敗けて北ぐ
「よくぞ参った。貴殿らの加勢、実に嬉しく思う」
以前は冷淡だった朱儁は、今度は天兵がやって来たとばかりに歓迎した。「人公将軍」張梁を攻め、その軍の逃げ込んだ城を包囲したは良いが、この守りを突破して城内に攻め込むには兵力が心許なく、足踏みしていたのである。
包囲を続けている最中も、伝令が朱儁を焦らせる。
ーー曹将軍の追撃に次ぐ追撃により、張宝が討ち取られました。
ーー董将軍は勝利を得られず、敗北を重ね、監察官を呆れさせ、このままでは更迭だと警告を受けました。
こうした報告を受ける度に、自分も早く功を、勝利がなければ首を切られると焦り、城攻めを繰り返すが、どうも芳しくない。
「斯様な状況では、時間を掛けて兵糧攻めをするのが最善でございましょうが、然程時間は掛けられないご様子。朱儁殿、全ての門に衝車を置いて、激しく攻め立てては、背水の陣を構えた敵のように命を捨てて反撃するので、我々の損傷も大きくなります」
「では、どう攻めよと?」
劉備は、そんなことも知らないのか、と言いたい気持ちを抑えつつ続けた。
翌る日。
張梁軍は、官軍の突然の城攻めに、浮き足立っていた。
武装していても、所詮は素人。まして城の防衛戦など、経験は疎か見たこともない。
守ろうと必死で抑える四つの門では、太い閂をへし折りそうな衝車の轟音に、鼓膜が破れそうになる。
城壁の上では、こちらを目指して梯子を掛けて駆け登る敵兵に石を投げつけ、槍で突き落とし、叩き落とし、時にその槍を掴まれて、死ぬ時くらいは敵も味方も仲が良く、同じ槍を握り諸共に落ちていく。
その時、城壁の上で鬨の声が上がった。抵抗を続ける張梁軍へ、敵兵ひとり、守りを抜けて乗り込んだ。城の際から彼らを払い落とし、数瞬生まれた空間に、官軍が吶喊しながら一気に雪崩れ込む。
これは敵わぬと逃げる賊兵。
各々が四方の門を目指してばらばらになって逃げ、その兵の数は増えていく。その中には、張梁の姿も混じっていた。
「報告、報告! 人公将軍、東門は駄目です。衝車の轟音が」
「西門、同じく!」
「報告します! 南門は最早、崩壊寸前です!」
「……ここで私は、死ぬ運命か。天は我らを、お見捨てになった……」
嘆く張梁を、副将が止めた。
「将軍、諦めてはなりません! お前たち! 今こそ、残った全ての力で漢兵を討つのだ!」
その言葉は、全ての黄巾軍を奮い立たせよう。
……が、その戦意の高揚を打ち消す言葉もあった。
「北の門は手薄だ!」
誰が発した言葉なのだろうか。黄巾軍の兵ではない。官軍の言葉だった。
だが、誰の言葉だろうと、関係ない。死中に活を求める無謀な戦いを選ぶよりは、少ない犠牲で逃げた方が良いではないか。
怪しむ者をその他大勢が押し流して、北門に殺到した。おお、敵兵は影も見えぬではないか。
急いで開門し、遅い仲間は押し倒し、踏みつけて逃げる。
張梁軍が半分程城から脱出したそのとき、左右から太鼓の音が響き渡った。城の中から見えないようにと、城壁の陰に隠れていた官軍が一斉に矢を放つ。
献策した劉備も、義軍を率いて賊軍を射殺していた。
その賊軍の中に、部下に守られた将を認めて矢を放てば、喉を貫き、踠きながら落馬した。
「この劉玄徳、張梁を討ち取ったぞ!」
叫べば敵は総崩れ。張梁軍は、ただの一人も残らず討ち取られた。
本文書くよりもタイトル考えるのがしんどい……
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