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どうやら帝国最強の魔導卿に捕まってしまったようです


揺れる豪華な馬車の中。


対面に座るゼノスは、恐ろしいほどの美貌に「執着」という名の陰りを帯びさせ、それでいて、嬉しそうに。けれど、決して逃がさないという目で、じっとミラを見つめていた。


「……酷いな。僕をあんなふうに救っておきながら、一度も顔を見せに来ないどころか、街を去ろうとするなんて」


その低く艶やかな声には、数ヶ月分の孤独と熱がこもっている。


普通ならその圧に気圧されるところだが、ミラはパチパチと瞬きをして、本気で首を傾げた。


「……えっ、何のことですか? 人違いですよ、絶対」


「しらばっくれても無駄だよ。あの日、路地裏で僕の手を取ったのは君だろう。

この魔導糸の編み目は、君にしか紡げない」


ゼノスが証拠のうさぎを突きつける。


しかし、ミラは「あはは!」と乾いた笑い声を上げた。


「いやいやいや! 救った人が私なわけないじゃないですかー!

魔導卿様ともあろうお方が、あんな路地裏の試作の魔除けで救われるわけないでしょう?

きっと、もっと徳の高い聖女様か何かが、こっそり私に似た糸細工を置いていったんですよ」


「……本気で言っているのかい?」


「だって、ここ数ヶ月、魔塔には『私が救い主です!』って着飾った令嬢たちが

毎日行列を作ってたって噂じゃないですか。

あんなキラキラした人たちの中に、私が混ざるわけないでしょ。

最下層のド平民ですよ? 私も『へぇ〜、誰が救ったんだろうねー、すごいねー』って

市場のおばちゃん達と話してたんですよ」


ミラは、「自分なんかがそんな大層な人間なはずがない」と、心の底から信じ込んでいた。


「…………」


ゼノスは絶句した。


彼は、彼女が正体を隠して逃げ回っているのだと思っていた。


だが事実は違った。


彼女はあまりに無欲で、自分の才能を「しがない紐編み」だと過小評価していた。


そのせいで、自分を捜査網の外側に置いていただけだったのだ。


(……ああ、そうか。君は本気で、自分の指先が僕の命を繋いだ奇跡だと思っていないのか)


ゼノスの瞳に、暗く、より深い悦びの光が宿る。


自分を特別だと思っていないからこそ、彼女はあの日、見返りも求めず、あんなにも軽やかに僕に光をくれた。


(いいよ。君が自分の価値を認めないなら、僕が一生かけて、嫌というほど教えてあげる)


ゼノスは音もなく座席を立ち、ミラの隣に滑り込んだ。


逃げ場を塞ぐように、静かに、だが確実に腕が回される。


「ミラ。……いいかい、君が自分をどう思おうと関係ない。

僕にとって、僕を救ったのは君のその指先だけだ。

偽物の令嬢たちが何百人現れようと、僕の血を鎮められるのはこの糸だけなんだよ」


「え、ちょっ、近い近い! 圧がすごいんですけど!」


「数ヶ月も放置された僕の飢えを、甘く見ないでほしいな。

……これからは一秒たりとも、自分が僕の特別だということを忘れさせない。

いい場所を用意したんだ。そこから一歩も出さずに、君の指先も、心も、全て僕が独占してあげるからね」


優しく微笑むゼノスに、ミラは必死に抵抗する。


「え? 私、明日から新しいお店を出すんですけど?」


ミラはゼノスの腕から逃れようとした。


しかし彼は、その動きを優しく、それでいて決して離さないという意志を込めて制した。


「ねぇ、名前を教えてくれるかい?」


「ミラです。もし、私が助けたとしてですよ。

そんなつもりで渡した訳ではないのでお気になさらなくていいですよ。

明日からのお店のために遠くに向かう旅にでなくてはいけないので、降ろしてもらえますか?」


自分を恐れず、真っ直ぐに意見を述べるミラの姿に、ゼノスの執着はさらに一段と深まっていく。


「大丈夫だよ。ミラの作品は全て僕が愛してあげるから、心配しなくていいよ」


「えーと。作品を魔塔に卸せばいいんですか?」


ミラの問いに、ゼノスはとろけるような甘い笑顔で答えた。


「ミラ、君はこれから魔塔で暮らすんだよ」


「…………やっぱり檻じゃなーーーい、ですか!!」


馬車は、そんな彼女の絶叫を乗せて、逃げ場のない魔塔へとひた走るのだった。

読んでいただきありがとうございます。

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