1年
「よっす!今日遊びに行かね?」
「いいよ」
「教科書見せてくれない?」
「いいよ」
「お昼一緒に食べよ!」
「いいよ、」
僕は人間が嫌いだ。しかし、人間に嫌われるのは怖い。毎日毎日毎日毎日、僕は嫌われることが無いように、精一杯努力してきた。そして、それが実を結んだのか、今クラスに僕の事を嫌う人間はいない。と思う。
だが結局、人間が嫌いな事は変わらない。好意、笑顔を向けられる度、僕は不安感に襲われた。人の好意は怖い。しかし人の悪意の方がもっと怖い。
今の自分には大切なものなんてものは無い。この先できる見込みもない。ならば、ここらで終わらせてしまった方が楽なのではないだろうか。この苦しみから開放されたい。どうせなら、学校で終わらせよう。
全員の記憶に深く残った後、自分は無責任に無になろう。そう思い立ち、僕は屋上へと向かった。
「君は......」
「なんで、こんな所にいるのかな?もうとっくに下校時間はすぎてるけど、」
そこには、僕よりも先に、フェンスの向こう側に立っている人物がいた。
「......死ぬのか?」
「ええ、そうよ」
「.........」
「言っておくけど、止めたりしても無駄よ、止めようとしたら、私のポケットに入っている遺書に、あなたの名前も書き足す」
「そんなつもりはないよ、ただ、本当に偶然にも時期が被っただけみたいだ。」
僕はそう言うと、フェンスに手をかけた。
「あなたも、死ぬの?」
「......そのつもり」
「ふーん、まあ、いいんじゃない?」
僕がフェンスを超えると、ふたりほぼ同時にその狭いスペースへ腰掛けた。
「こんな偶然もあるのね」
「本当に、驚きだよ」
そして、しばらくの沈黙の後、僕は思い出したように口を開いた。
「俺が死んだら、悲しむ人間はいるのかな?」
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「......卒業まで?」
「そう、卒業まで」
「随分と、長くないか?」
「そうかしら、今まで耐えてきた時間を考えれば、あとたった1年、短いでしょ?」
「.........たしかに、そうかもな」
あと1年、この1年は好きに生きる。それも悪くないのかもしれない。
ついさっきまでオレンジ色に輝いていた空は、既に薄暗さを纏っていた。