王宮の闇③
王宮内の食堂に到着し
リンドは食堂内に置いてある大きな時計を見る
すると時計は正午過ぎとなっており
食堂は多くの兵士使用人で溢れている
カツカツと
厨房との境にあるカウンターへ向かい
厨房でせっせと働く内の一人、
顔見知りの小太りな女性に声を掛ける。
「おばちゃん!飯頂戴!」
するとリンドに気付いた女性がリンドに話し掛ける
「リンド殿下じゃないか!珍しいわね」
思った数倍大きい声で返事をされ
リンドも少し驚くがなんとか平静を装う
「ひ……久しぶりっ!相変わらず元気だね」
食事のおばちゃんは、
テキパキとリンドの食事を用意しながら
「今日はフラウちゃんはいないのかい?」
と作業をする背中で語る
本来であればこのような口調も無礼にあたり
処罰の対象となることもあるが、リンド基にしておらず
また他の貴族達も気にした様子はない
これはこの食堂のおばちゃんの
人柄によるものであろう
「フラウは姉ちゃんの結婚式だって」
リンドにとっても気負わず話が出来る相手ということもあり心地よく思っていた。
「そうだったのかいそりゃめでたいね」
そう言いながらカウンターにリンドの食事を出す
「でも良いのかい殿下、私等みたいな下々の物と飯なんか食って、言ってくれりゃあ運ばせたのに」
とカウンターに大きな腕を乗せ
リンドを気遣う言葉を掛ける
「いいって!皆と食べるのは結構楽しいし」
彼にとって食事は一人でするものだったが
ここに来ることで間接的に皆と食べることが出来る
それが寂しさを少し埋めてくれるような気がしていた。
そして食事の乗ったトレイを運び
適当に空いた席を見つけ腰掛ける
フォークで干し肉を突き刺し口に運ぼうとした時
「殿下、いらっしゃったんですね」
そういいながら『キャッスルガード』の新人だった男が向かい側の席に腰掛ける。
男は他の『キャッスルガード』に比べると小柄ではあるものの端正な顔立ちと短い金髪、
そして体幹の良い歩き方から女性に人気が出そうな佇まいをしている
——名前なんだっけ……この前師匠にボコられてた人
リンドが考えていると
「イオスです。覚えていなかったでしょ?」
イオスと名乗った男が笑いながら言う
「そうだった!ごめん忘れてた」
リンドは素直に謝り
一緒に食事をとる
その間、イオスはずっと喋り続け
喋りすぎだろとリンドも思うが悪くない空気の中食べすすめる二人だった。
そして
出された食事を二人が終えようとした時
食堂の入口付近が騒がしくなり
気になったリンドがその方向を見ると
食事をしていた者達が次々と立ち上がっていくのが見えた
そして
その波は少しずつこちらの方へ向かって来ているように感じ、リンドは少し嫌な予感を覚える。
そして二人は、向かってきているものの正体をほぼ同時に知り
イオスはすごい勢いで立ち上がり
片やリンドは嫌な顔をしながらも食事を続ける。
「レオ殿下!!」
イオスが少し上を向いて声を張る
それと同じくリンドが
——はぁ……何のようだよコイツ
と心の中で思う
するとリンドを見つけ、悪い笑みを浮かべたその男がリンドに近づく
後ろには従者を2人を従えている。
「これは兄上どうされましたか?」
リンドは必死に笑みを浮かべる
笑顔はやや引きつっておりぎこちない
しかしリンドの様子に気付いてか気付かずか
レオと呼ばれた男がリンドに話し掛ける
「母親殺しがなぜここにいる?」
短い言葉にも悪意が詰まっており
周囲の者たちもそれを感じ取る
当然リンドもそれを察するが
「食事をしております兄上」
と笑顔で返す
しかし内心では
——はぁうっとおしいなぁさっさとどっか行ってくれよ
と思っている
「何をヘラヘラしている?忌み子が!コイツらもお前のようなやつがいると気分が悪くなることだろうよ!」
レオは皆の方を向き
「お前らもそう思うだろ!!」
と声を張り言う
しかし、答えられるものは誰もおらず
皆起立の姿勢を保ったまま戸惑っている
それもそのはずで
ここでどちらかの王子に肩入れする事は
今後の王位継承のゴタゴタに自ら足を踏み入れるという事
ましてやこの食堂にいるものの殆どは平民や下級の貴族であり、
大きな権力に押し潰されるのは何としても避けたかったのだ
しんと静まり返る食堂内
「そこの『キャッスルガード』の男はどうだ?お前もさぞ迷惑しているだろう」
今度はイオスに振るレオだったが
「いえ!リンド殿下とは訓練も共にする身、恐れ多くもそのようなこと思いも致しませんでした。」
真っ向から反対する意見を馬鹿正直にぶつけ
周囲をざわつかせる
これにはリンド自身も驚いたが
イオスという青年の事が少し分かった気がして笑みが溢れる。
「もういいでしょう兄上、皆が困っております」
そう言いリンドは立ち上がる
そしてトレイを持ち上げその場を去ろうとする
すると
バァン!!
トレイが食器ごと飛び散り
器が床に落ち砕け散る。
「なぜ勝手に行こうとしている!」
レオの弾いた手でリンドがトレイを落とした音であった。
リンドはなにも言わず座り込み割れた破片を集める
集めた破片をトレイの上に乗せていっていたが
取り巻きの男がレオの命令で蹴り飛ばす
再び散らかる破片
——この糞餓鬼共っ
そう思ったリンドが次の瞬間
「……無礼者が」
言うと同時に内魔法『ストレングス』を発動
トレイを蹴った取り巻きの男の足を右腕で瞬時に引き
左手で腹の辺りを押し込む
すると男は倒れ込み
背中から仰向けの状態になる
嫌がる男の上へ馬乗りになり
首元へ、
先程まで使っていたフォークを突き立てる
そして
「我、ヴァルハルト王国第2王子リンド・ヴァルハルトが……」
そこまで言うと
何かを察したレオが発狂しだす
「貴様ぁぁ!俺の臣下に対してどういうっ!」
しかし
リンドは無視し続きを話す
「汝を王族への不敬罪により……」
倒れ込んだ男が目を見開いてリンドを見る
「……死刑に処す」