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プロローグ
後漢も末のことである。
四〇〇年をこえる歴史を持つ王朝もすっかり衰え、疫病や天災に民衆は疲弊し、役人が口を開けば「金、金」と、賄賂の横行する時代となっていた。
張角という男がいた。
弟の張宝・張梁とともに暮らしていた。
ある日、彼が山菜を採りに山に入った時のことである。
「そこの者よ」
声のする方を向くと、老人がいた。
「どちら様で」
「儂は南華老仙。張角よ、天に代わり世を救うのだ。そのためにこれを授ける」
「三巻の書……太平要術……?」
「そうじゃ。これをもって民を救え。ただし悪用すれば必ず報いを受けることになろう」
そう言うと、南華老仙は消えてしまった。
張角はこれを持ち帰り、三兄弟で修業を経たのち、ついに術を得た。
その頃流行りだした疫病を祈祷を施した水で治療し、張角は自らを大賢良師と称し、太平道の教祖として信者を集めていった。