表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/9

1年

「よっす!今日遊びに行かね?」


「いいよ」


「教科書見せてくれない?」


「いいよ」


「お昼一緒に食べよ!」


「いいよ、」


 僕は人間が嫌いだ。しかし、人間に嫌われるのは怖い。毎日毎日毎日毎日、僕は嫌われることが無いように、精一杯努力してきた。そして、それが実を結んだのか、今クラスに僕の事を嫌う人間はいない。と思う。


 だが結局、人間が嫌いな事は変わらない。好意、笑顔を向けられる度、僕は不安感に襲われた。人の好意は怖い。しかし人の悪意の方がもっと怖い。


 今の自分には大切なものなんてものは無い。この先できる見込みもない。ならば、ここらで終わらせてしまった方が楽なのではないだろうか。この苦しみから開放されたい。どうせなら、学校で終わらせよう。

 全員の記憶に深く残った後、自分は無責任に無になろう。そう思い立ち、僕は屋上へと向かった。


「君は......」


「なんで、こんな所にいるのかな?もうとっくに下校時間はすぎてるけど、」


 そこには、僕よりも先に、フェンスの向こう側に立っている人物がいた。


「......死ぬのか?」


「ええ、そうよ」


「.........」


「言っておくけど、止めたりしても無駄よ、止めようとしたら、私のポケットに入っている遺書に、あなたの名前も書き足す」


「そんなつもりはないよ、ただ、本当に偶然にも時期が被っただけみたいだ。」


 僕はそう言うと、フェンスに手をかけた。


「あなたも、死ぬの?」


「......そのつもり」


「ふーん、まあ、いいんじゃない?」


 僕がフェンスを超えると、ふたりほぼ同時にその狭いスペースへ腰掛けた。


「こんな偶然もあるのね」


「本当に、驚きだよ」


 そして、しばらくの沈黙の後、僕は思い出したように口を開いた。


「俺が死んだら、悲しむ人間はいるのかな?」


 ━━━━━━━━━━━━━━━


「......卒業まで?」


「そう、卒業まで」


「随分と、長くないか?」


「そうかしら、今まで耐えてきた時間を考えれば、あとたった1年、短いでしょ?」


「.........たしかに、そうかもな」


 あと1年、この1年は好きに生きる。それも悪くないのかもしれない。


 ついさっきまでオレンジ色に輝いていた空は、既に薄暗さを纏っていた。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ