第79話:盤面の死角と、狂犬の囮
ヒュンッ!!
風を切り裂く恐ろしい音と共に、馬の頭部を持つナイトのゴーレムが、盤面を大きく跳躍した。
ズガァァァァンッ!!
着地と同時に、巨大な石の長槍がモルドレッドのすぐ横の石畳を粉砕し、爆発的な衝撃波が小さな三人の身体を吹き飛ばした。
「きゃあッ!」
「痛てェ! 全然スピードが違うじゃねえか!」
モルドレッドが石畳を転がりながら悪態をつく。
先ほどの歩兵とは次元が違う。圧倒的な跳躍力と、盤面を一瞬で詰めてくる機動力。
子供の足では、何度か逃げ切れたとしても、いずれ体力が尽きて押し潰されるのは明白だった。
「アハハッ! さあ、どうするの? ペチャンコになるまで逃げ回る?」
玉座の上で、オベロンが意地悪く笑う。
(……くっ、このままじゃ全滅する。何か、何か盤面に隙はないの……!)
エレンは息を切らしながら、ナイトのゴーレムの動きを必死に観察した。
跳躍。着地。槍の刺突。
その規則的な動きの中で、彼女の気高く澄んだ瞳が、ある『違和感』を捉えた。
「(……白と黒の市松模様。……ナイトが『黒いマス』に着地した瞬間だけ、ほんの数ミリ、石畳が下に沈み込んだ……?)」
エレンの脳裏に、一つの仮説が閃いた。
ここは妖精王の作った盤上。ただの平坦な石畳ではない。あの黒いマスは、一定以上の重量物が乗ると作動する『落とし穴』のギミックが仕掛けられているのではないか。
「モルドレッド! ナイトをあの『黒いマス』が連続しているエリアへ誘導して!」
エレンが、盤面の奥を指差して鋭く叫んだ。
「あァ!? また俺が囮かよ!! ふざけんな、次こそ俺がぶっ壊してやる!!」
「貴方のその短い手足じゃ届かないでしょ! いいから走りなさい、馬鹿犬!!」
エレンの怒声に、モルドレッドは「チィッ!」と盛大な舌打ちをしながらも、ナイトに向かって瓦礫を投げつけた。
ギギギッ! と、ナイトの赤い魔力眼がモルドレッドを捕捉する。
「来いよデカブツ! 馬肉のハンバーグにしてやらァ!!」
モルドレッドが、子供の身体能力の限界を超えた速度で盤上を駆け抜ける。
背後からは、ナイトのゴーレムが地響きを立てて大跳躍し、凄まじい質量の槍を次々と突き下ろしてくる。
ドンッ! ドンッ!
槍の先端がモルドレッドの頬を掠め、金髪を数本切り飛ばすが、彼は恐怖するどころか、死の鬼ごっこに歓喜の笑声を上げて黒マス地帯へと突っ込んでいった。
「エレン、私はどうすればいいの!?」
ベリンダが、大盾を引きずりながらエレンの元へ駆け寄る。
「ナイトが黒マスに乗って体勢を崩した瞬間、私が関節を突くわ。ベリンダは私を背後から思い切り『押して』!」
「押すって……突進の威力を底上げするのね。分かったわ!」
エレンは細剣を両手で構え、黒マス地帯の縁に身を潜めた。
モルドレッドが、指定された黒マスの中心で立ち止まり、ナイトに向かって挑発するように両手を広げる。
「さあ来いよ。ペチャンコにしてみろやァ!!」
その挑発に乗るように、ナイトのゴーレムがこれまでで最も高い大跳躍を行い、モルドレッドの頭上へと巨大な影を落とした。
逃げ場はない。完璧な致死のタイミング。
だが、モルドレッドの口角が、凶悪に吊り上がった。
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