優しくね
ひだまり童話館 第35回企画「ゆらゆらな話」参加作品です。
ゆらゆら
ゆらゆら
この気持ち、何だろう。なんだか気持ちいい。
何かが聴こえる。ずっと聴こえている。何だろう。心地いい。
あ!
「おぎゃあ!」
「産まれました! 女の子ですよ!」
え、何? 何? ここはどこ? さっきまで、ゆらゆらしてたのに。
「よく頑張ったな……」泣いてるような低い声。
「……うん」疲れたような高い声。
何だろう。聴いたことのある「音」。ゆらゆらしていた時に聴いた「音」。優しい「音」が近くで聴こえる。
わたしは「産まれた」らしい。最初に聴いた「音」は「声」。お父さんとお母さんの声。とても優しい声。
お父さんとお母さんは、声だけでなく、優しい。そんな二人を困らせたくはないけど、あれが食べたい! 遊びたい! そんな気持ちがあふれて泣いてしまう。そんな時、お父さんとお母さんは、わたしを抱き上げて、ゆらゆらと揺らす。そうすると眠くなって、寝てしまう。赤ちゃんは、よく眠るんだって。だからわたしも、ゆっくり眠る。でも、起きたら、また泣いてしまう。
そんなある日、お父さんがおみやげを持って帰ってきてくれた。「それ」を、ゆらゆら、ぶらぶら。
わたしは、目をぱちくりとする。
「泣き止んだぞ」お父さんは嬉しそうだ。
「本当ね。気に入ったのかしら」お母さんも嬉しそう。
でも、「それ」は、嫌がってるよ。
『ぶらぶらでもゆらゆらでも、どっちでもいいから、やめれ!』だって。
自分のことを「猫」って言ってたよ。お父さん、お母さん。その「猫」を下ろしてあげてね。