表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

異世界恋愛シリーズ

死に戻った悪役令嬢ですが、愛が重いヤンデレ騎士の溺愛監禁ルートに入りました

作者: 霧原いと
掲載日:2026/05/14


「――リディア・エヴァンズ。貴様を王国反逆罪により処刑する」


 広場に歓声が響いた。


 処刑台の上で、私は静かに顔を上げる。

 視線の先に立っていたのは、銀髪の騎士団長レオン・ヴァルツだった。

 王国最強と名高い騎士であり、同時に私の初恋の相手でもある。


 最後くらい、助けてほしい。


 そんな願いが胸をよぎり、私は自嘲気味に笑った。

 愚かな話だ。

 王太子に執着し、聖女を害し、破滅した悪役令嬢に救いなどあるはずがない。


「言い残すことはあるか」


 レオン様の声は冷たかった。


(……助けて)


 私は喉の奥まで込み上げた言葉を、ゆっくり飲み込む。


「ありません」


 僅かな沈黙を挟んで、レオン様の構えた剣が振り下ろされる。

 ――ザンッ。

 鋭い風切り音と共に私の命が終わる、その瞬間だった。


「次こそは、絶対に渡さない」


 耳元を掠めた低い囁きに、私は目を見開いた。


 ◇ ◇ ◇


「っ……!」


 飛び起きた瞬間、激しく肩で息をした。

 見慣れた天蓋付きの寝台と、自室の景色が視界に映る。


 震える手で机上のカレンダーを確かめた私は、愕然と息を呑んだ。


「一年前?」


 処刑の日より、ちょうど一年前だ。

 死に戻ったのだと理解した途端、全身から嫌な汗が噴き出した。


 断頭台、歓声、振り下ろされる刃。

 そして最後まで、自分を見下ろしていたレオン様の瞳。


「もう、あんな思いは嫌……」


 前回の私は間違えた。

 王太子を追い回し、嫉妬に目を曇らせ、気づけば誰からも見放されていた。


 だから今度こそ慎ましく生きる。

 誰とも深く関わらず、静かに生き延びる。

 そう決意した日の夜だった。


「どうして逃げようとするんです?」


「ひっ!?」


 突然かけられた声に、私は悲鳴を上げた。

 月明かりの差し込むバルコニーに、長身の男が立っている。


「レ、レオン様……!?」


 銀髪の騎士団長は、当然のような顔で部屋へ踏み込んできた。


「会いに来ました」


「騎士団長が、令嬢の部屋に侵入していいと思ってるんですか!?」


「窓の鍵が開いていたので」


「理由になってません!」


 後ずさる私に対し、レオン様は静かに距離を詰める。

 逃げなければと思うのに、足が動かなかった。

 処刑台で見たあの目と、同じだったからだ。


「また、一人で死ぬつもりですか」


 彼の言葉に心臓が凍りつく。


「……え?」


「今度は失敗しません」


 低く落ちた声に、背筋が粟立った。


「まさか……レオン様も……」


「ええ。あなたが死んだ後、俺も死にました」


 あまりにも平然と告げられ、私は唖然とした。


「どうして……」


「あなたのいない世界に価値がなかったので」


 蒼い瞳が真っ直ぐ私を射抜いた。

 その眼差しに宿る執着の熱量に、息が詰まる。


「処刑の日、あなたは最後まで俺を頼らなかった。ひとこと『助けて』と言ってもらえたら、全てを投げ出してでも守ったのに」


 レオン様の指先が、そっと私の頬に触れた。


「だから今回は、最初から全部排除することにしたんです」


「排除?」


「王太子も、聖女も、あなたを害する貴族も」


 穏やかに微笑みながら、とんでもないことを口にする。


「国境には既に手を回しています。仮に逃げても、すぐ追えるように」


「怖すぎます!」


「医師も確保済みです。毒見役も、使用人も、全員調査を終えています」


「準備が周到すぎるんですが!?」


「安心してください。今度は誰にも、あなたを傷つけさせません」


 恐ろしいはずなのに、その声には切実さが滲んでいた。


「……愛しています」


 強く抱き寄せられる。

 耳元に落ちた声は、わずかに震えていた。


「あなたが死んだ時、正気を保てる気がしなかった。だから次は、閉じ込めてでも守ると決めたんです」


「閉じ込める前提なんですか」


「あなた専用の屋敷も用意しました」


「本当に実行済み!?」


「庭園と温室付きです」


「設備の問題じゃないんです!」


 レオン様は本気だった。

 その表情を見た瞬間、私は理解してしまう。


 この人は、私の死で壊れてしまったのだ。


 前回の私は、誰にも必要とされていないと思っていた。

 最後まで助けを求めなかったのも、その諦めがあったからだ。


 しかし、この人だけは違った。

 私を失ったことで、生きる意味ごと壊れてしまうほどに、私を――。


「レオン様」


 気づけば、私は彼の袖を掴んでいた。

 レオン様が目を見開く。


「逃げません」


「……っ」


「だから監禁は、できれば穏便に……」


 数秒の沈黙の後、レオン様は苦しげに額を押さえた。


「無理です」


「なんでですか!?」


「そんなことを言われたら、余計に閉じ込めたくなるでしょう」


「どうして悪化するのです!」


 レオン様の耳が赤く染まっている。

 どうやら照れているらしい。


 怖いのに不器用で、狂気じみているのに妙に真っ直ぐだ。


 彼のことが理解できない。

 でも、何故だか放っておけない心地がした。


「リディア」


 熱を押し殺した声で、レオン様が囁く。


「今度こそ、あなたを幸せにします」


 その瞳は重く、狂気的で、それでも真摯だった。


 きっと普通の恋愛にはならない。

 それでも、この人となら少なくとも一人で死ぬことはない。


 そう思ってしまった時点で、もう負けなのかもしれなかった。


 ◇ ◇ ◇


 監禁生活が始まって三日目、私は早々に理解した。


 この屋敷、逃げられない。


 窓には結界。扉の外には騎士。

 庭園へ出ても、少し離れた場所に必ず誰かいる。

 視線が恐ろしいくらい自然なので最初は気づかなかったが、明らかに監視だ。


 試しに裏門から抜け出そうとした時など、五分後にはレオン様が現れた。


「どこへ?」


「ひっ」


 笑顔だった。

 怖い。本当に怖い。


「少し散歩を」


「門番が泣きながら報告に来ました。“奥様が脱走を”と」


「奥様じゃありません!」


「予定ではそうなります」


 レオン様は真顔でそう言った。

 しかも、さらっと既成事実みたいに扱われている。


「……あの、レオン様」


「なんでしょう」


「もしかして、この屋敷の方たち全員、私を監視してます?」


「監視ではありません。護衛です」


「言い方を変えただけですよね?」


「リディアを危険から守るためです」


 当然のように答えた後、レオン様はわずかに目を伏せた。


「前回は、守れなかったので」


 掠れた声に、私は言葉を失う。

 この人は、本当にあの日を引きずっている。


 処刑台で死んだ私より、その後に残されたレオン様の方が壊れてしまったのかもしれない。


「……逃げませんよ」


 小さく呟くと、レオン様が目を見開いた。


「本当に?」


「そんなに信じられませんか?」


「はい。あなたは、自分を大事にしないので」


 低く、切実な声だった。


「だから、目を離すのが怖い」


 真っ直ぐ向けられる執着に、胸がざわつく。それは、あまりに重い。


 なのに少しだけ、嬉しいと思ってしまった自分がいた。


◇ ◇ ◇


 監禁生活が始まって一週間後、私は別の問題に直面していた。

 甘やかされすぎる。


「リディア、寒くありませんか」


「大丈夫です」


「ですが、先ほど少し肩を擦っていました」


 そう言いながら、レオン様が当然のように上着を掛けてくる。

 しかも高級品だ。触っただけで分かる。


「お茶も淹れ直させました。温度が少し低かったので」


「十分温かかったですよ?」


「いえ、リディアの身体が冷えたら大変です」


「大げさですよ……それに、」


 私は机の上に視線を移した。

 そこには、山のようなお菓子が並んでいる。

 王都の人気店の焼き菓子、宝石のように繊細な砂糖菓子、高級果物まである。


「……これ全部、私にですか?」


「あなたがどれを好むか分からなかったので」


「試食会じゃないんですから」


 呆れながらクッキーを摘まむと、レオン様の目がじっとこちらを見つめていた。


「なんですか」


「いえ。食べているな、と思って」


「食べますよ!」


「ちゃんと笑っていますね」


「観察が怖いんですが!?」


 しかしレオン様は、心底安心したように息を吐いた。


「前回のあなたは、処刑が近づくにつれて何も口にしなくなったので」


 その言葉に、胸が詰まる。


 前回の私は、もう全部諦めていた。

 生きる気力すら失っていたのだ。


 けれど今、目の前のこの人は、私がクッキーを食べただけで安心している。

 そこまで追い詰めてしまっていたのかと思うと、妙に胸が苦しくなった。


◇ ◇ ◇


 ある日の夜、ふと目が覚めた私は、部屋の隅に人影を見つけて飛び起きた。


「きゃあああっ!?」


「リディア!? どうしました!?」


「レオン様がどうしましたです!!」


 なぜかレオン様が椅子に座ってこちらを見つめていたのだ。

 暗闇の中で灯りもつけずに、ただ静かに。


 怖すぎる。

 正直、幽霊か何かかと思った。


「な、なんでいるんですか……」


「寝顔を見に」


「言い方!」


 レオン様は、全く悪びれていなかった。


「うなされていたので、様子を見に来ました」


 よく見ると、机には読みかけの書類が積まれていた。


「……ずっといたんですか?」


「二時間ほどです」


「長いです!」


「起こさないよう静かにしていました」


「そういう問題じゃありません!」


 私が半泣きで訴えると、レオン様は少し困ったように眉を下げた。


「あなたが苦しそうにしていると、不安になるんです」


 低く落ちた声には、冗談の気配が一切なかった。


「また突然いなくなるんじゃないかと考えると、眠れない」


 私は息を呑む。

 この人にとって、私の死はまだ終わっていない。


 今もずっと、処刑台の日の続きの中にいるのだ。


「……もう消えたりしません」


 気づけば、そう口にしていた。

 するとレオン様は、壊れ物に触れるみたいに私の手を握る。


「約束ですよ」


「はい」


 そのまま彼は、私をそっと抱きしめた。


◇ ◇ ◇


 私は少しずつ気づいていった。

 レオン様は、私を閉じ込めたいわけではない。ただ、失うのが怖いのだ。


 私は彼の不器用で重い愛情を、いつしか愛おしく感じるようになっていった。


 そして、半年後――、


「……よろしくお願いします」


 差し出された結婚指輪を、私は受け取った。

 レオン様は、泣き出しそうな顔でその手を握り締める。


「これで合法的に、一生閉じ込められる……」


「やっぱり逃げた方がいいですか?」


「駄目です」


 彼が即答するので笑ってしまった。

 もっとも、もう逃げる気など残っていなかったのだけれど。


「これからも、ずっと一緒ですよ。旦那様」


「……!」


 レオン様の端正な顔が、赤く染まっていく。

 そんな彼を見つめながら、私の心は静かに満たされていく。


 彼の腕の中は、少し息苦しい。

 でも、今ではここが、私が一番幸せを感じられる場所なのだ。

ここまでお読みくださり、ありがとうございました!

少しでも楽しんで頂けたらとても嬉しいです。


もしよろしければ、作品ページ下部の【☆☆☆☆☆】から評価を入れていただけると励みになります。

ブックマークや感想も大歓迎です。


今後も短編を投稿していく予定なので、宜しくお願いします!

最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ