表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三國演義 多分こんなだったハズ  作者: 遼来来


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/9

賄賂

 朱儁のもとに向かう道中、劉備たちは盧植に出会った。


……但し、なんと盧植は停められた檻車(護送車)の中だった。眼こそ輝きを失ってはいないものの、酷く痩せこけている。その姿は、現代人が見れば日本刀を想起するか。


「一体何があったのですか、先生!!」

 駆け寄る劉備。


 盧植は、堅い木の檻を指の跡の付くほどに握り、唇を噛んでいたのだろう、血の滲んだ口を開いた。

「我々の戦いぶりを視察に来た役人に、賄賂を要求されたのだ。儂が断ると、その腹いせに、儂が怠けて戦わずにいると報告されてこの通りじゃ」


 他の誰がものを言うより早く、張飛が憤慨して言った。

「兄貴たち、早いとこ檻車の兵士達を皆殺しにして、長兄のお師匠様を救い出しましょう!」

 それを聞いた見張りの兵士がこちらを睨むのも構わず、言葉を続けようとするのを、ふたりの兄が必死で宥める。


「そんなことをしては今ここで、先生も我らの首も落とされてしまうわ!」

「張飛、ここは兄上や先生のためにも抑えろ」

「しかし、こんな事があっちゃいけねえでしょう? やっぱりやっちまわねえと……」

「黙れ!」


 遮ったのは、他でもない盧植だった。

「そのような事をして儂が喜ぶとでも思うか? 儂の大切な教え子に追手がかかる事を望むと思っておるのか!」


 その時、休息が終わり、出発の時間が来たのだろうか、兵士達が四人のもとに来て、劉備たちに離れるよう言い、檻車は劉備たちのもとを去って行った。


「私とて、悔しくない筈があろうか。先生への気持ちで胸が張り裂けそうだ。黄巾で忙しい時に、何と愚かなことをしているのか……」

「……兄上、朝廷にも、多少は心が清い者が居る筈です。その者が先生の冤罪を晴らしてくださる事を祈りましょう」

「この世はどうなっていやがる。優れた者が虐げられるのかよ……」

残された三人はその場に立ち尽くし、すぐには動き出す事ができなかった。



 翌日、そろそろ日も落ちそうな頃。


 朱儁の下へ向かう劉備たちは、()()()()官軍を追撃するところに出会った。

「兄貴、久々に大暴れしましょう!」

色々とストレスの溜まっていた張飛が、真っ先に言った。

「ふむ、官軍が敗走しているのは初めて見たな。お前たち、手強い相手だ! 十分に気を引き締めて掛かれ!」


 劉備の号令一下、五〇〇の兵士達が一斉に黄巾軍に襲いかかり、両軍入り乱れての乱戦を演じる。


 ……かに思われたが、あっという間に賊軍を蹴散らしてしまった。


「何とも拍子抜けだな……官軍と黄巾軍で、兵数も差はほとんど無かった筈だ。こんな相手に官軍が追われていたのはどういう訳だ?」

 その時、官軍から一騎の兵士が駆けてきた。朱の剥げた兜に、砂埃に塗れた戦袍を羽織った兵士だった。

「董将軍がお会いになるそうです。こちらへ」

 三人は顔を見合わせた。


 兵士について行きながら、ひそひそと言葉を交わす。

「俺たちにも、ようやくツキが回ってきましたね」

「滅多なことを申すな。聞かれたらどうするのだ」

「ふふふ、そう言う兄上も、笑みを隠しきれておりませんぞ」




 董将軍は、筋肉の上に贅肉で厚着したうえ、上等な服に玉帯を締めた男だった。

「儂がこの軍を任されておる董卓である。あー、お前たちの名は、そして官職は何か」

 態々儂が会ってやるのだ、早く申せと言う気を隠そうともせず、フンと鼻を鳴らし、気怠げに誰何した。

「私は劉備、字は玄徳と申します。官職はなく、我ら五〇〇名、黄巾討伐のために立ち上がった者たちでございます。こちらのふたりは」

「ああ、よいよい。何だ、只の義軍か」

 董卓は、再びフンと鼻を鳴らした。

「何故こんな義軍如きに儂の時間を割かねばならん。儂が会うに相応しい者だけを通さんか」

 砂埃を纏った兵士にそう言うと、そのまま奥に引っ込んでしまった。

 顔を見合わせる三人の横から、何をしている、早く去れと、斑の無い紺一色の長袍を着た側近の声がしている。



「一体どうなっているんだ、この世は! 能のある人物が捕まって、あんなのが将軍を務めるなんて」

「賄賂を受け取って人事を操る奴がいるから、黄巾がでかい顔をできるのだ」

 張飛も関羽も不満顔である。

 劉備は苦笑いして言った。

「まあ、そう言うでない。我らが立ち上がったのは、民のために、その黄巾がのさばる世に平和を齎す一助とならんとしてのことではなかったか。官職など、その内自然と付いてくる。さあ、気を取り直して、再び朱儁殿の下へ出発だ」


 歩を進める彼らの姿を、浮かんだ星が微黄に照らしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ