表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/13

どうやら帝国最強の魔導卿に一生囲われることになりそうです


豪華な馬車が魔塔の正門を潜り抜けた瞬間、ミラは窓の外を見て絶句した。


「……え、ちょっと待って。何これ。軍隊の閲兵式か何か、ですか?」


そこには、この国でも最高位の礼装に身を包んだ魔導師たちと、重厚な鎧を纏った魔導騎士団が整列していた。


ミラが馬車から一歩降りた瞬間、地響きのような音が響く。


次の瞬間、全員が一斉に膝を突き、頭を垂れた。


「「「我らが主の救世主、ミラ様に、至高の敬意を!!」」」


「……は、はい!? なぜ!? 私、ただの職人ですけど!?」


ミラがドン引きして後ずさりする間もなく、ゼノスが当然のような顔で彼女の腰を抱き寄せた。


「当然の礼遇だよ。君は僕を、ひいてはこの魔塔の秩序を救ったのだから」


「いやいやいや、人違いだって言ってるじゃないですかー!」


叫びも虚しく、ミラはそのまま絢爛豪華な応接間へとエスコート――もとい、連行された。


ソファに座らされたミラの目の前には、仰々しい羊皮紙。


そしてその真横には、なぜか距離感ゼロでぴったりと密着して座るゼノスがいる。


「さあ、ミラ。ここにサインを。

……大丈夫、ただの『滞在許可証』を作るための手続きだよ」


ゼノスは、かつてないほど爽やかな、純粋な笑顔を浮かべている。


だが、ミラは騙されなかった。


「……あの、ゼノス様。

私、こう見えて古文の成績は悪くなかったんですよ。

……これ、何でこんなに黄金色に光ってるんですか?

それに、文面がわざと読みにくい古文で書かれてますよね!

『永久』とか『魂の供託』とか、不穏な単語がチラホラ見えるんですけど!」


「気のせいだよ。少し古い書式の方が、魔術的なセキュリティが高いだけだ。さあ、早く」


「いやいや、おかしいでしょ! それに、なぜそもそも滞在許可証が必要なんですか!

私は人違いですから、今すぐ、お隣の国へ行くんですから!」


ミラがガタッと席を立とうとした、その瞬間。


「……行かせないと、言っただろう?」


背後から強い力で抱きすくめられる。


ゼノスの熱い体温と、強引なほどの魔力がミラを包み込んだ。


彼はミラの肩に顎を乗せ、耳元で甘く低く囁く。


「遠くに? 行かせないよ。

君が編む糸も、君が作る未来も、全て僕の目の届く場所になければ気が済まないんだ。

……この契約書にサインすれば、君は一生、この魔塔で不自由なく『制作』に没頭できる。

僕という一番の理解者の傍でね」


「……それ、やっぱり『滞在許可証』じゃなくて『終身雇用(という名の監禁)契約書』じゃないですかーーー!!」


ミラの叫びは、魔塔の静寂の中に虚しく、しかし賑やかに響き渡る。


「……ちょっと!! 何で私が膝の上に座らされてるんですか!? おろしてください、重力に逆らわずに地面に足をつけさせて!!」


ゼノスの膝の上でミラは暴れていたが、彼の腕はびくともしない。


それどころか、彼は満足げにミラの背中に顔を埋めている。


「……いい匂いだ。君の魔力の残り香がする。こうしていると、数ヶ月の飢えが少しだけ癒えるよ」


「癒やされないで! 私の情緒が死ぬから!」


ミラが涙目で叫ぶと、気配を消していた側近が深いため息をつきながら一歩前に出た。


「……失礼いたします、ミラ様。

今の主様に理性的な説明を求めても無駄ですので、私から申し上げます。

主様は、あの日あなたに命を救われて以来、重度の『ミラ依存症』に陥っております」


一呼吸置く。


「あなたの編んだ魔導糸を一日中顕微鏡で覗き、居場所を特定するためだけに新魔術を開発し、

挙句の果てにはこの国には存在しない『理想の工房』を異空間に創造されました」


ミラは一瞬、言葉の意味を理解できなかった。


「……え、思ってたより100倍くらい重い……」


「さらに付け加えるなら、その膝の上の特等席は、

主様が『あの日、彼女を抱きとめていれば逃がさずに済んだのに』と

後悔し続けた結果の産物です。……諦めてください」


「……諦められるのかしら??」


首をかしげるミラに、ゼノスは柔らかく微笑み、羊皮紙を差し出した。


「ほら、サインをすれば楽になれるよ?」


見かねた側近がすかさず口を挟む。


「……主様。ひとまずその、古文で偽装した『終身独占婚姻契約書』は一旦お下げください。

まずは、主様が心血を注いで作り上げられた『あのお部屋』へご案内してはいかがでしょうか?」


ゼノスは不服そうに目を細めたが、やがてふっと表情を緩めた。


「……そうだね。君の新しい『城』を見せれば、きっと気に入ってもらえるはずだ」


「城!? 部屋じゃなくて城なの!? ……あ、でも工房は見たいかも……」


職人魂が、恐怖心に一瞬だけ打ち勝つ。


ゼノスはミラを膝に乗せたまま、ひょいと立ち上がり、異空間へと続く扉へ歩き出した。


「ちょっと、歩けるから降ろして! せめて自分の足で工房に踏み込ませてーーー!!ください!!」

読んでいただきありがとうございます。

よろしければブックマークや評価いただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ