな? 俺もそう思うわ。 まぁそれ以前にそんな奴そうそういないだろうが。
「そう、怖いって思うわけだな、大勢の人がそういった感情を持ったりしたらどうなる?
そうだな、この前の前田の野郎のギャグが滑った時、俺らはつまらねぇって思ったろ? どうなった?」
ちなみに前田ってのは英語の教師だ、おやじギャグと言うのも失礼にあたるものを連発する阿呆だ。
教師としては教え方上手いと思うんだが、その一点でネタキャラ扱いされる不遇の教師だ。
「そりゃ、なんていうかシーンって、なったけど」
「だろ? 例えば、そのなった所に入ったらどう感じる?」
「え? そーだなぁ、なにこの空気?って思うかも?」
あの空気を他人が作ったなら、こうして笑い話にできるが……。
自分がやっちまった時のあの心境はヤバイなんてもんじゃねーよなぁ……って。
「そうだろ? さっきの話に戻るけどさ。
それで、空気というか雰囲気が造られるわけだ。怖い人がいる、なんか危ないんじゃないか?ってな」
ついつい、別の意味での黒歴史を思い出して欝になりそうになった。
俺もまだまだだな。 しかしこいつ、良くこんな話を聞いていられるなぁ。
まぁ、俺は楽しいからいいんだけどさ?
「まぁ、そういうもの、なのかな?」
「そう、そして美里に俺、まぁストーカーが近づけば近づくほど、お前の近くでそういった空気が出来るわけだな」
「うん」
「んで、その空気の中にお前が入った時、言う訳だ『むっ、何奴!』ってな!」
「私、そんな言葉言わないと思うけど?」
いきなりお前がそんな言葉遣いになったら、まさに俺がそれを言っちゃうから。
頼むから言うなよ? 人が変わったようだ……、とかまじでやめてくれ、良い意味ならともかく。
「あほっ、第六感って意味だよ!つまり怖くなったりするんだ、危ないってなんとなく思っちゃうわけだよ!」
「あー、そういう事ね? 漫画の台詞で言うもんだから分かりにくいのよ!」
「とにかく、そういう訳でお前は俺を五感で感じていないのに、他の人の五感で作られた俺っていう危険を第六感で感じ取ったわけだな。
どうよ?この完璧なカガク的な考えは!」
「へぇ、なんていうか、なんとなく納得しそうな感じねぇ」
あっるぇ?どうして頷いたりしてんだ?こいつってアホか?なんで適当な話でそっかとか言っちゃってるの?
こいつ、宗教とかにアッサリ騙されそうだ……成程、母さんやおばさんがこいつを大事にしろって言ってる訳が分かるもんだ。
「…………まぁ、安心しろ。俺がいっから、な?」
「えっ!? そ、それってストーカーがいたらっていう、え? いや、その」
「何言ってんだ? 俺はお前が心配になっただけだぞ?」
「しんぱっ!? そ、そっか、うん。その、ありがと……」
「まったく、気をつけろよ? お前はそうなっても可笑しくないんだからな?」
「……え、と。うん。気をつけるね」
よーやく分かって貰えたか、変な宗教とかに嵌って借金地獄!警察沙汰!ってのは流石に御免だからな。
ふぅ、なんか変な話したおかげで、未来起こりえた危機を一つ取り除いてしまった……、流石だな俺。
「あ、そだ。お前、そろそろ誕生日だろ?なにか欲しいのとかあんの?」
先に聞いておかないと、母親ーズにボッコボコにされかねん。
去年と同じ轍は踏まない、それが俺だっ!
「え、と……なんでもいいの?」
「ん?言っとくけど、高いのとかは簡便な?
出来れば安いのでお願いしたい、あぁいらないのとかはダメな?後で俺が死ねるから」
「そうだなぁ、映画を観たいかも……」
「映画?なに、ツタ○で借りて来いってこと?」
パシリに使いたいとは……このドSめっ!
「違うわよ! 映画館に行きたいのっ、ほら、今度公開されるのがあったでしょ?」
「映画館? 今度公開されるのったって、そりゃあるだろうよ、色々と。
どれよ?」
「ほら、CMとかでもやってるアレ!」
あぁ、あれね!とか言いたいがサッパリだ。つかCMっても色々あんだろうがよ?
「あー、あれか? コメディの?」
「違う! そんなんじゃない!」
何故キレる!?
「あー、アクションモノ?」
「…………」
ハズレか……、これで2回しくじった、もはや後はないぞ?
どうする俺、どうする、どうする!?
「そ、それじゃあ分からないんなら、それっぽいの色々観てみようか?」
「色々? 何回か行くの?」
「あ、うん。まぁ一回目で思い出せればソレでいいけど、な?」
くぅ、苦肉の策! 今月から貯金しなくてはなるまい……さらば新作ゲーム達!
「ん、いいよ! それじゃぁ何観よっか、楽しみだなぁ」
しくじった感が今更込み上げて来る……こいつ、もしかしなくても何度も行く気じゃねぇか?
俺の財布を殺す気だな!くそがっ、やられたっ!
「ね、悠も楽しみ?」
なんだかなぁ、やっぱり最後にはコイツに負ける……。
こいつって何かの超能力者なのかね?