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どうやら帝国最強の魔導卿と繋がってしまったようです

「……ねぇ、ゼノス様。この子、名前はないんですか?

 いつまでも『トカゲさん』じゃ可哀想だし」


 ミラは、膝の上で丸まり、自分の胸元に顔を埋めているミニ龍の背を愛おしそうに撫でながら尋ねた。


 真珠色の鱗は、触れるたびに淡い虹色に揺らぎ、喉を鳴らすように微かに震える。


 ゼノスはミラを後ろから抱きしめたまま、彼女の首筋に鼻先を寄せ、深く香りを吸い込んだ。


「名前……?

 以前は『伍号』と呼んでいたけれど。

 ……僕にとっては、ただの魔力の端末でしかなかったからね」


「……ご、五号!? ひどい、番号じゃないですか!

 こんなに可愛いのに!」


 ミラはショックを受けたようにミニ龍を抱き上げ、小さな金色の瞳を覗き込む。


「ごめんね、五号なんて。

 ……よし、私がもっと素敵な名前をつけてあげる!」


 少し考えて、ぱっと顔を上げた。


「……あ、純白の白龍だから『ハク』はどうですか?」


「…………」


 一瞬、部屋に沈黙が落ちる。


 帝国最強の魔導卿が作り上げた高位使い魔に――

 つけられたのは、あまりにもシンプルな名前だった。


「ハク、いいよね! ね、ハク?」


「キュゥ!」


 ミニ龍――もとい『ハク』は、嬉しそうにミラの手のひらを舐めた。


 ゼノスはその様子を見て、ゆっくりと目を細める。


「……いいよ。君がそう呼ぶなら、今日からこいつは『ハク』だ。

 ……だが、ミラ。忘れないで」


 ゼノスはミラの手に自分の手を重ね、ハクごと包み込む。


「こいつに名前がついたということは、君が僕の魔力の一部に『愛着』を持ったということだ。

 ……名前を呼ぶたび、君は僕を呼んでいるのと同じなんだよ」


「……え。……あ、そういう理屈になります?」


「そうだよ」


 ゼノスの声が、わずかに低くなる。


「ハクが君に甘える時、それは僕が君に甘えたいという衝動の現れだ。

 ……ほら、今」


 ハクがミラの鎖骨にすりすりと頭を擦り付ける。


 同時に――


 ゼノスの唇が、ミラの耳元に寄せられた。


「……それは、今、僕が君にしたいことそのものなんだ」


「ひぇっ……!

 ハクとゼノス様、動きが連動してるじゃないですか!

 やだ、これ、ダブルでくすぐったい……!!」


「……逃げられないよ、ミラ」


 低く囁く。


「名前をつけてしまった以上、君とハク……そして僕は、もう魂の編み目で繋がってしまったんだから」


「はぁ……そんなもんですか」


 ミラは半ば諦めたように呟いた。


「……ねぇ、ゼノス様。さっき『伍号』って言いましたよね?

 ……番号ってことは、他にも使い魔がいるんですか?」


 ミラはハクを撫でながら、背後のゼノスに問いかける。


 ゼノスはミラの肩に顎を乗せ、楽しそうに目を細めた。


「……鋭いね、ミラ。そうだよ。

 使い魔は、全部で五体いる。……見たいかい?」


「え、あ、はい。……見てみたいかも」


 パチン、と指が鳴る。


 瞬間、空気の密度が変わった。


 四つの魔法陣が、ソファの周囲に展開される。


「おいで。僕の半身たち」


 光が収まった瞬間――


 ミラの視界は、一気に『ミニ野生の王国』へと変わった。


 掌サイズのホワイトタイガーが太ももに乗り、

 銀色の狼が足元で匂いを嗅ぎ、

 小さな鷹が頭の上に着地し、

 ミニトナカイが手のひらに鼻を押し当てる。


 そして、胸元ではハクが威嚇する。


「……ちょっ、ちょっと待って! 増えすぎ!! 定員オーバーです!!」


 ミラは一気に押し寄せたモフモフとツルツルの波に飲み込まれた。


「可愛いよぉ〜……!

 ゼノス様と分かってても……可愛い……!」


 五体は嬉しそうに、ミラへとすり寄る。


「……ゼノス様、これ、全員あなたの意識が入ってるんですか?」


「ああ、そうだよ」


 ゼノスは静かに答える。


「……ちなみに今、君の頭にいる鷹は『独占欲』。

 ……そして、君の腕の中にいる龍は、僕の『愛そのもの』だ」


「……あ、もうダメだ。情報量が多すぎる。

 はぁ……もういいや」


 ミラは完全に処理を放棄した。


 ゼノスは、その様子を後ろから抱きしめ直す。


「いいよ、ミラ。

 君が望むなら、五体一度に愛でてくれて構わない」


 耳元で囁く。


「……ただし、最後には僕本体ここに帰ってきてもらうけれどね」


「……帰るも何も、ここ、ゼノス様の膝の上じゃないですか!!

 逃げ場がないわーーー!!」


 ミラの悲鳴が、ゼノスの私室に賑やかに響き渡る。


 その中心で、帝国最強の魔導卿は満足そうに目を細めていた。


 使い魔たちに囲まれ、膝の上からも逃げられず、名前までつけてしまった。


 ――外堀は、思っていた以上にきっちり埋められている。


 ハクはミラの腕の中で気持ちよさそうに丸まり、ホワイトタイガーは膝の上、狼は足元、鷹は頭、トナカイは手元を占拠していた。


 ミラは完全に包囲されながら、遠い目で呟く。


「……これ、もう『可愛い』を人質に取られてるのと同じじゃない……」


「ようやく気づいたんだね」


 ゼノスの甘い声が耳元に落ちる。


「……君はもう、僕の可愛いもの全部から逃げられないよ」


 ミラは思わずハクを抱きしめ直した。


 その途端、背後のゼノスの腕に力がこもる。


「ひぇっ。ハクを抱いたのに、何でゼノス様の拘束まで強くなるんですか」


「言っただろう?

 その子は僕の一部だ。君が可愛がれば可愛がるほど、僕も嬉しくなる」


「最悪だ……連動式だ……」


 ミラはがっくりと肩を落とした。


 だが、腕の中のハクは気持ちよさそうに喉を鳴らし、頭の上の鷹は髪をついばみ、ホワイトタイガーは太ももに頬を乗せてうとうとし始めている。


 可愛い。悔しいけれど、ものすごく可愛い。


 その現実に、ミラは小さく唸った。


「……あの。ゼノス様」


「何だい、ミラ」


「これ、もう少しだけ……撫でてもいいですか?」


 ゼノスはゆっくりと笑った。


「もちろん。

 君が望むなら、いくらでも。

 ……僕ごと、ね」


「最後の一言がいらないんですけど!」


 ミラのツッコミが響く中、帝国最強の魔導卿は、今日も幸せそうにミラを囲い込んでいた。

読んでいただきありがとうございます。

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