どうやら帝国最強の魔導卿の扱いに慣れてきたようです
「……壱号に弐号、挙句の果てに馴鹿まで……。
ゼノス様、センスが事務的すぎます!
こんなに可愛い子たちを番号で呼ぶなんて、許せません!」
ミラは、膝の上でわちゃわちゃと自分を取り合うミニ猛獣たちを制しながら、キッと背後を振り返った。
ゼノスは、ミラの髪に顔を埋めたまま、心底意外そうに瞬きをする。
「……番号では、不満かい?
効率的だと思っていたのだけれど」
「効率じゃなくて、愛着です!」
ミラはビシッと指を立てた。
「よし……今から私が、全員に素敵な名前をつけます!
いい、みんな? 注目!」
その宣言に、膝の上や頭の上の動物たちがぴたりと動きを止めた。
頭の上の鷹は眼光を和らげ、足元の狼は尻尾を振る。
「まず、壱号の虎さんは……ホワイトタイガーだし、強そうだけど可愛いから、『コハク』!」
「……コハク、か」
ゼノスがくすりと笑う。
「僕の『支配欲』が、随分と宝石のように飾られたな」
「次は、弐号の狼さん。ずっとクンクンしてるから、『クウ』!
銀色で空の色みたいだし!」
「クウ……。僕の『渇望』が、空のように広大だとでも言いたいのかい?」
「深読みしないでください!」
ミラはテンポよく次へ進む。
「参号の鷹さんは、頭の上にいるから『テン』。
お空のてっぺんだからテンちゃん!」
「……僕の『独占欲』が、随分と高い場所に置かれたものだね」
「うざい。名前つけてるだけなのに」
そして、トナカイへと手を伸ばす。
「四番目のトナカイさんは……お菓子みたいに可愛いから『チョコ』!」
「……『慈愛』が食べ物になるとは」
ゼノスが楽しげに呟く。
「ミラ、君の感性は本当に面白い」
最後に、胸元のハクを撫でた。
「そして伍号は、もう決まってるよね。
私の一番お気に入り――『ハク』!」
「キュゥ!」
ハクが誇らしげに鳴く。
それを合図に、コハク、クウ、テン、チョコも一斉にミラへとすり寄った。
「わわっ、ちょっと、一気に来ないで!
コハク、重い! クウ、足首舐めないで! チョコ、角が刺さるー!!」
ミラはモフモフとツルツルの波に飲まれる。
「……フフ。ミラ、自業自得だよ」
ゼノスは後ろから抱きしめ、満足げに囁いた。
「名を与え、愛着を示した。
……それは、僕の五つの感情すべてを、君が受け入れたということだ」
ゼノスの腕が、少しだけ強くなる。
「さあ、ミラ。五つの名前を呼び終えたなら……」
耳元で、低く囁く。
「次は、『僕』の名前を呼んでくれるかな?
使い魔を通さず、僕の一番深い場所に届く声で」
「……あ。……そ、それは……その……」
ミラが言葉に詰まる。
ゼノスは、さらに甘く声を落とした。
「さあ、ミラ。僕の名前を呼んで。
でないと……この子たち全員で、一晩中君をペロペロして、モフモフの刑に処すけれどいいのかな?」
――完璧な流れ。
ゼノスの中では、すでに「赤面→観念→名前呼び」の未来が確定していた。
だが。
ミラは、まったく別の方向に飛んだ。
「……えっ。ペロペロはちょっと嫌ですけど……」
一拍。
「もふもふ攻撃……最高じゃないですか……っ!」
――ダイブ。
ミラは、自らモフモフの渦に飛び込んだ。
コハクの腹毛に顔を埋め、クウの背中に手を回し、テンの羽に頬を擦り寄せる。
「コハクの毛並み、最高級のアンゴラより密度高い……!
テンちゃんの羽もふわふわ……幸せ……」
「…………え?」
ゼノスは絶句した。
ミラはすでに、完全に幸せ空間へと没入している。
チョコの首元に頬を寄せ、ハクを抱き枕のように抱え込み――
もはやゼノスの膝の上という事実すら忘れていた。
「……ミラ? 僕の名前、呼んでほしかったんだけれど……」
「……むにゃ。あとで。今は、この毛並みの周期を覚えないと……
クウの耳の付け根……たまらん……」
「…………」
ゼノスは、自分の分身に最愛の女を奪われるという、前代未聞の状況に直面した。
「……コハク。クウ。……僕のミラから離れなさい」
低く威圧を放つ。
だが。
ミラはモフモフの山の中から、幸せそうに顔を出した。
「ゼノス様、そんな怖い顔しないでくださいよ」
ふわりと笑う。
「……この子たちがこんなに気持ちいいのは、ゼノス様の魔力が優しくて、温かいからでしょ?
……ありがとうございます。最高の寝床です」
「…………っ!!」
――撃ち抜かれる。
完全敗北。
困らせるはずが、癒やしてしまっている。
「……ずるいよ、ミラ」
ゼノスは小さく息を吐いた。
「……そんな顔をされたら、もう何も言えないじゃないか」
そして、モフモフの山ごとミラを抱きしめる。
密度の高すぎる温もり。
その中心で、ミラはゆっくりと目を閉じた。
「……おやすみなさい、ゼノス様……
……だいすき、ですよ。……この、毛並み……」
「……最後の一言さえなければ、完璧だったんだけれどね」
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