王宮の闇②
フラウを見送った日から一日
リンドは早速、
ルースが手配してくれたホウジョウ家の所有する
『会鳴烈身流』の書物に目を通していた。
この書物は
『キャッスルガード』団長のリカード・ホウジョウの私物であり
家に伝わる書物の複写本とのことであった。
——この流派、スカウト系の魔法が多いな
リンドの第一印象はこのようなものであった。
書物にある魔法は4つ
壱ノ段 瞬身
名前こそ違うものの『ストレングス』と同一であり
特徴としては、
足腰、体幹を強化し一瞬の内に間合いを操る事を目的とされている。
弐ノ段 極身
五感に魔力感じる力を含めた6感を強化する魔法で
追跡の際に利用するもの
参ノ段 透身
体を半透明化させ姿を消す魔法
透明化させた際著しく視界が悪くなるので弐ノ段との併用が前提のもの
そして
段数不明 烈身
魔導管から加工したマナを逆噴射させ
刃と化す魔法
この書物には
実際に対峙した当時のホウジョウ家の者が
『其ノ五体、正二名刀ノ如く』
と記しているのが見て取れる
ここまで読んでリンドは少しがっかりする。
—―攻撃技が全然ない……というか地味だ……
魔法と呼ぶには地味なものが多く
唯一破壊力のありそうな『烈身』はルースに禁止されている
それにもう一つ
リンドには、気になることがあった。
—―技も全て記録されているわけではないな……
ルースの弁では
流派には5~10の技があると言っていた。
しかし
書物には4つしか記載がないことから
まだ技が隠されているということに気が付く
—―『烈身』ですらルースに凄まじい技と言わしめるのだ、続きがあるならぜひ学びたい
そう考え始めると
良くない好奇心がリンドに生まれだす
それは
——マナを加工して逆噴射させるって事だよな……
ルースに禁止されたとはいえ
この好奇心は次第に大きくなり
止められなくなってくる
「やって……みるか」
リンドは記述に従いイメージする。
そして大きく息を吸うようにマナを周囲から取り込んでいく
この状態は通常の内魔法の基礎工程である
そして
体内に取り込み『魔臓』と呼ばれる臓器でマナを加工する。
この状態でいわゆる『詠唱』を行いものもあるらしいが
比較的、内魔法の流派には少なく
『烈身』にも『詠唱』の記述はない
そこで
起こる現象から逆算し
おおよそでリンドは加工を行う
「こんな感じかな……」
目を閉じ
集中したリンドは確かな手ごたえ感じ
「いける」
心の中の声をそのまま口に出し
手始めに右腕通しマナの噴出をイメージする
そして
力を込めた瞬間
激痛に襲われる
「がぁ!!あああああああ!」
ガシャン!!
ガラスが割れ
何かが崩れる音がする
しかし
——痛い痛い痛い痛い!!!
腕を上げうずくまるリンド
しかしマナの噴出は止まらず
腕をもぎ取られたような痛みから思考も鈍る
気絶しそうな意識で右腕をみたリンドは
『烈身』により噴出したマナが刃となり
倒れこんだ拍子に
いつも使っている机が真っ二つに裂けているのが目に入った
——これ……は、まずい……
すぐに魔法を解除しようと
もう一度分断した意識をマナの制御に統一し
力一杯
マナの噴出を止める
次第に出ていくマナは小さくなり
痛みも引いていくのが分かる
そこでようやく
落ちついたリンドは深呼吸をし
床に仰向けで寝転がる。
「これは……やばいな」
あまりの反動の大きさに
次第に後悔し始めたリンドであったが
同時に戦いに於いて
強力な武器になることは確信し始めていた。
しばらく床に横になっていた後
時刻が既に正午を回っていることを太陽の位置から確認したリンドは
ムクりと起き上がり
自分の空腹に気が付き
食事にしようと考える
「ああそっか……今日フラウ居ないのか」
そのことを思い出したリンドは
王宮の食堂に向かうことにする。